#7
突き飛ばされた衝撃でコンタクトレンズが外れてしまった。
(こ、コンタクトが落ちたぁーーー!)
やばい、なんにも見えない。
ほとんどすべてのものがぼやけて見えるだけで、まったくピントが合ってない!
ただでさえ青髪さん機嫌が悪いのに迷惑なんてかけようものならもっと機嫌悪くなってしまう。
なんとしても、なんとしてもそれだけは避けたかった。
帰りの車どころかせっかく就職できた会社にすら居づらくなってしまう。
ちょっとパニックになりつつある自分を落ち着かせる為に深呼吸する。
ちょっとだけ落ち着けた。
いつまでも転んだ状態ではいけないので立ち上がる。
ちょっと周りの人に協力してもらおう。
なに事情を話せば手伝ってくれるさ、手伝ってくれるよね。
「すいません、ちょっと動かないでいただけますか」
声をかけたが周りに反応は無い。
ちょっと声が小さかったかな?
あんまり大声でいうと青髪さんに気づかれるし…。
どうしようかと唸っていると影が動くのが分かった。
ちょ!コンタクト割れちゃうって!
「動くな!ちょっとでも動いたら大変な事になるぞ!」
(俺のコンタクトが割れちゃうんです!)
思わず大声が出てしまった。
なんたる失態、青髪さんに気づかれたかも…。
だが大きな声をだして正解だったようだ。
近くにいた人が気づいてくれたみたい。なんて親切な人!
「おい!てめぇこいつが見えねぇのか!」
はい。まったくもって見えません。
ちょっとガラは悪そうだけど俺が見えないってのが分かっているみたいだ。
ひょっとしてあなたもコンタクトを落として困った事があるんですね!
ちょっと親近感。
やっぱり慣れないコンタクトになんてするんじゃ無かったかな。
おっとそうだ、返事しなくては。
「あぁ見えないね」
しっ、しまったぁ!
ガラの悪そうなあんちゃんなのかななんて思っていたらこっちも釣られてしまった。
せっかく手伝っていただけそうなに気を悪くしてないといいが…。
相手の表情を確認しようと目を凝らしてみるがやっぱり視界はピンボケ状態。
こりゃ相手を確認するどころかコンタクトを探すのすら難しい、いや無理だな。
調子にのってコンタクトデビューだなんて思うんじゃなかったよ。
今更後悔したってしょうがない。
さてコンタクト、コンタクトと…。
探そうと思って少し屈んだ時に気づいた。
う、動けない。動きたくても動いたらコンタクトを踏んで割りそうで迂闊に動けない。
声をかけようにも相手が怒ってたらどうしようと考えてしまい声をかけづらい。
正直に事の次第を話せば分かってくれるだろうか。
あーだの、こーだの島崎が考えている時現場は異様なほど静かな時が流れていた。
(はっ!そうだった)
冷静になって考えればなんの事は無い、上着の内ポケットに眼鏡を入れていたじゃないか。
内ポケットに入れた眼鏡を取り出そうと右手を上着の内側へと滑り込ませる。
手探りでポケットの位置を確認するとやっとの思いで眼鏡を掴めた。
普段どれだけ視力から得られる情報を頼りにしているか分からされた瞬間だった。
眼鏡を掴んだ手を取り出そうとした時だ。
「ま、待ってくれ。ここ…これはモデルガンなんだ、本物じゃない。ほほ…ほら」
ん?モデルガンですと。
聞き間違いだろうかなんでそんな話になっているだ。
急に何事かと思えば一気に周りが黒くなる。
正確に言うと黒い影がモゴモゴと動いている。
ピンボケした目ではなにが起こっているか分からない。
ひょっとして皆でコンタクト探してくれてる?
そんなに大勢で探してくれるのはありがたいですが、なんか申し訳ない気持ちでいっぱいです。
でもそんなに密集されるとコンタクト踏まれそうで怖いんですが。
せっかく手伝ってくれているのにコンタクト踏まないでなんて言えないしなぁ。
とりあえずは眼鏡をかけてからかな。
ポケットから取り出した眼鏡をかけると視界がクリアになる。
見えるって素晴らしい事だよね。
だが人は視力から得られる情報に頼りすぎている為、自身の理解の追い付かない状況を見ると混乱してしまうのである。
コンタクトを落とし、眼鏡をかけるまでのほんの数分だったと思う。
しかし周りの状況はその数分の内に一変していた。
「え?何があったんだ…」
青髪さんと警備員さんがそれぞれ男を取り押さえているし、俺の足元には拳銃が2丁ある。
まったく状況が読み込めなかった。
この数分間に何があったのか誰か教えてくれないだろうか。