#2
―秘書さんSIDE―
私は千華警備設立時から社長の秘書としてこの会社を守ってきた。
近年銃器を使用した犯罪が増え、ひと昔前と比べものにならないほど凶悪化した犯罪に対抗する為、会社として戦力を増強する事が会議で決定した。
優秀な人材が必要だ、それに見合う人物を探す為に職安に募集を出した。
だが集まった奴らはどうだろうか。
力仕事しか取り柄のないような奴や、銃を撃つことしか考えていないような物騒な輩ばかり。
脳筋と呼べるような使えない奴ばかりじゃないか。
やはり優秀な人材はすでに他の会社が確保しているものなのか。
そう簡単に見つかるものでは無い。
多少の無理をしてでも他の大手から引き抜くかしかないのかと思っていた時だ。
最後に入って来た見るからに冴えないこの男。
書類は濡らしているし、眼は何処か遠くを見ているようでまったく集中しているようには見えない。
だがどうだろうか、話を聞けば陸軍局で部隊配置をしていたというではないか。
陸軍局で部隊配置といえばエリート中のエリート集団である戦術参謀部の所属だろうか。
しかもこの若さで部隊配置を任されていたのなら、まさに金の卵である。
ただ、軍を辞めた理由は気になるがこれほどの人材を見す見す手放すのは勿体無い。
どうやら他の面接官も同様のようだ。
―赤毛の面接官SIDE―
ボスの直々の命令で今回面接官としてここにいる。
自意識過剰と思われるかもしれないが、私は自分の容姿にかなりの自身を持っている。
現に今回面接を受けにきた男共は私が足を組みかえる度に眼を奪われていたからね、やはり男ってやつはどいつもこいつも女をそういった目でしか見れない下種な奴ばかりだ。
ただ1人を除いては。
面接の最後にやってきた島崎とかいう男。
まったくの無反応を決め込んできた。さっきの奴らの様に見られるのも癪に障るがまったく注目されないというのも私のプライドが許さない。
艶かしい声を出して挑発してみたが眼中にないと言わんばかりに無視された。
ここまで私の色仕掛けに無反応を決め込んだ男は初めてだった。
よほど精神を鍛えているか、もしくはアッチの趣味の持ち主だろうかと疑っていたが先ほどの話を聞く限りでは前者のほうだろう。
どうも陸軍局の参謀さんらしい。いや元陸軍局というべきか、どちらにせよ今までに出会った事の無いタイプの男性だ。
軍人って人たちは皆彼のように、たいしたメンタルの持ち主さんばかりなにだろうか。
久しぶりに落としがいのある骨のある奴が現れた。
これから仕事が楽しくなりそう。
彼女は他の2人には気付かれない様にそっと笑みを浮かべた。
―重役SIDE―
前の職を活かした何か新しい仕事をしたいと考えこの会社を立ち上げた。
すでに設立から数年が経ち愛着も出てきた所だ。
そんな会社や、かわいい社員達の身の安全を考慮したり意識向上を狙った社員合宿なんかをやってきたがそれらもそろそろマンネリ化してきたところで新しい試みをしようとした時だった。
まさにそれにピッタリな人材が現れたのは。
うちの会社の顧客はその殆んどが女性だ。
その理由は社員の全員が女性であるということが大きな理由だ。
女性同士だからこそ依頼出来るという案件も少なくは無い。
だがどうしても女性だけでは対処できないケースもここ最近報告されてきている。
やはり基本的な力量では男性に軍配が上がる。いかに彼女達が体を鍛えていてもどうしようもない状況だ。
ならばと数で相手を制圧する方法を取ってみたがそれだと多くの事態に対応できない。
そこで男性社員を雇うことを考えてみたが、女性ばかりの会社という事に下心丸出しでくる連中が多いからそこらへんの見極めが重要だった。
うちの会社で1番男慣れしている社員を面接に同伴させ、相手の反応を伺ったが大半が下種な男ばかりだった。
そんな奴はうちでは雇えない。
たまに優秀な人材が現れる事があるがやはりそこは男、下心は隠せない。
隠したつもりでも私に言わせてみればそんなものは隠せていないに等しい。
だがこの男は違った。
まさに鉄の意思といってもいいだろう。
社員の色仕掛けにも眉1つ動かさずに、只々淡々と面接を済ませるだけ。
よほど精神を鍛えているのだろう。まるで機械のような男だ。
軍を辞めた理由は気になるが、この男なら問題無いだろう。
面接に同伴させた他の社員達も同意見のようなのでまず決まりだろう。
ただ参謀寄りのようなので前線、つまりは現場での活躍は期待できないだろうが、試験的導入としては十分だろう。
彼女達3人がそれぞれそのような事を考えている事など彼が知る余地もない。