#41
突然ふって湧いた休暇の話。
当然ながら急な話だった為とくに趣味の無い島崎は自宅で暇をもてあそばせていた。
「・・・暇だ」
ベットの上で寝転んだまま死んだ魚のような目でただ時間が過ぎていくのを待っていた。
まったくする事が無かった訳ではない。
ここ最近熱中していた戦術ゲームの大攻防をやって楽しむ算段をたてていたのだが大規模アップデートの為に今は接続できない状態になっているのだ。
公式サイトで更新内容を読んでいたが書かれている情報も少なく直ぐに読み終わってしまった。
かれこれ何時間だろうか島崎がベットの上で死体ごっこをやっているのは。
このまま朝を迎えるのではないかと思っていた時だった。
携帯電話の呼び出し音が静かな部屋に響き渡る。
「この音は・・・電話!メルマガじゃない!」
わりとまめに着信音を設定している島崎は自動配信のメルマガじゃないと分かると携帯に飛びついた。
自分の携帯番号を知っているのは今の職場か前に居た所のごくわずかな親しい奴だけ。
兎に角この暇な時間が潰せるならと急いで電話に出た。
「もしもし!」
「おや、やけに出るのが早いね。スタンバってたのかい?」
相手を確認せずに出てしまった。
電話の相手は自分の雇用主である我らがボスである。
いったいなんの用事だろうか、前回の件でこっ酷くお叱りを受けたばかりだったので嫌な予感しかしない。
「な、なにか御用でしょうか?」
「そうさね、あんたにしか頼めない用事が出来てね。悪いんだが会社まで来てもらえないかね」
「今からですか?」
「あぁ直ぐだ」
「た、直ちに向かいます!」
相手に見える訳でもないのに島崎は背筋をピンと伸ばし直立不動で受け答えを行う。
よほど重要な案件だろうと判断した島崎はすぐさま着替えると会社へと向かった。
―――
島崎が呼び出しをくらう前日の出来事
1人浮かない顔で会社の休息室で珈琲の入ったマグカップを握っている人物が居た。
よほど重要な考え事でもしているのか一切口が付けられていないであろう珈琲はまだマグカップに並々と注がれていた。
その様子に偶々通りかかったボスが気づいたのが今回の騒動の事の発端となる。
「せっかくの休暇なのに出勤してくるとはあんたも物好きだね」
「・・・ボス!?」
声の主が自分たちのボスであることに気づき慌てて席を立とうとするがボスはそれを手で制した。
「今は休暇中だろ、そこまでしなくてもいいよ」
上げていた腰を椅子に戻しふぅとため息をついたのは五十嵐である。
島崎同様に休暇をもらった五十嵐は出勤しなくてもいいのにもかかわらずこうして会社へと来ていた。
それもなにか悩み事を抱えて。
「どうした浮かない顔して、人生の先輩として相談に乗ってやろうじゃないか」
「ですが・・・」
「亀の甲より年の功って言うだろ、相談するだけでも幾分か楽になるんじゃないのかい?」
ボスの発言は一見部下を思いやった発言のようにも聞こえるが内心は違う。
何か楽しいイベントが起こるのではないかと嬉々としていた。
「実は実家から連絡がありまして・・・」
ボスが相談に乗るというのに断る訳にもいかない五十嵐は事の次第を話始めた。
何処で情報を聞きつけたのか休暇を貰えた事を知った実家から一度帰って来るようにと連絡があったとの事。
ただ実家に帰るだけならなんの問題も無いのだが、どうもただ顔が見たいという理由だけでは無さそうという。
なにやらお見合いをさせられそうになっているという情報が五十嵐の耳に入ってきたのだ。
お見合いという言葉を聞いて五十嵐は帰るのを渋っていたのだ。
お見合いはおろか結婚する事すら考えていない、異性と付き合ったことすらない五十嵐にとってこれはテロリストを相手するよりも厄介な問題だった。
「なるほど・・・」
「ボス、どうしたらいいでしょうか」
少しだけ考える素振りを見せるボス。
内心もうすでに頭の中であるイベントを思いついているのだがまだいう訳にはいかない。
「そうさね、兎に角あんたは一旦実家に帰りな」
「帰るんですか!?」
「あぁ明日にでもこっちを発つといい、何心配はいらないよ。ちゃんと考えはある優秀な人材をみすみす寿退社させる訳にはいかないからね」
「こ、寿退社って!!」
つい声を荒げてしまった五十嵐であったがすぐに冷静さを取り戻すと分かりましたといい席をたつと頭を下げ、そのまま休息室から出て行った。
1人残ったボスはなにかいいことを思いついたぞとでも言うような顔をすると携帯を取り出すと何処かへ電話をかけ始めた。
「あぁ私だ、至急準備してもらいたいものが・・・あぁそう直ぐにだ。リストは後でメールするから1日で頼むよ。じゃ」
相手の返事も聞かずに携帯の通話を切った。
「さて、これから楽しくなりようだね」
そう呟くとボスも席を立ち休息室を後にした。




