#36
中年男の『』の台詞は英語だと思ってください(汗)
解体途中のビル内はコンクリートがむき出しだったり、壁から配線が飛び出していたりとあちこちで作業中だった事が窺い知れる。
確か銃声はこっちからしたと思うんだが。
同じような構造の場所ばかりかコンクリート色ばかりの光景に同じ場所をグルグルと回っているのじゃないかとさえ錯覚してしまいそうになる。
「ん?あれは」
1か所だけ扉が半開きの場所があった。
少なくとも誰か人の出入りがあった証拠だ。
とりあえずはあそこを。
島崎は物音をたてないよう忍び足で近寄ると隙間から中の様子を伺った。
「足!?」
半開きの扉から中を覗いた島崎が最初に発見したのは人の足だった。
扉の隙間からはブーツを履いている足だけが見えている。
ただ千華警備でもブーツは着用している。
ただの素人が見ただけではそれが千華が使用しているコンバットブーツなのか、敵が使っているブーツなのか判断は出来ない。
もちろん素人の島崎は言うまでもなく判断できていない。
「・・・」
しばらく見ていてが一向に動く気配がないので意を決して室内に入る事にした。
ゆっくりと音をたてないように扉の隙間を広げ忍び足で侵入する島崎。
もしかしたら千華の社員かもしれない。
しかも死んでたらどうしようなどと幾つもの不安を抱きながらそっと足の主を確認する。
「うっ・・・」
一瞬吐きそうになったがぐっと堪えた。
室内に入り島崎が目のあたりにしたのは喉にナイフが刺さり絶命している大男と、その向こうに椅子に座ったまま微動だにしない男、そして血だまりの中仰向けに倒れている中年の男の3人だった。
血の匂いだろうかあまりいい匂いではない。
すぐにでも立ち去ろうとかと思ったが一応生存の確認をしなくてはと思いその場に留まった。
まずこの大男はもう駄目だろう喉にナイフじゃ助からない。
そうすると椅子の男と中年の男か。
島崎は千華警備に就職した時に導入教育として教わった脈の確認方法を思い出し首筋に手を当てる。
椅子の男からは脈を確認できなかった。
こっちの中年の男も駄目もとで脈の確認をする。
ドクンドクンと僅かにだが脈を確認できた、だがだいぶ弱い。
「おいあんた!意識はあるか!聞こえるか!」
中年男の耳元で叫ぶ。
こういう時は意識をしっかりと保つのが大事だと言っていた。
肩を叩きながら声掛けをするが反応は返ってこない。
肩が駄目らな頬だと思い、頬を数発叩いて意識をはっきりさせようとする。
「おい!聞こえていたら返事をしろ!」
返事が無いのでもう1発叩こうとしたら右腕を捕まれた。
これはいい兆しだ。意識があるならまだ助かる見込みはある。
「もう大丈夫だ、助かるぞ!」
中年男を励ましながら傷の具合を確認する。
といっても医師の免許をもっているわけではないのでどうする事も出来ない。
出来るとすれば傷口を抑えて止血する事くらいだろうか。
幸い傷は刺されたものではなく銃で撃たれたようなので傷自体は大きくない。
弾が貫通でぃているのか体内に残っているかは分からないが兎に角全力を尽くすのみだ。
傷口を抑えるのになにか布が必要だが手頃なものが見当たらない。
さすがに死体から拝借するのは躊躇してしまう。
必死に傷口を手で押さえて止血しようとしていると中年男が口を開いた。
『敵である俺を助けるのか?』
「・・・」
(英語?やっぱ外国人だったか)
『武士道というやつか、まったく理解できないな・・・』
「・・・」
(なんか言ってるけど全然わかんない)
『なにかいっ』
「喋るな!黙ってろ!今は止血に忙しいんだ、それに俺は英語は分からん」
島崎はハッと何か思いたったように防弾チョッキを脱ぎ戦闘服の袖を引きちぎり始めた。
よくドラマや映画なんかで負傷者を助ける時、自分の服を引きちぎって包帯代わりになんて光景を思い出しての行為だった。
だが実際にはあんなにうまく引きちぎれる訳はない。
それに今来ているのは戦闘服である。
