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足跡  作者: 皐和
第二章/小学生と一匹わんこ、見参なり
6/11

その六/時代を越えて

──それは、朝方での事だった。



「ふぁ~。いい朝だなー」



一人の男が顔を洗いに井戸へ向かう。


まだ寝ぼけ眼で、大きなあくびをした。


だからすぐには気付かなかったのだろう。


目の前に広がる光景に。



「んんー?」



いつもとは何かが違う井戸の中。


もっとよく見ようと、男は身を屈ませた。


すると、眠くて重く、今にも閉じそうな目が大きく見開かれる。


と同時に……



「でっ、出たあぁぁーっ!」



男は地面に勢いよく転び、悲鳴にも近い叫び声が、あたりに響きわたった。


グラグラと、建物が上下左右に大きく揺れそうだ。


当然、その声のせいで目を覚ました者は少なくないだろう。


そして、その声に起こされてしまった気の毒な男がやって来る。



「うるさいなぁ、何叫んでるんですか。原田さん」


「そ、総司!ちょうどいい、助けろ!座敷童子だっ!」



原田はさらに大声で叫ぶ。


総司と呼ばれた男は、は?という明らかに不機嫌な顔で井戸を覗きこんだ。



「……うわ」



しかし、中を少し見た途端、すぐに顔を遠ざける。



「な?いるだろ?座敷童子!」


「どう見ても普通の子供じゃないですか。座敷童子とか、言い方酷くないですか?で、この子どうするんですか原田さん。僕は知りませんよ」


「お、俺も知らねぇって!どうすんだよ!てかお前、子供好きじゃねーのかよ?」


「好きですけど……」



総司……沖田総司は、曖昧な表情を浮かべた。


ため息をつくと、沖田は再び井戸の中を覗く。



「……こんな、ずっと水の中に入ってちゃ風邪も引きますよね」


「どうするんだ?」


「……あの。原田さんが見つけたんですよ?何で僕に任せるんですか」



そんな事を話していると、さらに何かがいる事に二人は気付いた。


二人そろって、ぎょっとして目を見開く。


そこには、茶色くて、子供の隣に小さく丸まっている何か。



「犬までいるぞおい……」



原田は呆れたようにため息をつく。


しばらくの間、妙な沈黙が流れていった。


沖田は仕方なさそうに、井戸の中に入ろうと足を跨せた。


「ほっとくわけにもいきませんし……。原田さん、手伝って下さいね」




──……

───……



暗い。


瞼が重くて、開かない。

体が重くて、動けない。


ここはどこ?


池の中に入ったから、こんな事になったの?


ぽんたは?



「寝てろ」



微かにそんな声が聞こえた気がしたけど。


……違う。


今の状況を、僕は早く確認したいんだ。


もしもタイムスリップしてなかったら、病院?


お父さんとお母さんが、側にいてくれるのかな。


今の声は男の人だけど、お父さんの声は、そんなに低くない。


……もしも、タイムスリップしてたら。


僕はどうなるの?


側にいる人は、誰?


不安で不安で……何か重いものに、押しつぶされそうだ。


……何で?


お母さんやお父さんと話したくなかっただけなのに、何でこんな事になっちゃったの?


もう……嫌だ。


嫌だ、嫌だ……怖いよ。


変な時代に行ってたらどうしよう。


殺されたらどうしよう。


現代では僕、行方不明になってるのかな。


……お父さんとお母さん、探してくれてるのかな。


そんな事を考えながら、僕はまた真っ暗闇の夢の世界に沈んでいった。





──……

───……



「……」



やっと僕の瞼が持ち上がる。


だけど……。


真っ先に視界の中に入ってきたのは、木造の天井だった。


……もしかして、誰かが助けてくれた?


それともまさか、タイムスリップ、本当にしちゃったのかな。


そんな事を考えていると、ふわりとした物が僕の顔に当たった。



「あ、ぽんた……」



僕の横で丸まって寝ているぽんた。


さっきのは多分しっぽが当たったんだ。


良かった……。


無事だったんだ。


僕はほっとして胸をなでおろした。


ぽんたは小さくあくびをすると、再び眠りに落ちていった。


でも……ここ、どこ?


誰かいないのかな……。


その時だった。


カラッと乾いた音がして、襖が開く。


そして……一人の男の人が、中に入ってきた。

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