#34
「うっ・・・やりすごせたか?」
瓦礫を押しのけるようにして起き上がり周囲を確認する。
チリチリと火の粉をあげながら燃える鉄屑やコンクリート片がそこかしこに散らばっている。
かつての愛車の姿はもうそこには無かった。
「俺のLAVが・・・」
LAVとは軽装甲機動車など戦略機動などに対応した小型の装甲車の英略名である。
なごり惜しそうにその破片を見ていると向かいの車のボンネットの上にオートバイが乗り上げられているのが目についた。
どうやら先ほどの攻撃に巻き込まれたらしく乗っていた男は近くで息絶えていた。
「まだ使えそうだな」
オートバイを引きずり落した後、エンジンを始動させクラッチやブレーキの確認をする。
問題ない事が分かるとオートバイに跨りアクセルを捻った。
現在地が分からない。
闇雲に走ったせいか、土地感がないせいか、はたまたカーナビに頼りすぎていたせいか。
足を手に入れたはいいがどこに向かえばいいか悩んでいた時だ。
破裂音が2回無人の街中に響いた。
「銃声!?」
発砲音と判断する時点でもう大分今の仕事に毒されている証拠だと言えよう。
一般人だった頃では到底考えれない事である。
つまりそれは誰かが銃を撃っているという事で確実に敵と味方がいるという事だ。
敵同士で仲間割れしているとは考えにくい、五十嵐さんか南部さんかが応戦しているだろうと考えた島崎はその銃声がする方向を目指した。
―――
三葉家の執事である青山が運転するセダンが市街地を駆け抜けている。
後部座席には護衛対象である三葉恵里と千華警備の珀敷が乗っているのだが両者共に意識を失いぐったりとしている。
「いやはやこうも上手く事が運ぶとはね・・・」
ハンドルを握る青山はニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
セダンは不発弾発見の報告のあったビル解体現場の前に来ると停車する。
すると柵の向こうから銃を持った2人組の男が現れた。
男は柵を開け、セダンに入ってくるように手招きをする。
セダンが解体現場の敷地内へと入ると再び柵を閉め男達とセダンは奥へと消えていった。
「カナリアはどうだ?」
「ぐっすり眠ってます。これから自分がどうなるかも知らずにね・・・」
「こっちはどうした」
「成り行き上しかたなく、まぁ手間賃だとでも」
「そうか、好きにすればいい」
身動き1つしない影が2つ横たわっている前で男が話し合っていた。
1人は白蛇のリーダーであるセルパン。残りのもう1人は青山であった。
そしてその横たわっている影は、両手両足を縛られ身動きできないようにされた恵里と珀敷の姿であった。
2人とも薬品を嗅がさわれ一時的に意識を失っているようだ。
もちろん珀敷は武装していたのでその全ての装備を奪われている。
「大佐ちょっといいか?」
セルパンと青山が話しているとウルスが会話に割り込んで来た。
「ちょっと気になる事があるんだ、来てくれねぇか」
「分かった、お前はこのまま監視を続けろ。くれぐれも手は出すなよ」
「分かってますよ」
念をおすセルパンを鬱陶しそうに手をヒラヒラとさせ早く行くように促す。
セルパンはその動作に眉をピクっと動かし不満を露わにし何か言おうとしたがウルスに急かされ言うことなく部屋から出ていった。
「さて、そんじゃぁ最後の仕上げにかかりますか」
そう呟くと青山は2人の監視をすることなく部屋から出て行った。
前を歩くウルスにセルパンは尋ねる。
「気になる事とはいったいなんだ」
「いや、それがな大佐。どうも裏切り者が居るようなんだ」
「なに!?そいつは確かなのか?」
驚いたセルパンは歩みを止める。
白蛇のナンバー2でもあるウルスが組織内に裏切り者が居るというのだ。
彼の言う事を疑っているわけではないが到底信用できるような内容では無かった。
軍人生活の永かったセルパンである。
不審な動作や挙動があればすぐに見抜く自身はあったし何より部下には信頼を寄せる者しか居ない。
