任務「月草採り」
21世紀後期、人類は増えすぎ、海の上の船で暮らす者も増えていた。
だが22世紀、ワープ、無から酸素を作り出す技術、重力を作り出す技術など
科学者達は凄まじい技術力の向上を見せた。
そして「月移住計画」がすぐさま開始された。
月に重力を作り、酸素を作り、地盤をコンクリートで固め、高層ビルをいくつも建てる。
月は岩と無重力の星ではなく、人が住める高層ビルの立ち並ぶ星へ変わったのだ。
地球にいる社会的地位の高い者や資産のある者はすぐに月へ移住した。
「多子化」という問題は解決したが、「月」が上「地球」が下という徹底的な貧富の差が
できてしまったのだ。
だが22世紀中期、月に住んでいた者はほぼ皆死んだ。
奇跡的に地球に戻った者の話では、いきなり怪物が現れ人を襲い始めたのだと言う。
怪物、「ムーン」である。
人々が殺された日、地球から見た月は真っ赤に染まり「赤星」と言われ忌み嫌われ始めた。
それから数年後
「ムーン」の生態や月の調査のため、ある組織が作られた。
そう「MOONKILL」である。
本当は「ムーン」を「生きたまま」捕獲することを目的としたのだが、
「ムーン」は「人」を見たらすぐに殺しかかる。
それに組織のメンバーもまともな人間は皆無に等しい。
よって、「ムーン」を「生きたまま」捕獲することはあまりない。
ようするに殺すのだ。
なので組織は「MOONKILL」と名付けられた。
▽
「なんだかなぁ」
男、海藤亜須真はつぶやいた。
それに答えたのはマスター。
「何、どうしたのかしら?」
「いや、非常に申し訳ないんですが…」
「うん?」
「今日やる気が出ないです」
「…」(マスター)
「…」(亜須真)
「…これから1回分の給料下げようかしら(ボソッ)」
「…はい、仕事、やらせていただきます」
「MOONKILL」では月へ行き、任務を終え帰ってくることが出来れば
それを1回分として約300万ほど銀行の口座へ振り込まれることになっている。
だがもちろん任務にも難易度の違いがあるので難しいのを成功させれば
高い給料をもらえたりするし、失敗したら給料はもらえない。
そもそも月で死ねば全てがおしまいだ。
「MOONKILL」は実力主義なのだ。
ところでマスターは「これから」1回と言ったので毎回給料を下げられてしまうことになるのだ。
ここではマスターが総支配人。らしいので給料を下げられるのはマズイ。
そんなのはシャレにならんと思い亜須真は仕事を引き受けた。
「で、今日はどんな任務ですか?」
「月草(つきぐさ)を採ってきてもらうわ」
「月草…。分かりましたよ。で、だれについてきてもらうんですか?」
「…。誰でもいいんじゃないかしら」
「決めてないんですね」
「じゃあマスクちゃんでいいじゃない。あなた達付き合い長いんでしょう?」
「分かりましたよ」
亜須真はカウンターから離れると寝ている彼女の前までまた来た。
起こすのいやだなぁ。
「おーい、起きろ「笑う仮面」」
ジャキン!
気が付いた時には彼女の握っている斧が亜須真の喉に押し当てられていた。
「・・・・・。斧をどけてくれないか?」
「なんだお前か」
彼女は俺の姿を認めると斧を服の中にしまった。
ふぅ。表側冷静にしているが内心は冷や汗でびっしょりだ。
だから寝ているこいつを起こすのはいやだったんだ。
「で、何の用だ?」
「任務だよ。マスターにお前を連れて行けと言われた」
「マスターの頼みなら仕方がない」
「…」
そう。何故だかは知らないがこの少女は「マスター至上主義」なのだ。
恋とかではなく尊敬とかそのあたりだと思うのだが…。良く分からない。
「ところで何をしに行く?」
彼女はかぶっていたフードを脱ぎながら聞く。
「月草を採るだけだってさ」
「そうか」
そう言うと彼女はまた眠そうにあくびをした。
殺し以外の仕事は乗り気ではないのだ。
「まぁ、やる気出せよ。安全第一だろ」
「ムーンを殺したい…」
月に行く時点で安全から外れる訳だが…
まあいいや。そう思い自分の装備を確認する。
武器よし!服よし!靴よし!
多分大丈夫だろう。
なんせ、こっちにはムーンを殺すことを生きがいとした奴がついてるからな。
「ワープ部屋に行こうぜ」
「ムーンを…」
まだ言ってんのか。
ところで、ワープ部屋とはその名の通り。
月へワープするための部屋だ。
が、実際にワープが機能しているのはここの喫茶店を含め世界にわずかしか無い。
理由は簡単だ。
約十年前「赤星」が起きた時、地球に残っていた科学者達は月の状況を知り
ムーンが地球に来ないようにほとんどの場所のワープ機能を止めたのだ。
まあ、欧米では一部間に合わずムーンが来てしまい、軍が核を使うという大事件が
起きたらしいのだが、そのあたりについては詳しくない。
そういう訳で今ワープ機能が使えるのは「MOONKILL」だけであって、
しかも行く時と帰る時のみである。
もし月で地球との連絡手段が途絶えれば、それはすなわち死である。
「準備出来てるか?」
「問題無い」
いつの間にか彼女は仮面を付けている。
彼女の二つ名である由縁、三日月のように笑っている仮面だ。
毎回どっから取り出しているんだろうか?
ちなみに任務の時はめんどくさいので彼女のことはただ「仮面」と呼んでいる。
まあ、関係無いか。
「じゃ行くか」
俺と仮面はカウンターから向かって左にある扉を抜け、真っすぐ歩いて行く。
ちなみに右にはロッカールームがある。
途中、蜘蛛の巣が体にひっつく。
くっそ。ちゃんとここも掃除しろよ!誰だよ従業員!
・・・・・。
すぐに扉が二つある所まで着いた。
ワープ部屋は左の扉だ。右の扉には変態の女科学者がいる。
ワープ部屋に入る。ここは白い部屋で特に何もない。
壁にある連絡器具で隣の部屋の科学者に話しかける。
「あー、月に送ってくれ」
「おや?おやおやおや、この声は「沈黙の処刑人」君じゃあないですか!」
「…」
「君が私の研究素材、月草を採って来てくれるんだね!」
「…」
「そうだね、どうせならたくさん採って来てくれるとうれしいなぁ!」
「…」
「ところで一昨日試作として新しい銃を作ってみたのだけれど…」
「送れ!」
こいつは何かしないと永遠と話をしてくるのだ。
「…。はぁ、分かった、分かりましたよ。この狭霧麗子(さぎりれいこ)の名前に
懸けて無事に送り届けますよ!でも早く帰ってくるとうれしいなぁ」
ヴゥー!ヴゥー!
ワープの合図のサイレンが聞こえてきた。
次の瞬間この部屋は光に包まれた。
22世紀…ドラ〇もん、できないだろうなぁ。