#1
誤字・脱字・引用間違い等あればご指摘お願いします。
つたない作品ですが、宜しくお願いいたします。
いざ覚悟を決め正面玄関の門を叩いた。
『面接の受け付けは2階事務所まで』
そう書かれた張り紙の案内に従いエレベーターに乗り込むと2階のボタンを押す。
揺られる事わずか数秒、チーンという目的の階に着いた事を知らせる電子音が鳴った後にエレベーターのドアが開いた。
まるでその音に反応するように一斉に視線がエレベーターの扉に集中する。
どれも刺さるような鋭い視線ばかりだ。
「おぉう…」
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ後ずさりする。
正直なところ直ぐにまわれ右をして帰りたいと思った。
だってさ、屈強な男達が一斉に俺を睨んだんだぜ?
誰だって逃げ出したくなるだろ普通。
やはり皆就職浪人な為か仕事に飢えているんだろう尋常じゃない眼つきだ。
ただ唯一の救いだったのは皆スーツを着ていないという事だった。
痛い視線が無くなったのでゆっくりとエレベーターから降りる。
さすが警備会社の面接だけあって強面の人ばかりだ。
「なんか俺、場違いな気がする…」
周りのマッチョ達と自分の身体つきを見比べて絶望する。
これは今回も期待しない方が良いかも。
面接を受けに来た事を事務所の受け付けで説明した後近くにあった椅子に腰かけ鞄の中から栄養ドリンクを取り出す。
まだ風邪の症状が残っているが面接中だけでも誤魔化せればいいだろうと思いドリンクを一気に飲みほして盛大に噴出した。
「ぶぐふぇぇぇ!」
再び鋭い視線が向けられるが気にしてる場合じゃない。
栄養ドリンクのラベルを確認する。
『超激震!ハバネロドリンクA』
慌てて買った為か栄養ドリンクじゃなかった。
ってか栄養ドリンクのコーナーにこんなもんを置くんじゃないよ!
初めて見るよこんなドリンク、誰が買うんだよ!
もう二度とあのコンビニは利用しないと硬く決心した時だった。
「これより面接を開始いたします。呼ばれた方から順次中へ」
黒髪に黒いスーツに黒ぶちの眼鏡。
見たまんまでいえばまさに【ザ・秘書】といった感じ。
切れ長の鋭い目つきが、知的美人というか、なんか冷たい印象を受ける。
一番苦手なタイプの女性である事はまず間違いない。
得意なタイプの女性があるのかって質問は受け付けないのでしないように。
まぁそんな事はどうでもいい。
今は口の中が激辛で大変なんだ。
このままだとまともに喋れない。
自分の面接の番までまだ時間はある。それまでになんとかしなければ。
とりあえずトイレに駆け込んで水をがぶ飲みしたけど無駄だった。
なんの変化も見られない。
どうしようかと右往左往しているとみるみる内に面接待ちをしていたマッチョ達が減っていく。
「次の方、中へ」
そして気が付けばいつのまにか自分の番まで来てしまった。
まだまともに喋れない状態だが、面接が始まってしまう。
おまけに熱がぶり返してきたみたいで頭がクラクラするし。
まぁまともに喋れたにしたってこの仕事は空振りだし、いいかなんて思いながら面接室へと入って行った。
面接室にはさっきの秘書さんの他に二人の面接官らしき人物がいた。
1人は非常に魅力的なグラマラスボディの赤毛の面接官。
こんな人がいる職場はさぞ幸せなのだろうなどと思考がそれはじめたので修正する。
もう俺には望めそうにもない話だ。
もう1人は白髪交じり初老の女性。たぶんこの会社の偉い人だろう。
「書類をこちらへ」
秘書さんに言われ、あわてて鞄から書類を取り出す。
書類を渡した時に秘書さんの眉間にしわが寄ったのが分かった。
「すいましぇん、けしゃぬらしてひまって」
火を噴きだしそうな口で一応言い訳をしてみる。
ちゃんと伝わったかはどうか分からないが。
採用は諦めてはいるけど誠意だけは見せておかなくてはいけない。
「まぁいいでしょう。ではおかけください。」
ちゃんと伝わったようだ。
あれ、今笑わなかった?気のせいだよね?
たしかにちょっと喋りかた変だけどさ。
やばい、もう帰りたくてしかたない。
そんな俺の心境とは関係なく面接は進められる事となった。
促されて椅子に腰かける。
簡単な質問をいくつかされ無難にやり過ごす。
まぁこういった感じの面接はすでに何回もやってきたから慣れているし、警備会社なら俺みたいな奴よりさっきの屈強な男共から採用するだろう。
そんな事を考えながら早くも諦めモードへと入っていた。
だから面接官が言っている事もいい加減に聞いていたし、赤毛の面接官が足を何度も組み換えしたりしていたが落ち着きの無い人だなとは思っても、気にも留めなかった。
というかそんな余裕は無かった。
昨日の熱がぶり返したせいでまともに思考が回らないというのも原因の一つだが、なによりあのハバネロドリンクの後遺症で喉が焼けるように痛いのだ。
「前歴の覧が滲んで読めませんが、以前は何処で?」
「りくぐんきょくでぶたいのはいちを」
火を噴きだしそうな口でなんとか返事をしたのだが面接官達はなにやら驚いた様子でヒソヒソと話しだした。
確かに警備会社の面接に陸運局で部材の配送をしていた人物が来たら驚くだろうが、なにもそんなに驚かなくてもいいと思う。
恥ずかしので、いっそのことこの場から消えてしまいたかった。
あぁやっぱり神様は俺が嫌いらしい。
ただ彼は気付いていなかった。
焼けそうに痛い喉から発せられた言葉が面接官には違う言葉に聞こえていた事に。
そう、確かに彼は
「陸運局で部材の配送を」そう言ったのだが
面接官には
「陸軍局で部隊の配置を」と聞こえていた事に。