#51
「ど、どうしてこうなった」
島崎は生まれてから経験したことのないほどに焦っていた。
穴という穴から変な汗が噴き出しているのじゃないかと錯覚するくらい汗が止まらない。
目の前で顔を真っ赤にして怒りを露わに仁王立ちする金剛力士像のような男に目線を合わせる事が出来ない。
たぶん目が合ったら魂が抜かれんじゃないかってくらい目をひん剥いて島崎を見下ろしているのは、ここ要塞島の司令官であり五十嵐瑠璃の父である五十嵐猛である。
彼がこんな状況に陥った原因は数分前に遡る。
諸悪の根源である爽やかイケメン野郎を完膚無きまでに負かした(?)事に気を良くし調子に乗っていた彼は意気揚々と玄関脇のインターホンを鳴らした。
「・・・」
何の反応も伺えなかったのでもう一度押す。
「・・・」
やはりそれでも反応は無い。
なにかのスイッチが入ったのか島崎は昔見たGomTubeに投稿されていたうんたら名人のごとくインターホンを連打する。
「わかったから!出ます、出ます!」
島崎の十六連打が功をそうしたのかドア越しに人の気配を感じた。
そしてドアが開いた瞬間に時間が止まる。
一方はここに居るはずのない人が居る事に驚いて。
もう一方は普段ではまず目にする事が無いであろうある人物の服装を見て。
お分かりかとは思うが猛は娘の瑠璃を尋常じゃないほどに可愛がっている。
娘との会話を想定し、話題に尽きないようにと女性向けの流行りと聞けばすべてチェックしている。但し人気の俳優とか異性関連は全て除外して。
うちの娘にはこんな服も似合うだろうとか、あのアクセサリーを娘が着けたらきっと可愛いに違いないとか職務中に考えるほどに、そして実際にそれを通販やらで購入しているのだ。
もちろん、娘が合いにきてくれた時に実際に着てもらう為である。
今現在の瑠璃の格好は父親が選定に選定を重ねた選りすぐられたものだ。
爽やかなブルーのトップとチェックのスカートがコンビになったワンピース。
可愛いさだけでなくどこか上品さを感じさせるカジュアルな出で立ちである。
特に目をはるのが滅多に処か同僚でもまず目にする事がないであろうスカート姿だ。
そして時は動き出す。
「なっ、なんでお前がここにいんだよ!」
「なんでって迎えにきたんですよ」
「迎え?」
「ええ、お見合いするって聞いて…」
「・・・」
(え?お見合いするって聞いて迎えに来たって…ちょ、おま…え¡?)
パニックにある五十嵐をよそに島崎は普段の戦闘服姿しか見たことのない五十嵐のその格好に驚いていた。
(プライベートではこんな女の子らしい格好するんだな。ん?待てよここで褒めておいたら前回に俺の失敗も少しは許して貰えるんじゃないか。褒められて悪く思う人なんていなし)
「その、すごく似合ってますね!普段とちがってこうなんていうかギャップが大きい分可愛いといいますか。とにかく素敵ですね!」
女性を褒めるという事に慣れていない島崎の今出来る最大限の褒め言葉だ。
似合ってますね!可愛い!素敵!褒め言葉3点セットである。
「!!!」
この言葉が余計に彼女をパニックにさせたのは言うまでもない。
「貴様のようなどこの馬の骨ともわからん奴に見せるために選んだんではないわ!」
地響きのような言葉が聞こえたのは彼が褒め称えたその直後だった。
殺気にも似たなぞの圧迫感を感じた島崎は自分の意思とは関係なく首が後ろを振り返ろうとするのを止められなかった。
(アカン!これ金縛りの時とかにある勝手に見ようとしてしまう奴や)
そして冒頭に戻る。
―五十嵐(父)SIDE―
間に合わんかった。
嫌な予感がして急いで自宅に戻ればすでに二人は鉢合わせした所だった。
あろう事かあの糞野郎は我が最愛の娘を口説いているではないか!
「貴様のようなどこの馬の骨ともわからん奴に見せるために選んだんではないわ!」
怒りに任せて鉄拳を振りかざそうとしたが娘の前だ。我慢だ我慢!
本来なら今すぐこの場で射殺してその死体をバラバラに刻んだ後、海に捨てて鮫どものエサとしてやりたい所だが愛しのマイエンジェルに感謝するんだな!
一生かかっても払いきれないほど感謝を捧げろ!崇めろ!
ギリギリのラインで衝動を抑えた彼は今後どうするかを考えていた。
ここでこの糞野郎を消すのは簡単だ。何せ彼はここの司令官である。
一人くらい一般人が消えたとしても何も無かった、彼はここには来なかったという事にする事くらい朝飯前というくらい容易だ。
だが娘の知り合いならそういう訳にもいかない。
どうにかして娘があの×××野郎から興味を無くすように仕向けなくてはいけない。
待てよ、確か奴は参謀本部の…そうか、そういう事だったか。
上手く行けば奴は嫌われ、私は更に好かれる事が出来るぞ!
何かいいことでも思いついたのかニヤリと口角を釣り上げる五十嵐父。
だがその顔はとても国の平和を守っている人物とは見えないような邪悪な笑みだった。




