#17
今日でこの千華警備に就職してから1週間である。
最初の頃こそはいつ出動命令が下るかなんてドキドキしていたが一向にそんな命令は無い。
むしろ暇過ぎてどうしようもない。
体力作りの為のトレーニングや過去の事件の報告書の見直しやデータ化、対応マニュアル作成など毎日同じような事を繰り返している。
事件が起きない事に越した事は無いがまさかこんなに暇だとは思っていなかった。
俺の予想だったら引っ切り無しに警報が鳴ってすぐに出動みたいなもんかと思っていた。
五十嵐さんにその事を言ったら
「ドラマの見過ぎだ馬鹿者」
といった具合に馬鹿にされてしまった。
もうこれで五十嵐さんにはこの件について聞けなくなってしまったので同班で先輩社員である南部さんに聞く事にした。
南部さんは俺より3か月ほど前、つまり新年度を迎えた月に新入社員として入社したそうだ。
たかが3か月といえど先輩は先輩だ。それに俺と違って自ら望んでここに就職したんだ。
そう軍事会社と知って…。
見た目はかわいいのに軍事会社に就職するなんて最近の女性はおっかないと言ったらありゃしない。
そうなんだ。南部さんは俺よりも歳下で背も頭一つ分は小さい。おまけに小動物みたいでかわいいときたもんだ。
軍事会社という立場上、本当はこちら側が守る立場なのに逆に守りたくなるような、そんな感じのする女性だ。
おっと、話がそれ始めたようなので元に戻そう。彼女の話はまたいずれ…。
ゴホン…。
会社の状況が今一分かっていない俺に対して丁寧に説明してくれた。なんてええ娘!
軍事会社といってもいろいろな形態が存在するらしい。
人材派遣みたいな感じで社員を派遣し、契約元の戦力補強に充てられるとか
会社全体で契約元からの依頼を受け総出で警護なんかを行うとか
当社は後者にあたるそうだ。
なんでも前者は社員数が相当数ある大企業じゃないと無理なんだとか、うちのような小規模の会社では総出で対応しないと難しいそうです。
それから先ほど俺がイメージで警報が引っ切り無しにとか言っていたがそういう事はまず無いとの事。
そう言った類は普通の警備会社とかが該当するらしい。
うちの会社の場合先ほども言ったが総出で仕事に当たるので仕事がある時は常に契約先と行動を共にしているので常時出動状態らしい。
出動中は場合にもよるがほぼ24時間勤務で交代制だとか。
考えただけでゾッとするが仕事が無い時は本当に何も無いらしい。
暇な事は平和な事で良い事でもあるがその分食いぶちが減るので大変なんだとか。
ふむふむ、へぇへぇと会話を続ける。
特に仕事らしい仕事も無いのでついでに他の班の事も聞いてみた。
やはり親切丁寧に教えてくれる南部さん、やっぱええ娘や!
うちの会社、つまり千華警備には全部で6班ほど班があるらしい。
まず要人警護や車列護衛など実戦を想定した任務、というか仕事に就くのが第一班・第二班で各班5~6名編成なんだとか。
海外や国内の他の軍事会社だとこの倍以上居るそうなのでうちの会社は少数精鋭なんだねって言ったら予算の都合って言われた。
会社の規模が小さいと維持するのも大変らしい。戦争というと大げさかもしれないが軍隊を維持するのはお金がかかるものらしい。
そんで比較的危険性の少ない案件、現金護送や一時的な施設の警備、一般の方からの依頼で行う個人警護(主にストーカー対策等1人で行える警護)を担当しているのが第三班・第四班で各班30名ほど班員がいるとのこと。
特にうちのような女性オンリーの会社は異性には頼めない事、同性だから依頼できる案件などが多いため依頼の8割がここの班に集中しているそうだ。
班といっても班単位で活動している事ではないらしい。個人で動く事もあれば二人一組で動く事も、臨機応変に対応しなくてはいけないのだとか。ただあくまで情報管理の為に班として一括りにしているって事らしい。
内部事情詳しすぎねって思ったけど会社説明のパンフにも載ってたわ。
思わず指摘して恥かくとこだった。危ない危ない。
さて、残りの班だけど第5班は医療や事務仕事など裏方担当で第6班が会社の4階にある指令室で情報のやり取りや作戦指揮等々、超が付くほど重要な仕事を担当している班となっているそうだ。
ちなみにこの第6班の人数は不明だそうだ…そりゃ機密事項とか扱っているだろうから情報漏洩うんぬんの問題から慎重になっているんだろう。
そんな感じで南部さんから会社の話を聞いていた時だった。
「島崎は居るかい?」
詰所のドアを開いて入ってきたのは梶原社長ことボスだった。
緊張した雰囲気が他の社員から伝わってくる。
いくら相手が社長だからってちょっと異常だと思うのは俺だけだろうか?
「はい、なんでしょうか」
腰かけていた椅子から立ち上がりボスの方を向く。
少し考えるような仕草をした後ボスは口を開いた。
「あんたに御客さんだ、五十嵐も一緒に来るんだ」
「「・・・・・・」」
ボスの台詞に顔を見合わせる五十嵐と島崎。
次の瞬間もうボスの姿が無かったので慌てて後を置きかける二人だった。
最初お客が来たという事から応接室に向かうものだと思っていたが、どうやら違うようだ。
まっすぐにエレベーターに向かったと思うとそのまま4階へ、そして着いたのは社長室だった。
応接室では無いという事と社長室って事はよほど重要な人物かボスの個人的な知人のどっちかだとは思うが、俺に客人と言っていたし・・・。
そのどちらにも当てはまるような知人はいないのだがいったい誰だろうか。
隣では五十嵐さんも緊張した面持ちで立っている。
「いつまでそこに立ってんだい、早くお入り」
なかなか中に入って来ない二人に痺れをきらしたボスがしかめっ面で手招きをしている。
慌てて社長室に入るとボスと対面するようにソファーに座っているご老体の男性が目に入った。
白髪混じりの口髭を携えた男性、ご老人と言うには失礼に当りそうなくらい生き生きとした表情をしている。
室内に入ってきた島崎達に気づいた男性はソファーから立ち上がる。
「やぁ、この前は世話になったね」
そう言って島崎に対して手を差し出す。
一応握手はするものの島崎は相手が誰だか思い出せずにいた。