ある程度頑丈に造られている為にそう簡単には引きちぎれなかった。
若干ビリっと音がしただけでちぎれる様子がしないし、ビクともしない。
これは俺が非力なんじゃなくてこの戦闘服が頑丈なだけ。そう頑丈なだけなんだ。
「なにか切るものを・・・いいかそこを動くなよ!」
島崎は立ち上がると刃物を探しに部屋を後にする。
島崎が出て行った後、中年男は上半身をお越し立ち上がろうとする。
撃たれた場所が急所をそれていた事と島崎が強く抑えていたかいあってか、ほぼ止血は完了していた。
中年男は足元に転がっていた銃を取るとふら付く足で部屋から出て行った。
島崎がナイフを見つけて部屋に戻った時にはあの中年男の姿は無かった。
「あれほど動くなって言っておいたのに!」
怪我人が無理をするなと沸々と苛立ちを募らせていた時、別の場所で物音が聞こえた。
自分が言った事を無視して動いた外国人のおっさんに文句を言ってやろうと島崎は音のするほうへと足を向ける。
物音のする部屋の前で一旦立ち止まる。
何か話し声も聞こえるがそれどころではなかった。
血だまりの中に倒れていたあの中年男。止血の途中であったとい事もそうだが怪我した体で無理をしたあのおっさんに説教をしようと勢いよくドアをあけた島崎だったが開けたあと動揺してしまう。
ドアの向こう側にいると思っていたのがまったくの別人だったからだ。
戦闘服を着ていないところをみると解体現場の関係者だろうか?
予想外の展開に気が動転した島崎は口が思うように動かない。
しかも説教してやろうとお怒りモードだったので睨みつけるような顔をしてた顔も動揺したせいかより一層険しい表情となっていた。
「くっ来るな!」
目の前にいる男は島崎にそう叫ぶ。
男の悲鳴にも近いその叫びで自分の状態を見てハッと我に返った。
さっきまで血だまりの中にいたせいかズボンは血で赤黒く染まり、手は止血の時に着いた血で真っ赤。
袖を切ろうと手にはナイフを持っていし、切り裂こうとした戦闘服の袖は非常に頑丈な造りだったので中途半端に切れた状態でぶら下がっている。
確かにこんな人物が目の前にいたら来てほしくないだろう。
男の叫びで若干冷静さを取り戻した島崎は事情を説明しようと男に近づこうとした時パリィンとガラスの割れる音がしたかと思ったらもう男の姿はそこには無かった。
男がいた場所にはガラス片が、その近くには割れた窓があるだけだった。
「・・・まぁしょうがないか」
割れた窓に近づこうとしてその近くにまだ誰かいる事に気づく。
さっきの男かと思ったが違った。
「三葉さん!?それに珀敷さんも!」
ロープで縛られた2人の姿が飛び込んできた時は心臓が止まるかと思った。
とにかくロープを解かないとと思い近づくが明らかに脅えているのが分かる。
まぁ血まみれの人が刃物持って近づいてくれば誰でもそうはなるだろうが目まぐるしく展開してく状況に島崎の脳が追い付いておらず、すでに自身の状態の事を忘れていた。
「大丈夫です、すぐに助けますから」
ガタガタと震える彼女の様子も気にする事なくロープにナイフを当てて切っていく。
三葉恵里を拘束していたロープを切ると続いて同僚の珀敷を縛っているロープも切った。
急いでこの事を連絡しようと思い右肩に付けていたの無線機へと手を伸ばすがその無線機が無い。
しまったと島崎は思った。無線機はさっき脱いだ防弾チョッキに一緒に取り付けられている。あのままあの部屋に置いてきてしまったのだ。
「絶対にここを動かないように、いいですね!すぐに戻りますから」
そう言い残し島崎は無線機を取りに部屋から出て行った。
あとに残された三葉は気を失ったままの珀敷の体を揺すり意識を取り戻させようとした。
並みの女性ならそこでまた気絶するかなにも出来ないかだがさすがは三葉重工のご令嬢という事だろうか今もこうして意識をしっかりと保っていられる事は称賛に価する。
だがやはりそこは女性である。彼女の手は意識とは別に小刻みに震えていた。




