#25
島崎達が三光女子大に到着する数分程前の事。
―三光女子大敷地内―
最近不逞な輩が増えて困る。
先日も無断侵入した奴がいたので締め上げたばかりだ。
女子大内にある防犯室で防犯隊長を務める三葉恵里は頭を抱えていた。
お嬢様学校としても有名な三光女子大には覗きや盗撮といった被害が後を絶たない。
高嶺の華とでもいえる彼女達を狙った犯罪が後を絶たないのだ。
外部から警備員を雇うというのも考えられたのだが大学内全体を警備すると人件費が膨大にかかるという事で見送られた。
現在は出入口となる各門に2名ずつ配置されているくらいしかいない。
そこで大学側は有志による自警団の設立を模索する事となり現在の防犯隊が学内に誕生した。
武術に心得のある者も意外と多く居たためすぐに人員も集まったが誰が統率するかで揉めた事があった。
成績や家柄などありとあらゆる理由で誰がなるかで揉めていたが最終的には1番強い人がなるという結論に至った。
そしてその結果、防犯隊長となったのが三葉恵里であった。
彼女が悩んでいるのはそこにあった。
元々成りたくてなったのではない。
志願して防犯隊に入ったのは事実だが防犯隊長になるのは想定外だった。
1番強い者を決めるという内容は聞いていたが統率者を決めるという事は知らなかった。
知っていたら彼女は手加減をしていただろう。
だから彼女は手加減をせず正面から挑んで相手を粉砕していったのだが。
「はぁ・・・」
自分以外誰もいない防犯室で彼女はため息をつく。
今の役職が嫌なのではない。
やると決めた限り最後までまっとうしようと誓っている。
彼女は今の自分が嫌になって悩んでいたのだ。
元々一人娘だった彼女は両親からそれはそれは大事に育てられた。
彼女が興味をしめしたものは全て買い与え、やってみたいと言えばどんな習い事でも習わせた。
そんな中で彼女が1番興味を魅かれたのが武術であった。
特に合気道や護身術といったものは自分よりも力の強い者を少しの力で倒せる事に感動しその技に磨きをかけるようになった。
年々強くなっていく娘に両親も自分の身を守れるくらいなら大丈夫だという考えでとくに何かいう事も無かった。
祖父である三葉武が気づいた時には同年代は愚か自分の知る限りでは孫娘よりも強い人間なんていないのではないかと思うまでになっていた。
孫娘の将来を危惧した祖父は国内はおろか世界屈指のお嬢様大学である三光女子大へ入学させる決意をする。
華道や茶道などを学べば少しはお淑やかになるのではないかという考えからであった。
そんな祖父の思惑に気づいた彼女は祖父を悲しませないためにも一生懸命に取り組んだが結果はどうだろうか。
防犯隊長として不逞な輩を排除する毎日。
中々変われないというのが人生である。
「少しは女の子らしくできてるのかな・・・」
彼女自身かわいいものや甘い物が好きだが今の自分を考えると似合っていないと思っていた。
大好きな祖父の事を考えればもっとお淑やかになった方が良いとは思うのだが、どうも上手くいっていない。
同年代の友人たちのする恋バナなんかにも混ざってみたいという願望もあるのだが今まで誰かと付き合ったなどとかそんな経験も無いので混ざれない。
それに自分よりも強い女に近寄ってくる物好きな奴などそうそういない。
恋への興味が無い訳ではないが如何せん難しい問題だった。
どうしたらと悩んでいいた時だった。
防犯室の電話が鳴った。
「なに!?また侵入者、それも堂々と歩いているだと!いい度胸だ、動ける班員を全員導入しろ!」
とりあえず考える事を止め目の前の事件を処理する事を優先させる事にした。
この後、島崎が捕縛される事となるのだがそれは普段よりも二割増しで酷い仕打ちだったのはしょうがない事である。




