#27
ボコボコに精神を削られてとぼとぼと歩いていた為に大きく遅れてしまった。
気づいたら皆いないんだもんな、冷たいよ本当に。
「島崎なにやってんだ!」
五十嵐さんの怒鳴り声が聞こえる。
胃が痛いです。
正門を出た所でふと顔を上げると太陽の眩しさに思わず顔を顰めてしまった。
「この忌々し太陽め、俺を焼き殺すきか!」
別に太陽が悪い訳ではないのだが八つ当たりせずにはいられなかった。
ふと太陽を見ていて気づいた。
少し遠くに見えるビルの陰から懐かしい物が見えた。
「アドバルーンか、懐かしいなぁ」
そういえば子供の頃はアドバルーンに向けて指鉄砲向けて撃つ真似事してたっけな。
今揺れたのは俺の空気銃のせいだとかなんとか言ってな。
などと昔を懐かしむように指鉄砲を作って撃つ真似をしてみる。
久しぶりに見たアドバルーンに童心に帰る島崎だったがすぐに現実へと連れ戻された。
「島崎!置いてくぞ、てめぇ!」
「はいぃ!ただ今」
慌てて2号車に乗り込む島崎であった。
もちろん運転などさせてもらえるはずもなく助手席で大人しくしていた。
南部さん運転お願いします。
その声がとても寂しそうだったと、後に南部さんが言っていたとか。
―南部SIDE―
元陸上自衛隊の車輌、それも軽装甲機動車が2輌も連れなって走る姿は圧巻だった。
街中の何処を走っても目につくし信号待ちで止まれば写真を撮られていた。
ボスの狙いとしてはいい宣伝になるらしいが車内にいるこちらとしてはあまりいい気持ちではないです。
若干1名ほど別のようですが。
運転席に座る南部はとなりの席で息を吹き返したように笑みを浮かべる島崎に呆れていた。
恐らくあの人の事ですから、優越感にでも浸っているのでしょう。
後部座席に座っている三葉さんを見習って欲しいものです。
そう思いながら物音1つしない後部座席に目を向けた。
「すばらしい・・・」
目を輝かせながら車内をまじまじと見ていた。
この人も島崎さんと同じ人種なのでしょうか?
若干見てはいけないものを見てしまった感じになった南部は運転に集中する事にする。
目的地である三葉邸に着くまでは油断出来ないのだ。
いくら軍用車輌と言えど防御は完璧ではない。
信号が変わり青になる。
再び動きだした車輌は真っ直ぐに三葉邸を目指した。
―島崎SIDE―
三葉邸について驚いた。
門から玄関までが見えないという長い庭、しかもよく手入れの行き届いた日本庭園だ。
そしてその長い庭道を進んだ先に見えてきたのは、どこの重要文化財ですかといわせるような歴史感漂わせる佇まいの建物。
日本家屋っていうのかね、なんか高級旅館を思わせるような感じだ。
こんな時どう表現したらいいのか分からないのが自分の感性の低さを嘆く。
だがそんな建物の隣に似つかない物が。
千華警備と書かれた中型トラックが数台止まっていた。
すでに他の人たちは着いていたようだ。
玄関前に車輌を止めると執事っぽい人が・・・いや執事だな、執事が出てきた。
初めてみた執事にちょっとした感動を抱く島崎。
すぐに後部ドアに近づくとドアを開く。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「ありがとう青山」
そっと手を差出しエスコートする執事こと青山さん。
ってかどこに乗ってるのか知ってたんですか?執事スキルってやつですか?
「島崎さんも降りてくださいです」
「はい、了解です」
南部さんに言われるがまま車輌から降りる。
降りてきた俺に気づいたのかちょっと睨まれたかと思うとすぐに目線を外された。
あれ、ちょっと鼻で笑われた感がしたのは気のせいでしょうか?
その後、車輌を止めてきた五十嵐さんたちと合流して応接間に案内された。
貧相なアパート暮らしの俺には息の詰まる空間だ。
きっとこの何気なく置かれている置物やこの椅子だって軽く俺の給料より高いはずだ。
そう思うと何処にも座れない。
もう立っているしかないようだ。
しばらく立って待っていると三葉会長と恵里さんが入ってきた。
「やぁしばらくだね島崎くん、どうぞかけたまえ」
「いえ、自分はこのままで」
とても怖くて座れませんなんて言えない。
遠慮なしに座っている五十嵐さんとか心臓に悪いので大人しくしていてください。
一通りその座わり心地を楽しんだのか真剣な表情に変わる五十嵐。
こういった切り替えが早いのは感心するんだけどな。
「では今後についてですが」
今後の警備体制やら日程について調整が進められた。
それ以外にも分かった事がいくつかあった。
三葉会長の孫娘である三葉恵里さんの命を狙っているであろう海外の傭兵部隊が判明した事。
もうこの時点で傭兵ではなくテロリストと言っていいかもしれないが個人の命を狙っているというだけでは断定できないし政府は愚か警察だって動いてはくれないだろう。
しかもすでにそいつらは国内入りしているという情報まである。
千華警備としても情報収集はしていたが三葉会長の情報網も優れたものがある。
本当に顔が広い事だ。
問題は、相手の戦力が不明だという事。
いくら国内とはいえ手に入れようとすればどんなものだって手に入る時代だ。
戦車は無理しても対戦車砲など火力の高い火器は簡単に手に入るはずだ。
うちの機動車だけでは心もとないのだが普通の車よりかはましだろう。
防弾チョッキの常時着用や携帯火器の点検等事細かに決めなくてはいけない事項がたくさんあった。
「必要な物はこちらで取りそろえる事も可能だ、なんでも言ってくれたまえ」
「お心づかい感謝いたします」
三葉会長の申し出に感謝しながらその日は解散する。
明日から本格的に警護任務が始まる。
気合いを入れなおしいざ車輌に乗り込もうとした時だった。
「なにやってんだ島崎?」
「え、なにって・・・」
「お前はここに残るんだよ、うちらはボスと必要なもんについて打ち合わせがあるから帰るがな」
「・・・」
「なに、お前なら大丈夫だ!それに警備システムの設置は済んでるからあのトラックの車内で監視してるだけでかまわん」
そういってあの不釣り合いなトラックを指差した。
もしかして、もしかしなくても自分1人なんでしょうか?
呆然と立ち尽くす島崎を残して第2班の面々は撤収していった。
若干、いやかなり大きな不安を残したまま島崎はただ1人警護任務を始める。




