表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日から傭兵 -就職先は軍事会社でした-  作者: 蒼乃堂紋
第2章『会社デビューはコンタクトで!』
6/62

#5


電柱の陰からこっそり会社のほうを伺う。

やはりというか案の定だった。


「出勤初日から重役出勤だな…」


会社の入り口で仁王立ちしている青髪の人。

間違いなく警備会社の関係者の人だろう。もしかしたら直接の上司に当たる人かもしれない。

そんな人が遠くからでも分かるほど苛立っていた。

そのイライラをぶつけるかの如く足で何度も地面を踏みつけている。もしかするとあの部分だけ他の場所よりも窪んでいるかもしれない。

そう思わせるほどの超高速の貧乏ゆすりだった。

あんなに早く、尚且つ激しい貧乏ゆすりは見た事が無い。

これは一旦出直した方が良いだろうと思い、まわれ右をして帰ろうと思った時だった。


「見つけたぞ!おいてめぇ何時だと思ってんだ!」

「…」


見つかってしまった。

あまりの威圧感に体の一部が縮み上がる感覚を味わう。

蛇に睨まれた蛙の気持ちは多分こんな感じなんだろうと蛙の立場が分かった瞬間だった。

俺を発見してからの青髪さんの行動は速かった。

背中を見せて逃げようとする俺を見つけるやいなや一瞬で距離をつめると首根っこを掴むなり会社までズルズルと引きずっていった。

街行く人の目線がどうとか気にしている場合ではない。

今はどうこの状況を打開するかが問題だ。

やはり、いうまでもなくお説教タイムの始まりだろう。

お説教だけで終わればいいのだが、そう上手くはいかないだろうな。

この先の展開を考え項垂れていると正面玄関の手前で黒塗りの乗用車が止まった。

いかにも偉い人が乗ってそうな高級車。ガラスはフルスモークで中の様子を伺う事は出来ない。

しげしげと車を見ていると運転席側のドアが開くと如何にもと言った感じで黒のサングラスに黒いスーツの人が出てきた。

ただちょっと違うのは筋骨ムキムキのお兄さんじゃなくて細身だが一般人とは違う雰囲気のある女性という事。

その女性が辺りを警戒した後、ゆっくりと車の後部に近づきドアを開けた。

車の後部座席から降りてきたのは面接の時にあったあの初老の女性だった。


「おや、あんた達ちょうどいい所に」

「ボス、おはようございます!」

「ボスはお止めっていってるだろうに…」


さっきまで鬼のような形相だった青髪の人が今では緊張した顔になっている。

それにさっきのボス発言からしてやっぱりかなり偉い人なんだろう。

なにやらファイルを受け取って眺めている。

おもいっきし俺、蚊帳の外なんだけど。


「じゃあ頼んだよ、このまま車を使っていいからね」


そう言ってボスは会社の中へと入っていった。

後に残された二人。


「ほら!さっさと乗りな!」


なんの説明も無いまま車へと乗り込む。

いや乗り込むという表現は適切ではないかもしれない。

尻を蹴られて押し込まれたという表現が正直な所正しい。

若い女性に尻を蹴られるなんてなかなか経験できるもんじゃないが、なんだろう心のどこかでなにかが産声をあげた気がするのは。


―ブロロッ!


車のエンジン音だけが空しく車内に響く。

目的地に着くまでの車内の空気は最悪なものだった。

なんとも言えない重い空気が漂っている。

誰も何も喋らないので車が走る音しか聞こえてこない。

なんとかこのよどんだ空気をどうにかしないと気がどうにかなってしまいそうだった。


「そういえば自己紹介がまだでしたね…」

「……」

「えっと、自分は島崎宏一って言います。今日からお世話になります」

「……」


自己紹介は無しですか、なんて呼んだらいいのだろうか。

とりあえずは青髪さんでいいかな…。

正直今は呼び方なんてどうでもいい、それよりも胃が痛い。

もし可能ならこの走行中の車から飛び降りたかった。

だが何か喋らないと息が詰まってしまいそうだったので必死に話題を探す。

しかし話術の引き出しが少ない俺には難しい問題だった。


「もしかして、機嫌悪いですか?」

「あんたには機嫌が良いように見えるのか?」

「……」


会話はできたけど話題が拙かった。

自分で自分の墓穴を掘ってしまった。

そりゃ初日早々に遅刻してしまったんだから当たり前か。

俺この人の下で働くのだろうかと考えると直ぐにでも退社したい衝動に駆られる。

だがここは我慢だ。そう簡単に次の仕事なんて見つからない。


その後、一切の会話は無く目的地に着いた。

すでに俺のライフゲージはレッドゾーンに突入し、あと一撃でも喰らえばライフゼロになり天に召される所だ。

何処に連れてこられたのかと目の前の建物を見上げる


『ジュエリー三ッ葉』


到着した場所は宝石店だった。

え?なんで宝石店?

状況が分からずあたふたしていると青髪さんからファイルを渡された。


「目を通しときな」


渡すなら車内で渡して欲しかったです。

ついにライフはゼロになりました。

心の中で泣きながら、渡されたファイルに目を通す。

どうやらここを訪れたのは新規契約の勧誘らしい。

そういえばニュースでも取り上げられていた気がする。

最近、武装強盗による宝石店襲撃が相次ぎその対応が急がれているとか。

宝石店ともなれば貴金属など高価な物ばかり取り扱ってそうだ。

なによりジュエリー三ッ葉と言えば俺でも知っているほどの有名なブランドだ。

かなり大口の顧客で結構重要な仕事だろう。

ふとそこで考えてしまう。

新入社員の俺が付いてきてよかったのだろうか?

まぁ今から帰るわけにもいかないし、かといって仕事の話とかだったら俺内容知らないから意味ないし。

とりあえずロビーで待たせてもらえばいいか。

いやここは青髪さんの仕事っぷりを見て勉強しろという事なのかもしれない、だとすると気合いを入れなくては汚名返上のチャンスだ。

入り口付近でそんな事を考えていたのが悪かったみたいだ。

後続で入ってきた人に突き飛ばされてしまう。

なんの覚悟も無しに突き飛ばされた俺は盛大に転倒してしまった。


―パン!


その直後、乾いた銃声が店内に響き渡った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