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今日から傭兵 -就職先は軍事会社でした-  作者: 蒼乃堂紋
第2章『会社デビューはコンタクトで!』
5/62

#4

翌朝、俺はスーツを着て鏡の前にたっていた。

最初は夢じゃないかと思っていたが1日経ってようやく現実味が出てきた。

昨日あの警備会社から電話でまさかの合格通知が来たのだ。

てっきりあのマッチョの中の誰かが選ばれるものばかりだと諦めていたのだが世の中何が起きるか分かったものじゃない。


「スーツよし!ネクタイよし!ハンカチよし!」


初出勤の為の身だしなみをチェックする。

人は見た目で第一印象が決まると言う。

初出勤、ここで失敗すれば今後の社会人人生が大きく傾く事となる。

さて、ここから先が最も重要なポイントだ。

なんと警備会社に就職という事で本格的にコンタクトデビューをする事に決めたのだ。

普段は眼鏡をかけて生活しているのだが、ここぞという大事な場面ではコンタクトにする事があった。

そう例えば合コンとか合同コンパとか…あとコンパとか。

兎に角ごく稀にコンタクトにすることがあった。

あれ、なんでだろうな。

まだコンタクト入れてないのに涙が出てきた。

昔の事なんて忘れよう、今日から俺は生まれ変わるのだ。

今回は目的が違う、モテる為に眼鏡を外すんじゃないんだ!


―ふぅ


大きく深呼吸をすると気持ちを落ち着ける。

今回は邪な気持ちを捨て純粋な気持ちで眼鏡を捨てる。

警備員になるという事でなめられないようにコンタクトへと完全移行する決意をした瞬間だった。

眼鏡をかけているとなめられるなんていうのは偏見かもしれないが。

眼鏡を外してコンタクトを目へと入れる。

やはりレンズを入れる瞬間というのはいつやっても慣れないものだな。

最初はなんてものを目に入れるんだなんて思っていた。

今でも、すげぇ怖い。

レンズを取った指がプルプルと震えている。

しかし会社デビューするには避けて通れない道。

臆する事数分、なんとかセットして家を出た。

完璧な俺は十分な余裕をもって出発するはずだった。

それは愛車があればの話である。


「あれ?無い!」


普段愛車が止まってあるべきはずの場所に愛車がない。

どっかに置き忘れたかな?

なんて思ったが先日の出来事がフラッシュバックのように思い出される。


「そうだ…廃車になったんだ」


採用が決まって浮かれていたという事もあってすっかり忘れていた。

現在の移動手段はこの2本の足しかないという事を。

タクシーを使うという贅沢な方法という選択肢もあるが…。というよりそんな余計なお金を使えるほど余裕が無かった。

時計に目を向けると出社予定時刻までそんなに余裕は無い。

初日から遅刻なんてしたら前代未聞だと怒られるだろう。

いや下手をすれば採用初日にクビを宣告されるかもしれない。

そう考えただけで嫌な汗が滝のように流れ出てくる。


「はぁ…はぁ…」


まさか社会人になってこんなに必死に走る日が来るなんて思ってなかった。

このまま順調に行けばギリギリ間に合うはずだ。

腕時計を見ながら走っていたのが悪かった。

曲がり角から飛び出してきた陰に気づくのが遅れ避けきれずにぶつかってしまった。


「「あいたっ!」」


転倒してしまい打ちつけた腰をさすりながら立ち上がる。

自分の不注意が原因だったので相手に怪我は無いかと確認しようとしたが、ぶつかった相手の男性は慌てるように立ち去ってしまった。


「あの!」


声をかけたが男の影はみるみる小さくなっていった。

あの人も急いでいたのだろうかと思いながら誇りを払っていたら黒い鞄が落ちている事に気づき拾い上げる。


「さっきの…」


拾い上げた鞄をしげしげと眺めていると後ろから声がした。


「あんた、取り返してくれたんかね!」


やや腰の曲がった白髭を蓄えた男性が額に汗を浮かべさせ肩で息をきらしていた。

恐らくここまで走ってきたのだろう。


「これはあなたので?」

「ええ、恥ずかしながら先ほど…」


このご老人によれば先ほどの男にひったくりにあってしまったとの事。

鞄の中身についてやご老人の話からして事実らしいし、このご老人が嘘をついているようには思わなかった。それに警察に仲介を頼むような時間の余裕は無かったし面倒事は避けたかったので鞄を渡す事にした。


「取り返していただいたお礼をなにか…」

「いえ、私は拾っただけですから。では急いでいますので」


ご老人の申し出を断り、深くお辞儀をしてその場を後にする。

特に何もしていないのにお礼を貰うのは心苦しかったといのもあったが何より時間がもう無かったので急いで会社に向かわなくてはいけなかった。


「こりゃ完全に遅刻だな…」


必死に走りながら時計を確認して凍りつく。

出勤初日に遅刻が決定した瞬間だった。


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