#38
2人を無事見つける事ができたので五十嵐さん達に報告しようかと思ったが無線機が無い。
さっき防弾チョッキを脱いだ時に一緒に置いてきてしまったようだ。
このまま置いていくのは不安だが、ずっとついておく事も出来ない。
それに連絡をしなかったら後で五十嵐さんにこっ酷く説教されそうでそれが怖かった。
「絶対にここを動かないように、いいですね!すぐに戻りますから」
そう言い残して慌てて部屋を出る。
すぐに無線機を取ってまた戻ってくればいいそう思っていたのだが。
「どの部屋だ?」
島崎がいる場所はコンクリートむき出しで目印となるような標識や置物なんてない代わり映えのしない光景の場所。
ここが何階なのかの表示も無いばかりか似たような景色ばかり、自分が何処にいるのか分からくなってしまいそうな場所だった。
さっきは音を頼りにしていたが今回は一切音がしていない。
「ここか!・・・違う!」
ドアを開けては中を確認するという地道な作業を繰り返していたが一向に目的の部屋とは巡り合えない。
早く連絡して戻らないといけないという焦りから駆け足になる。
やがて駆け足が全力疾走へと変わっていく。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・違う」
もう幾つ部屋を回ったか分からない。
なんでこんなに部屋数が多いんだなどと愚痴を溢す余裕すら無かった。
こんな事ならなにか目印でも残しておくんだったと後悔する島崎だったが彼の強い信念が通じたのかやっと目的の部屋を見つける事が出来た。
「あ・・・あったぞ」
防弾チョッキを取り無線機を掴んだ時だった。
「おい、島崎!聞こえるか!」
五十嵐さんの声が無線機から聞こえてきた。
しかもなにか焦っているようだ。
ゴクリと唾をのみ込む。
どう返答するか悩んでいると五十嵐さんのお怒りの声が聞こえた。
「おい!返事をしろ!」
「・・・あれ?五十嵐・・・さん」
さも今気づきました感を出しながら返事をする島崎。
さっきまで全力疾走していたので若干息が切れ気味だがそんな事気にしている場合じゃない。
いかに五十嵐さんの気を静めるかが問題だ。
「おい今どこだ!」
「・・・はぁ、はぁ・・・それが・・ちょっ・と、分かんない・・・です」
普段使わない脳みそをフル回転させて返答をする。
まさかもうすでに近くまで来ているのだろうか。
依頼人を放置して何処行ってんだなんて怒られる事が怖くつい分からないなんて言ってしまった。
もう後には戻れそうにないです、はい。
次の質問に身構えているとまるで自分の身を案じているかもような質問が来たので少々戸惑ってしまった。
何処か怪我をしているかと聞かれたが怪我はしていないと正直に答えた。
さすがに嘘をつく訳にはいかないだろう。心配させる訳にもいかないし。
「今どこだ、なにか目印は無いか!」
ちょっと油断した時だそんな質問がきたのは。
やはり五十嵐さんはここに来ているようだ。
まずいぞ、これはお説教コースだ。
どうにか誤魔化せないかと考えた上での答えが話題のすり替えだった。
問題の先延ばしに過ぎないかもしれないがそれでも心の準備をする時間は必要だと思う。
「・・・はぁ、はぁ・・・それより五十嵐・・さん、2人は・・・保護しまし・・たか?」
「ああ無事だ、おまえ活躍したそうだな」
「・・・そうですか・・・無事ですか・・」
もう無駄な足掻きはよそう、2人を見つけたという事はすでに俺が見つけた事は知っているはずだ。
この後なんで「2人を置き去りにした!」って怒られるんだろうな。
そんで無線機を取りになんて言ったらそこでもまた「勝手に装備を外したのか!」って理不尽にお説教されるんだろうな、億劫だ。
そんな事を考えていると気が滅入ってきた。
まぁ2人が無事だったらなそれでいいかなんて前向きに思っていたら急に睡魔が襲ってきた。
「そう言えば俺、昨日から寝てないや」
昨晩はモニターと睨めっこしながら一晩過ごした事を思いだした。
もうこうなっては睡魔に抵抗する事は出来ない。
今までカーチェイスや重症者の介抱なんかでアドレナリン出まくりだったが2人が無事に保護された今となってはもう気張る必要なんてない。
そんな事が頭の隅を過った瞬間島崎は意識を手放した。
「いざ夢の世界へ・・・」
もちろん五十嵐に怒られるのが怖いから逃げたいという意思も含まれての行為だった。
だがそんな島崎の思惑など知る由もない五十嵐達千華警備の面々は慌てる。
大けがを負っている可能性があるという三葉恵里の証言と息も絶え絶えの先ほどの通信、そして突然途絶えた交信である。
彼女たちとりわけ五十嵐は必死の形相でビル内へと戻っていった。
数分後、担架に乗せられた島崎と彼女たちが相対するのだが五十嵐を始め、南部や村田までもが泣き崩れたという。
血で赤黒く変色したズボンに刃物で切られたような上着の袖、もちろんその上着も赤黒く変色している。
こちらの呼びかけに反応せず、まるで2人が保護された事に安心して眠っているかのように安堵の表情を浮かべる島崎の顔。
実際は本当に眠っているだけなのだが状況が状況だけにまさか本当に寝ているだけだとは誰も思わなかった。
彼を見つけた治安維持局の局員だって死んでいると思ったほどだ。
そう彼は気づいていなかったのだ、自身の姿に。
中年の外国人男性を救護した時に付いた血で自身のズボンが真っ赤に染まっていた事に。
止血するためにとナイフで裂こうとしていた袖が中途半端な状態だった為にあたかもナイフで切りつけられたような感じになっていた事に。
その姿はまるで負傷した兵士のようであった事に・・・。
この後、運ばれていく救急車の車内で目を覚ますのだが彼は一生目が覚めないほうが良かったと思うような体験をするのだがそれはまた別の話である。




