#3
その後もちょっとした質問を受けた後、面接は終わった。
あの地獄の様に長くつらい面接がやっと終わった。
相変わらず体は鉛のように重く、ダルい。
本格的に熱が出てきたようだ。
兎に角早く帰って寝ようと足早に会場を後にする。
もう関係ない会社だ、長居しても意味がない。
人間というものは体が弱っている時は必要最低限の動きをするようだ。
実に無駄の無い動きで会社を出るとそのまま自宅へ直行した。
―会社SIDE1―
「それで、お眼鏡に叶う人物はいたのか?」
面接が終わり事務所に戻ってきた赤髪の面接官に青髪の女性が話しかける。
赤髪の面接官に話しかけたこの青髪の女性ももちろん千華警備の社員である。
男勝りではあるが部下の面倒見が良い事で評価の高い社員の一人だ。
面接官の彼女とはウマが合うようで仕事以外でもよくつるんでいる。
ただ面接官の彼女は出る部分は出て、引っ込むべき場所は引っ込んでいる女性が理想と掲げるモデル体型であるのに対し、青髪の彼女は男と間違えられそうな体型である。
事実過去に男と間違えられた事があり、間違えた相手は病院送りになったとか。
本人もそれをコンプレックスに思っており、どうにかしたいと彼女に相談した事がきっかけで今のような関係になったようだ。
「えぇ、私の色仕掛けにビクともしない奴がね」
「色仕掛けに無反応とはたいした大物じゃん」
「あなたもそう思う?」
彼女は先ほどの面接の資料を渡した。
「陸軍局ね…部隊配置なんて参謀部のエリートじゃんか?なんでそんなのがうちの会社に?」
「さぁね、別にいいじゃない。おかげで、私達の戦力は確実に上がるわ」
面接官の彼女がそういって嬉しそうに頬を緩める。
だが青髪の彼女にはそんな理由だけで彼女が喜んでいるようには見えなかった。
―会社SIDE2―
彼女達二人が2階の事務所で会話をしている頃、同じ階の別室では重要な作戦会議が内密に進められていた。
会社に所属する警備担当の社員の主だったメンバーが集まっていた。
「今回集まってもらったのは他でもない、例の案件についてだ」
進行役の社員が議題を発表すると生唾を飲み込む音があちこちから聞こえる。
「もったいぶらずに早く教えろ!」
「いったいどんな人なのかしら」
「かわいいボウヤだといいのに」
「いや、ダンディな殿方も…」
「屈強なマッチョでしょ」
様々な憶測が宙を飛び交っている。
他でもない先ほどまで行われていた試験採用の男性社員の話題でもちきりなのだ。
会社で初となる男性社員採用の話は女性社員を色めき立たせる話題としては恰好のものだった。
「まぁ落ち着け、こちらの情報によればどうも元軍人らしい。それも陸軍戦術局のエリートさんとの噂だ」
エリートという言葉により一層色めき立つ会議室。
上手くいけば玉の輿も夢じゃないとさっそく恋話に盛り上がっていた。
―会社SIDE3―
「彼はもう帰ったかい?」
初老の女性は自分の秘書である女性社員に尋ねた。
「はい、一応ライバル企業のスパイという疑いがあるので2名ほど尾行させています」
「そうかい、御苦労。なにか動きがあったら報告しておくれ」
「畏まりました」
初老の女性は秘書に指示を出した後、面接会場であった2階を後にした。
この千華警備という会社のビルは1階が駐車場と倉庫。
2階には受付を兼ねた事務所と、作戦会議などにも利用し今回は面接会場となった多目的室の他に待機所や医務室がある。
3階は仮眠をとる為の休息室や休憩や談笑する為の安息室に個人用のロッカールームにシャワールームなど社員の要望に配慮した設備などがある。
最上階の4階は会社の心臓部ともいえる指令室と会社のトップである社長の部屋がある。
屋上にはヘリポートがあるが使われた事は無い。
現時点で活用方法は社員が屋上で筋トレをするくらいしかない。
4階の指令室に秘書が向かうと慌ただしく社員達が動いていた。
「どうした、何かあったのか?」
「それが…見失ったようで」
申し訳なさそうに彼女に報告する別の女性社員。マイクとヘッドホンが一体化したインカムを着けている事からオペレーター職のようだ。
もちろん彼女が悪い訳ではない事を十分理解しているが、つい声を荒げてしまった。
「見失っただと!?うちでも選りすぐりの2人を尾行に回したんだぞ!」
「すっすみません…」
「いや、すまない…少し取り乱したようだ。詳しく聞かせてくれ」
オペレーターから状況を聞きだす。
彼が面接を終え、ビルを出た後から数分後に見失ってしまったという事だった。
余計な動作など見せない隙の無い動きで移動していたのと元軍人という事から警戒しつつ尾行をしていたが途中で急に気配が消えたという事だった。
辺りを隈なく探したが結局発見にはいたらなかった。
結論から言えば尾行に気づいてまいたという考えが正しい。
ただ尾行に向かわせた2名は非常に優秀な社員であり、それに気づくというのは彼もかなり優秀な人物である事は間違い無いだろう。
以上の結果を踏まえこの事を報告する為に彼女は社長室がある4階へ向かった。
―島崎SIDE―
やはり無理をするんじゃなかった。
面接が済み、会社を出て数分後、限界を迎えた俺は病魔に侵され気を失った。
幸いな事に死ぬような事はなかったが眼が覚めると辺りは暗くなっており俺はゴミの山に埋もれている状況だった。
凄く生臭い。どうやら生ごみの回収場所だったらしい。
よっこいせと爺くさいことを言いながら置き上がり辺りを見回す。
近くに変形した愛車がある事から愛車といっしょにこのゴミ捨て場に突っ込んだらしい。
ゴミがクッション代わりとなって助かった。
綺麗にゴミを掃除してから帰宅する。
変形してしまった愛車は粗大ゴミとして廃棄した。
これで移動手段が徒歩だけになってしまったがしょうがないと諦める。
自宅に着くころにはもう朝日が昇り始めていた。
いったい何時間気を失っていたんだろうか?
自分の脆弱さを嘆きながら生臭さを消すためにシャワーを浴びる。
けっして涙を誤魔化しているわけじゃない、絶対に。
絶対にだ、重要な事なので2回言いました。
さっぱりした後、ボロボロの体を休める為にベッドへとダイブする。
現在無職なので今日は1日中寝られる。
無職万歳!無職最高!…なんか空しくなって来た。
寝よう、寝て忘れようそれに体調不良の時は黙って寝るのが一番だなと思いつつ夢の世界に行きかけた時だった。
ジリリリン♪ジリリリン♪
電話のベルが俺を呼んだのは。




