#40
いろいろと黒い噂の絶えない外国人傭兵部隊白蛇の壊滅の情報は瞬く間に世界中を駆け巡った。
というのも、元々各国の諜報機関が要注意監視対象として常に監視していたというのも大きな理由ではあるが1番の理由は小国のしかも正規軍ではない民間軍事会社が壊滅に追い込んだという情報がより強い。
正規軍の精鋭部隊がというならまだ納得できたが民間軍事会社が関与しているという事実に諜報機関の人々は驚愕した。
正規軍が発足してまだ日の浅い小国の非正規軍など彼らは眼中に無くノーマークであったからだ。
白蛇壊滅の一報を受けた各国は関与したと思われる民間軍事会社の情報収集に躍起になっていた。
―某国の諜報機関1―
とあるビルのオフィスにある高級そうな個室で怒号が鳴り響いていた。
高級スーツを着こなし神経質そうな眼は如何にも何処かの会社の重役のようである。
その個室には上司の男と部下の男がいるだけだ。
「正規軍じゃないとはどういう事だ?」
「民間軍事会社によるものと思われます」
「民間の・・・CGSか?」
「いえ、千華警備という小さな会社です」
「千華警備?聞いた事がないな、まぁいいすぐに情報を集めろ」
「目下収集中です、ですがあまりに情報が少なく・・・」
「なら現地に諜報員を派遣しろ!急げ!」
「はっ!」
慌ただしく上司の部屋から飛び出していく若い社員。
1人きりになった上司の男は椅子に背を預けると天井を仰いだ。
「私が10年以上追いかけてきた相手を・・・」
―某国の諜報機関2―
施設内の通路を慌ただしく行きかう人々。
普段は冷静沈着な彼らがこれほどまでに慌ただしく動き回っているのは珍しい光景だった。
情報が錯綜し正確な情報から偽情報まで兎に角全ての情報を集め、その整理に追われていた。
会議室のような場所ではホワイトボードに数人の男の写真が張り付けられその全てに赤い×印が付けられていた。
その写真の中にはセルパンの写真もあった。
「白蛇主要メンバー全員の死亡が確認されました」
「それは確実な情報か?」
「はい、現地の協力者からの情報ですので信憑性は高いかと」
「「・・・」」
沈黙が時間を支配している。
会議室に集まった者達は皆年齢がバラバラだ。
若い男も居れば歳を重ねた男性に女性の姿も見られる。
中には苦虫を噛み潰したような顔をした人物もいれば、涙を流す者も居る。
一見共通性が無く、老若男女バラバラではあるが共通して皆が悔しそうな顔をしているように見える。
誰も一言も話さないなか1人の若い男が立ち上がった。
「・・・自分の目で確かめてきます」
そう言うなり会議室から出て行った。
彼に続くように次々と立ち上がり会議室から出ていく。
そして最後に1番年上と思われる男性が残った。
「・・・私の手でと思っていたが、あっけないものだな」
誰に言うでもなくそう小さな声で呟いた。
数時間後国際便の離発着のある空港に各国の諜報員の姿があった。
ある者は旅行者を装い、また別の者はビジネスマンを、家族連れを装っている者もいた。
彼らはお互いが諜報員である事を知らない。
しかし彼らの目的は皆同じであった。
『千華警備の島崎という社員を調査せよ、奴が白蛇壊滅の重要人物だ』
―――
自身が各国の諜報機関から標的にされたことなど夢にも思わない島崎は千華警備の休息室で手当てを受けていた。
手当てといっても先の件では負傷らしい負傷は負っていないはずだったが今の彼は右目辺りに青痣を作っていた。
こころなしか頬も少し腫れているような気がする。
医務員から氷袋を受け取った後、島崎はそれを右目に当てながらソファーに横になっていた。
「無事に戻ってなによりだよ」
入り口付近から声がしたので置き上がり確認するとボスがそこに立っていた。
「お!?どうしたんだいそれは」
驚いた様子で訪ねてきたボスに島崎は曖昧な返事をするだけで答えようとはしなかった。
というよりも答えられないというのが正解だろう。
もし口外すれば次は痣だけでは済まないという事が彼には理解出来ていた。
「それよりどうしたんですか?」
これ以上追及されればいつぼろが出るか分からないと焦った島崎は話題を変える事を選んだ。
露骨なまでの話題変更ではあったがボスもそれ以上痣について追及する事は無く当初の予定通りある事を伝える事にした。
「今回の件はわが社始まって以来の大仕事だった、皆が気持ちの整理とかいろいろと時間が必要だろうかなね、特別にお前たちにはボーナスをやろうと思ってね」
「ボーナスですか」
「あぁ、嬉しいだろ?」
島崎はボーナスと聞いて給金の事がすぐに思い浮かんだ。
危険手当とかで高額な給料が貰えるのかと思い何を買おうか頭を悩ませていた時だった。
「今回の作戦に参加した者全員の休暇をくれてやろうって言うんだ。太っ腹だろ?」
「・・・え、休暇?」
ボーナスとは高額な給金ではなくただの休暇だった。
なんだ、只の休暇かと思っていた島崎であったがこの休暇が只の休暇にはならない事を彼はまだ知らない。




