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足跡  作者: 皐和
第一章/もう一つの夏休み
5/11

その五/行くのは過去?未来?

鹿は、僕達を乗せたまま、ずっと走っていった。



そして──。



三十分くらい経った頃。鹿が足を止めて、低い態勢になったから、僕はゆっくりとおりた。



「ありがとう、鹿さん」



本当に、君のお陰で、大分遠くまで来れた。鹿は僕らに背を向けると、森の中に紛れていった。


……それにしても、ここはどこだろう。ぽんたも、不思議そうに辺りを見回している。



《03:16》



結構時間経ったなぁ。ここまで来れば、家からも相当離れているよね。腕を上げて、少し伸びをする。



「よし、行こう。ぽんた」



そうして、歩き出した。……のだけど。



「あれっ……」



足元に大きな木の板が落ちていて、不思議に思ってそれを拾う。何だろう、これ。土がかかっていて、よく見えない。また地面にそれを置いて、土を払う。


……すると。



『この先すぐ、“青い池”』



そんな文字が、出てきた。思わず笑顔を、ぽんたに見せる。



「やったぁ、もうちょっとだよ!ぽんた!」



嬉しくて、疲れも一気に飛んでく気がする。足を弾ませながら、僕は再び、歩き出した。



そして、それから数分後の事だった。木々の隙間から、青い何かが見えてきたのは。ドキドキしながら、歩みを進めていく。きっとあれだよ、青い池。少しずつ、足元の枯葉が、貴緑色の綺麗な葉っぱに変わっていく。たくさんある木の枝を掻き分けて……。



「着いたー!」



ついに、到着した。





本当に、空よりも、海よりも、地球よりも……。



青い池。



そこに飛び込めば、タイムスリップ出来るんだって。



期限は一年間。



でも、過去か未来、どっちに行けるのかは、飛び込んでみてからのお楽しみ──。




そんな言葉が、頭の中を過ぎっていく。




小さくも大きくもない、青々としたその池は、月の光に照らされて、すごく神秘的に見えた。池の周りに生えている色とりどりの草花。本当に、おとぎ話みたいだ。



「ぽんた、ちょっと待っててね」



ぽんたを地面に降ろした僕は、ニコニコしながら、さっそく使い捨てカメラを取り出し、カシャッと一枚収めた。


……すごい。こんなに綺麗な景色、初めて見た。


目の前に広がる光景。夢じゃない、よね。頬っぺたを軽くつねってみる。……痛い。現実だ。



本当に、青い池に来れたんだ!



嬉しくて嬉しくて、たまらない。問題は、これからどうするか、だけど……。



本当に飛び込んじゃう?どうする?自分。



だって、どこに行けるか分からないんだよ。その前に、タイムスリップ出来るかすら微妙なんだから。



その時、不意に、お母さんとお父さんの顔が脳裏に浮かぶ。もしも本当にタイムスリップしたら、一年間も会えないけど……。



でも、会いたくない。僕は悪くない。



そんな事を考えていた時だった。



──ドポンッ!



「……え?」



音源は……多分、青い池。あれ?何が落ちたの?僕のリュック?カメラ?


……いや、それらは全部足元にある。嫌な予感がして、恐る恐る、池に顔を向けた。



「──ぽんた!」



池からは、茶色くて小さな手が僅かに見えていた。慌てて駆け寄るけど、遅かった。じたばた暴れるその手は、やがて池の中に、吸い込まれるように消えていく。



ぽんたが溺れた……助けないと……!



僕は、迷わず池に飛び込んだ。タイムスリップとか、そんなのはもう頭になかった。あ、リュックとか置いてきちゃった。だけど今は、ぽんたを助ける事が先決だ。冷たい水の中を泳ぐけど、なかなかぽんたに手が届かない。しかも、池の奥深くへ、ぐいぐいと引っ張られている感じがする。息が出来ない。苦しい。気が遠くなっていく。ガポッと、水を飲み込んでしまい、そして吐いた。やっぱり来るべきじゃなかったのかな?こんな事に、なるなんて。ぽんたを守るって決めたのは、僕なのに……。だんだん、意識が薄れていく。視界が真っ暗になり、力もなくなっていく。



その瞬間──。



真っ暗な頭の中に、カチカチカチ……と、何かが出てきた。まだ意識はなくなってないけど、何だろう……これは。目は瞑った状態で、それをもっとよく見ようと意識する。……あぁ、やっと分かった。数字だ。数字が、スロットみたいに回っているんだ。えっと……八桁ある。カチッと音が鳴って、一番左の数字が止まった。




《1》




次の数字も。




《1》《8》




その、次も。




《1》《8》《6》




次も、次も──。




やがて、八桁の数字が、頭の中に並んでいく。






《1》《8》《6》《3》《0》《7》《2》《6》






何だよ、これ……。意識が朦朧として、頭が回らない。ごめんね、ぽんた。助けてあげられなくて……。



──僕はついに、意識を手放した。

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