#14
稲葉さんと報告書そっちのけで談笑(?)していた時だった。
「おう!ほっ報告書は、でっ出来たのか」
なんだかぎこちない五十嵐さんが現れたのは。
まだ知り合って数時間だが明らかに雰囲気がさきほどと違う。
目が泳いでいるし視線を合わせようとしてくれない。
まだ今朝の事を怒っているのだろうか?
それとも報告書がいつまでたっても出来あがらないから痺れをきらしたとか?
まぁどちらにしたって怒られる事は間違いないだろうな、だって報告書出来てないし。
「それが、どうやって書いたらいいのか悩んでまして…」
これは言い訳では無い。
事実今までの生活で報告書なんて書いた経験は全くと言ってほど無い。
だから書き方が分からなくても仕方がないんだ!
見本があればいいんだけどそれも無いし。
だから書けなくても悪いのは俺じゃない!
などと自分に言い聞かせる。
これからお説教タイムが始まるんだ。
ちょっとくらい現実逃避させてくれ。
「そ、そうか…あたしが書いとくからお前はもう帰っていいぞ」
「本当にすいまs…え?今なんと?」
「あぁ?だから帰っていいってんだろ」
すげぇ睨まれてんですけど…。
なんか地雷でも踏んでしまったんだろうか
とりあえず帰ろう。
すぐ帰ろう。
さぁ帰ろう。
理由は分からないけど五十嵐さんの機嫌が良くないのは間違いない。
報告書を書かなくてよくなったのは良いが、また評価が下がった気がする。
急いで帰りの支度を済ませ稲葉さんと五十嵐さんに挨拶をして会社を後にした。
「なんかすげぇ疲れた1日だったな…」
帰宅しながらふと気づく。
「そういや俺、会社で自己紹介とかなんもしてねぇな」
こんな調子で大丈夫なんだろうかと不安を抱きつつ自宅へと向かった。
島崎が帰宅の途についた頃、千華警備では
明らかに様子がおかしい五十嵐を空いた席に稲葉が座らせていた。
遠まわしに聞くのもまどろっこしいので直球で尋ねる。
二人の付き合いの永さを考えれば遠慮などは不要だった。
「ねぇ瑠璃?もしかして聞いてた?」
「うるぇ!?な、なんの事かぬ?」
「語尾が変だし、動揺し過ぎ…」
「………うん、まぁ偶然ね」
少しの沈黙が続いたが直ぐにあの新人の話題で盛り上がる二人。
いつの間にか騒ぎを聞きつけた二人の部下達や事務の社員達を踏まえて盛り上がっていた。
姦しいとはまさにこの事だといえる光景がそこにはあった。
後日五十嵐が会社に提出した報告書によると武装強盗が所持していたのは玩具銃、いわゆる薬莢が飛び出す仕組みになった本物そっくりのモデルガンであった事が書かれていた。
素人はもちろん本職の軍人でもその精巧な造りに間違うほどの出来映えだった物を一発の銃声だけで見抜いたという過大評価がされいた。
採用が決まった当初は各班の総指揮をとれるよう総合指揮室配属が半ば決まっていたが、島崎はやはり現場配属にすべきだという意見が会社の会議で決まった。
もちろん偶然が上手く重なっただけなのだが本人はおろか周りの人が気づいていないいじょうどうしようもない事である。
この日より彼の前途多難な非日常が始まる事となる。
そう、この日より彼は民間軍事会社の社員。
今日から傭兵となったのだ。




