#6
―青髪さんSIDE―
目だし帽を被った二人組の強盗が拳銃を発砲し店内に銃声が響きわたる。
「お前らおとなしくしろ!下手なまねしやがったら命は無ぇぞ!」
強盗は拳銃で威嚇しながらカウンターへと向かう強盗。
カウンターにいた店員に鞄を投げつけ商ケース内の宝石を詰めるように要求した後、近くにいた一般人を人質にした。
店内にも警備員はいたが相手が拳銃を持っているので迂闊には動けない状況。
しかも強盗犯は二人組ときた。
他にも仲間がいるかもしれない状況では下手に動く訳にはいかないし、人質もとられてはなすすべがない。
手慣れた犯行からここ最近ニュースを騒がせている武装強盗とはこの二人組の事だろう。
迂闊だった。
突然のボス命令だったのでなんの準備もしないで来てしまった。
せめて必要最低限の装備は整えてくるべきだった。
こうなったのも全てあいつが悪いんだ。
初日早々遅刻してくるわ、あたしを見るなり逃げようとするわ、まったく最悪の一日になっちまったじゃねぇか。
元軍人だっていうから期待してみれば実物はなよなよしていてほんとに男かって疑いたくなるくらい締まりがない。
どこのお坊ちゃんだよ。
気が付けば強盗への対処よりに新人に対する不満ばかりになっていた。
いかん、いかん。あたしは千華の社員、目の前の事に集中しねぇと。
何か手はないかと考えていた時だった。
以外な所から声がしたのは。
「動くな!ちょっとでも動いたら大変な事になるぞ!」
あの新人が強盗に向かって言っているではないか。
まさか拳銃を持った相手に素手で挑もうとでもいうのだろうか。
いったいなんの冗談だと思っていたが…。
「おい!てめぇこいつが見えねぇのか!」
強盗が新人に銃口を向ける。
いつ発砲してもおかしくない状態だったが新人は
「あぁ見えないね」
目の前の拳銃に臆することはなかった。
どうやら見かけとは裏腹に度胸だけは一人前のようだ。
だが度胸だけで物事は解決できやしない。
勇敢さと無謀さはまったく別物。
冷や冷やしながら事の一部始終をみていたが別の意味で冷っとさせられた。
あの新人が射殺せそうなほどの鋭い眼光で強盗を睨んでいた。
その恐怖に拳銃をもった強盗が後ずさる。
―強盗SIDE―
「やべぇよ兄貴、あいつの目…」
「何者なんだ…」
二人組の強盗はなにやらヒソヒソと話していたがとあるニュースが頭の隅を過ぎった。
『近年急増する武装強盗への対抗として銀行や宝石店などでは民間軍事会社を雇って警備に当たらせる店舗が増えてきているようです。実際雇った店舗では防犯面でかなりの効果を発揮しているとの声が聞かれ――』
この強盗、世間で自分たちの事がどれくらい騒がれているか確認する為にこまめにニュースをチェックするという情報収集に余念の無い性格をしていた。
その時目にしたのが強盗への対抗策として紹介されていた民間軍事会社の話。
その時の事を思い出し強盗達は驚き、慌てた。
強盗犯が驚くのも無理はなかった。
事前に下調べを行い、ただの警備員しかいないという事を把握したうえで今回の犯行に及んだ。
だが実際は目の前にいる。
それも拳銃を見てもビビらないどころか、射殺せそうなくらい鋭い眼光で睨んでくる男。
まさに軍人とでもいえる人物が目の前にいるのだ。
ひょっとしたら他にもこんな奴がいて自分達を殺すチャンスを伺っているのかもしれない。
そんな恐怖が強盗を襲った。
民間軍事会社が警備などに着く場合は武力行使が認められている。
しかしそれは生命が危険にさらされた時の防衛手段としてのみ許可されるのだがすでに拳銃を発砲している今、その条件に当てはまってしまう。
もしかしたらこの男は手元にナイフとか拳銃を隠し持っていてこちらの動きを伺っているのかもしれない。
今にもナイフや銃弾が自分たちに向かって飛んでくるのではないか。
そして、それが自分たちの命を簡単に奪ってしまうのではないかと、初めて感じる死の恐怖に強盗は慌てる。
拳銃を握った手がプルプルと震え、歯がガチガチと音をたて震えている。
今まで絶対的に優位な状況で犯行を繰り返してきた強盗にとって想定外の状況だった。
「あ、兄貴。どうしやすか」
「狼狽えるな、こっちは2人だ。それに銃だってある、も…問題ねぇ」
「でも、でもよぉ兄貴。絶対あ―」
ヒソヒソと会話していた強盗達だったが弟分と思われる方の強盗が目を見開くと口をパクパクとさせながら後ずさる。
豹変した様子を不思議に思った兄貴分の強盗が目線を前へと向けると同じ様に口をパクパクさせながら後ずさった。
すでに弟分の強盗は腰を抜かしたようで尻餅を着き立てない状況だ。
なぜそうなったのか。
答えは簡単だ。
あの鋭い眼光の男が上着の内側に右手を入れ何かを取り出そうとしていたからだ。
強盗達の脳裏を過ったのは拳銃である。
自分たちの銃が偽物でモデルガンだというのがばれていると。
本物じゃないからあそこまで強気でいられるのだと。
民間と言えど軍事会社、銃声1つで本物か偽物か区別することなど本職の人からすれば容易いのかもしれない。
わざわざ只の警備員だけの店舗を狙ったのに、何日もかけて下調べを行ったのに何処で間違えたのだろうか。
強盗は今まであまりにも上手くいっていた為に有頂天になっていたのかもしれない。
身近に感じる死の恐怖に強盗は降参するしかなかった。
「ま、待ってくれ。ここ…これはモデルガンなんだ、本物じゃない。ほほ…ほら」
拳銃を床に置き、目の前で死のオーラを放っている男に向け蹴る。
その後自身に抵抗する意思が無い事を示すためにうつ伏せになると両手を頭の後ろで組んだ。
直後、一部始終を見ていた警備員や一般客によって取り押さえられる強盗。
1人のけが人を出す事なく強盗事件は解決した。