別れ…郁
初投稿です。
緊張してます。
「もう、いい。」
そう言い捨てて彼は振り返りもせずに部屋を出ていった。一人残され、自分の部屋なのに酷く居心地が悪い。
最近は些細なことで喧嘩になるが、それでも別れが近いなんて思っていなかった。
今までの人生で、好きになった人は彼だけだったから。
あの『もう、いい』から早三ヶ月。
電話で仲直りはしたけど、一度も会っていなかった。こんなに会えないのは初めてのことで、
どうしたらいいのか戸惑っていた。
私、宇田川郁は見習いコック。
彼、織田紘之は国立大の三年生。
年齢は同じなのに社会人と学生だから時間が合わないことが多く、仕事の都合で待ちぼうけさせて怒らせることもよくあった。
あの日の『もう、いい』も、うちで二時間も待たせたことが原因だった。
『仕事だから仕方ないじゃない』と納得できないまま謝ったのが悪かったんだろうか。
昔からケンカすると私から謝っていた。それでうまくいっていたから、許してくれたはずの彼が会ってくれないのが不可解だった。
……大学、忙しいのかな。
そんな風にのんびり考えていた私はお目出度い女だった。
彼にとって自分がどうでもいい存在だということを知ったのは、私が仕事で行けなかった高校の同級生との飲み会。
遅れて顔を出した彼はすでに酔っていて、皆に私との付き合いを聞かれ
『長く付き合いすぎて妹にしか思えない』と言っていたそうだ。
それを聞いていた子が心配してメールをくれていた。
仕事が終わってそれを確認した私はすぐにメールをくれた子に電話をすると、皆は二次会のカラオケに来てるけど、彼は帰ったとのことだった。
とにかく話がしたくて彼に電話をかけるが繋がらない。
不安で嫌な感じがして居ても立ってもいられず、彼の家に向かう。徒歩十分の距離が酷く遠く感じた。
マンションがある通りに出てすぐ、少し先に見覚えのある背中を見つけた。隣に綺麗な女の人。
思わず路地に引っ込み震える手で彼に電話をかけたけど、繋がったのは留守番電話。
路地から顔を出してみれば、路上で顔を寄せ合いキスをしていた。そして腕を絡めマンションに入っていく。
それが、十歳からの十年間の付き合いが終わった瞬間。
頭に血が上り「終わりなんだ」ということしか考えられなかった。
薄暗い路地裏で、いつも持ち歩いてるメモ用紙に
『今までありがとう。さようなら。』と書きなぐり、
そのメモ用紙で彼の部屋の合鍵を包みマンションの集合ポストに突っ込んだ。
泣きながら帰宅し、段ボールに彼の服や本、その他の私物を詰め込みコンビニから送った。
自分の行動は極端すぎじゃないか、ちゃんと顔を見て話をするべきじゃなか、そう思わなくもなかったけど、彼からは何の連絡も来なかった。
だから、きっと、これで良かった。
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