一部の雑兵は現地調達しているが重要な情報は与えていないので例え裏切るような行為をされても白蛇としては痛くも痒くもない。
だがウルスが言うには幹部連中の中にその裏切り者がいるとの事だ。
「その裏切り者はいったい誰なんだ」
「・・・ラパスだ」
「ラパスだと!?」
セルパンは俄かには信じられないという表情をした。
ラパスとは軍人時代からの付き合いで白蛇の中でもセルパンに次ぐ古株である。
付き合いは永く、奴のことは良く知っている。
同じ作戦に参加し、互いの命を預けた事もあれば命を救われたこともある信頼のおける戦友だった。
それ故にウルスの言う事が信じられなかった。
「今ラパスは何処にいる、直接私が問いただす」
「こっちだ、大佐」
ウルスに案内されとある部屋の前で止まった。
「ラパスはここで休憩中です」
「お前はここで見張っていろ」
「了解・・・」
ウルスを見張りに立たせ室内へと入る。
問いただすべきか、返答次第では手にかけなくてはいけない。
戦友といえど裏切り行為が事実であるならばそれ相応の処罰が必要だ。
そうでなければ示しがつかない。
ラパスを殺すことも考えいたセルパンだったがその必要は無くなった。
椅子に座ったまますでに事切れたラパスの姿がそこにあったからだ。
至近距離で撃たれたであろう銃痕が残っている。
争った様子は無い。外部犯ではなさそうだ。
「まさか!?」
腰のホルスターから銃を抜こうとした時だった。
銃声が解体途中のビル内に響き渡る。
ラパスの死という予想外の状況に一瞬の判断が遅れたラパスは至近距離から銃弾を受けた。
背後から銃弾を浴びせられそのまま倒れ込む。
銃で撃たれ、激痛が走り思うように声が出せない。
なんとか顔だけ向けるとそこにはやはり銃を持ったウルスが立っていた。
「・・・っ・・・」
なんとか態勢を変え銃口をウルスに向けるも足で銃を蹴飛ばされてしまった。
満身創痍の状態ではまともに応戦すら出来ない。
それも信頼していた部下に裏切られた後ならなおさらである。
銃を失い血だまりを作っているセルパンの姿に自身の優位を確信したのか、はたまた気分を良くしたのかウルスは愉快そうに話始めた。
「まったくラパスも可哀そうな奴だ、黙って俺たちに協力すれば死なずに済んだのに。
大佐を裏切る事は出来ないとか言い出すし終いには俺を説得しようとする始末、まったく奴にはがっかりだぜ」
まったく残念そうに思っていない。
むしろ楽しそうに話を続けるウルスをセルパンは見ている事しか出来なかった。
「もううんざりなんだよ、大佐の軍隊ごっこには。大金が貰えるっていうから今まで付いてきたが、もっと良い雇い主を見つけたんでそっちでお世話になる事にしたんだ。今までありがとうございました、大佐」
侮辱するよう敬礼をすると銃口をセルパンに向ける。
出血から意識が朦朧としているがしっかりとした眼差しでウルスを睨む。
「言う事は・・・それ・・だけか」
「なんだ、謝罪でも欲しいのか?」
もうウルスの態度はセルパンに対する敬意は欠片も見る事が出来ない。
このやり取りが面倒になったのかウルスは飽きたと言わんばかりの表情になる。
「では大佐、ラパスによっ・・・ろ!」
ウルスが引き金に指をかけた時、銀色に光る何かがヒュっと飛んでいき見事にウルスの喉に突き刺さった。
少し後ずさりした後、銃を落したウルスは首に刺さったナイフを確認するとそのまま後ろ向きに倒れた。
しばらくピクピクと痙攣させてうたがやがて完全に動かくなった。
「また・・・お前・・に・・・助け、助けられたな」
セルパンはラパスが足首に隠していたナイフに気づきそれを使って応戦したのだった。
すでに死んだ戦友を見上げながら先ほどのウルスの言葉を考えていた。
「軍隊ごっこか・・・」
今思えば除隊してからというものなにをしてきたのか。
戦う事以外を知らない私には出来る事など限られていた。
戦友を失い、部下に裏切られ、自身はもう虫の息である。
今まで軍人のつもりでいたがそうではなかった。
そうか、私はただのテロリストか・・・。
セルパンはもう疲れたとばかりに意識を手放す事にした。




