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今日から傭兵 -就職先は軍事会社でした-  作者: 蒼乃堂紋
第3章『ここは軍事会社です』
12/62

#11


時間は一時間ほど遡る。


―稲葉SIDE―

やけに事務所の方が騒がしいと思っていたら彼が出勤して来たっていうじゃない。

朝見なかったからてっきり今日は出勤して来ないのかと思ったら違ったみたいね。

でもどうも出勤して来た事で騒いでいるだけじゃないみたい。

近くにいた社員に事情を聞いた時は驚いたわ。

初日早々に武装強盗を退治したっていうじゃない。

しかも彼女たちが言うには


「飛んでくる弾丸を指で受け止めた」

「素手で武装強盗を鎮圧した」


とか


「強盗が警察に保護を求めてきた」

「人質でなく強盗が命乞いをしていた」


とか俄かには信じられないような話をしている。

確かに彼は元軍人らしいけどそこまでの実力があるようには見えないわ。

それとも人は見かけによらないとでもいうのかしら。

考えていると1人の社員が私の所に来た。


「美咲さんにお願いがあります」


美咲の元に来たのは彼女が指揮する直轄部隊の隊員の女性。

他の女性社員達も期待するかのように彼女を見つめている。


「あら、改まってどうしたの?」


先ほどの話題からしてなんとなく予想は出来た。


「彼に強盗事件の話を聞いてきていただけませんか。私達あまり男性の方と話した経験がないので…」

「ふふっ。そうね、私も気になるし。なによりかわいい部下の頼みだものね」

「ありがとうございます!」


彼女達は一斉に頭を下げた。

それは彼女が部下からとても頼りにされている証でもあり、彼女が男性の扱いに慣れているという事が会社全体に知れ渡っているという事を意味しているのだが彼女たちに悪気はない。

ほぼ全ての顧客が女性層である為に男性と関わりをもつ社員が少ないのが事実である事は彼女自身十分に理解していたし、どうにかしなくてはいけないとも思っていた。


銃などを使用した凶悪犯罪は殆どの場合犯人が男性である。

戦闘中などはさして問題無いのだが犯人を拘束した後や、連行している時に明らかに動揺したりしている社員がいるのは事実である。

つまり女性ばかりの職場であるがために男性慣れしていない社員が少なくは無いという事。

なかには男性がいないという理由で就職したという者もいるくらいだ。

そういったものを解決する為に身近に男性を置いて慣れさせようというのも今回雇った目的の1つというのは一部の幹部連中しか知らない事である。



事務室の一角に目をむけると書類と睨めっこしている彼が目に入った。

かなり悪戦苦闘しているみたいね。

書類の類は苦手なのかしら。

邪魔をしないようにゆっくり近づいてみたがあっさり気づかれてしまった。

相手に気づかれないように近づくのは得意な方だと思っていたけど…。

やはり気配には敏感なようね。

さすが元軍人ね、部隊配置をしていたって言うから参謀寄りかと思っていたけどこれなら現場での活躍も期待できそうね。


「初日から大活躍だったそうね」


詳しい事はまだ分かってないから話題としてはここらへんが無難かしら。

さてどんな反応が見られるかと期待していたけど無表情でこちらを見たまま口を開く様子がない。

あまり自身の事を話したがらないのかしら。

軍人ってプライドが高いって聞くし、参謀みたいなエリートさんはプライドが服を着ているようなものって聞いた事がある。

本人が事件に関わっている場合、詳しく突っ込んで聞かないほうが良さそうね。

あら、でもそうなるとここに就職してくる理由が分からないわ…。


少しの間重い空気が流れる。

彼の眉が少し歪んだように見えた。

機嫌を損ねてしまったのだろうかと思った彼女は話題を変えようと切り出した。


「ここよろしいかしら?」

「ええどうぞ…」


彼女は席に座ったが少しだけ後悔していた。

彼からピリピリとした嫌な気配が彼女まで伝わってきていたからだ。

少しでも目を離してしまえば眉間にナイフを突き立てられるんじゃないかと思えるほど最悪な空気だったと後に彼女は語っている。


「あの何かようでしょうか…?」


どうしようかと彼女が悩んでいる時だった。

彼の方から話かけてきたのは。


「そうね、ちょっとお話しましょう」


なんとか言葉を捻りだした彼女は冷めた珈琲を淹れなおすと言い一旦席を離れた。

もちろんこの重い空気から抜け出す為である。

気持ちの切り替えをする為にはここには留まれなかった。

逃げる口実として冷めた珈琲があったのは彼女にとって幸いな事であった。


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