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高貴なお嬢様たちのちょっとエッチな仁義なき恋の戦い  作者: 神泉朱之介


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番外編・6

 ハプニングからちょっとぎこちない空気になってしまったものの、調理自体はそれはもう順調に進んだ。


 倉木の活躍も勿論多大な影響を与えていたはずだけど、一番の要因はあんまり難しく手の込んだ料理を選ばなかったことだ。


 倉木が頑張ってくれた梨のシロップ漬けは、塩水に浸けた後は薄くスライスして鍋に入れ、レモン汁と砂糖をまぶしてとりあえず放置。


 十数分おいてから火に掛けて、アクを取って、梨が透き通ってから水分を飛ばして出来上がりだ。


 もう皿にちょこんと盛ってある。


 茸と香草のソテーも簡単。


 適当に選んだエリンギ、舞茸、シメジを香草と一緒にソテーして軽く火を通すだけ。


 これは春輝がやって、もう終わっている。


 冷製スープも、煮てミキサーにかけてもう一回煮て、今は冷蔵庫で冷やしている。


 後で盛りつけの時に刻んだパセリでもかければ完成だ。


 最後はサーモンの白ワイン蒸しだけど、でかい図体を倉木の手腕によりあっさりとさばかれたキングサーモンは、一旦焼いた後フライパンの中で白ワインを投入、少し蒸したものをもう皿に盛りつけてある。


 と、いうことで。


 残り時間五分という、普通なら焦っているだろう頃合いの時間带に、倉木と雑談をする余裕があったりもした。


 試験中とは思えないくらいのんびりとした時間を過ごしていた春輝はだから、すっかり忘れていた。


 班員は自分と倉木だけじゃなくて、もう一人いるということを。


「ただいま戻りましたっ!」


 元気な声と共に調理室のドアが勢いよく開かれて、メイド服の上にエプロンドレスを纏った女生徒が、飛びきりの笑顔を浮かべて入って来た。


「看板娘の鳳凰寺早苗、帰還しました!

 身も心も洗浄完了です、爪の先まで磨き上げて戻って参りましたっ」


 どうもその言葉に偽りはないようで、鳳凰寺は服を着替えただけでなく、ややしっとりと髪を湿らせて、上気した頬を艶やかに輝かせていた。


 どこかのエステにでも行ってたのかと言いたくなるくらい、確かに綺麗になっている。


 まあだからといって、そんな目を輝かせまくって登場されても、やることはもう何も残って無かったりするんだけど。


 それをどう伝えればいいもんかと春輝は悩むも、ハリキリ笑顔の鳳凰寺は容赦なく近付いて来て、期待に形ち満ちた目を向けてくる。


「あの、リーダー。

 大変遅くなってしまいましたけど、私は何をすればいいでしょう?」


「やること……やることか……」


 正直、何も無い。


 けど、それを伝えるのもアレだし、やっぱり何かやらせないとまずい気もする。


 ちょっと考えてから、春輝は梨のシロップ漬けを盛りつけた皿を見た。


 たぶんあれなら大丈夫だろ。


 いくら鳳凰寺でも、流石に。


 そう思って、春輝は一つ頷いてから、


「よし、鳳凰寺。

 お前はデザートに添える生クリームのホイップを作れ」


「わ、分かりました!」


「材料は俺らで用意するから、お前は泡立てる役目な。

 ……倉木、ボウルを大小二つと氷水、あとグラニュー糖を頼む」


 指示を出して、自分は冷蔵庫から生クリームを取り出す。


 さっき冷製スープにも入れたので量は減っているけど、ホイップに使うのはちょっとだけだから問題ないだろ。


 持ち出した生クリームを倉木の出してくれた小さめのボウルに注いでいると、


「兵頭、別にホイップクリームなんていらないぞ」


 顔を寄せた倉木が怪訝そうに、鳳凰寺には聞こえないよう小さな声で言ってきた。


「だろうけど、このままだとあいつ、何もしないことになるだろ」


「そうだが、班の成績というなら問題ないだろう?」


「結果だけなら、な。

 あの深閑先生のことだ、どうせ全試験部屋にカメラつけて録画してると思うぞ。

 それであいつだけ何もしてないことが分かって評価下げられたら可哀想だろ?」


「確かにな。

 やる気がある奴を何もさせずに低評価にするのは、良くない」


 カメラの可能性も考慮した結果だろうけど、倉木はそう言って頷いた。


 納得して貰えたので、生クリーム入りのボウルにグラニュー糖を目分量で適当に入れ、それを氷水入りのボウルに重ねる。


 そしてボウルと、倉木が手際よく渡してくれた泡立て器を鳳凰寺へと突きだした。


「よしっ、これを混ぜろ、とにかく混ぜろ!

 本当はコツとか色々あるけど今は何も言わない、思うままに混ぜたてろ!」


「はっ、はい!

 看板娘として精一杯、頑張ります!」


 喜色満面でボウルと泡立て器を受け取った鳳凰寺は、うって変わって真剣な眼差しで生クリームを見つめ


「いきますっ!」


 掛け声と共に鳳凰寺は、ガシャッ、と勢いよく混ぜ始めた。


 ホイップ作りは手作業だと割と疲れるけど、そこは鳳凰寺だから心配ない。


 細腕なのに力はあるし、体力面も半年間従育科で地獄の基礎訓練を受けているんだから問題ない。


 問題があるとすれば、天性のドジっぷりを発揮しないかどうかだけど、これも見据えてややこしい指示は出さなかった。


 ただ混ぜるだけなら流石に鳳凰寺だって……


「あぁっ?!

 やっ、飛び散る……!?


 鳳凰寺だって……


「ほ、ボウルが安定しなっ……ひゃんっ」


 鳳凰寺、だし……


「や、う、あっ……やっ……こ、このっ、あひゅぁっ!?」


 そうか、鳳凰寺なんだよな……


 確かに、混ぜろと言ったさ。


 とにかく混ぜろと。


 余計なことは言わなかった。


 けど、どうしてそんなに力強く、生クリームを盛大に飛び散らして、しかも同じ場所に立っていられずにふらつくのか。


「やん、だめっ、だ、だめえ……目が、目が回ってえ……きゃぅああぁぁっ?!」


 そして、掻き交ぜながら目を回して、くるくると回転した挙げ句にすっ転んで、ボウルと泡立て器を放り投げるようにしてすっ飛ばした。


 人知を超えた鳳凰寺パニックの結果、春輝の顔と服には生クリームが飛んで、倉木も呆然と突っ立っていたのか避けることが出来ずに被弾、そして鳳凰寺はぐるぐると目を回したままへたり込んで……


「ふきゃうっ!?」


 自分が投げてしまったボウルを頭から真っ逆さまに被って、生クリームと氷水に塗れました。


「……凄いものを見てしまった……」


 思わず素直な感想を口にして、春輝は頭を振った。


 流石は鳳凰寺だ。


 ラベールブロンシュが誇る、理事長をも上回る天然無能ドジ娘。


 そのスペックの高さを見誤っていたらしい。


 ……というか、ホイップクリームも作れないのか、こいつ……


 改めて思い知らされた鳳凰寺のとんでも具合に、春輝は深々とため息を吐いて……


「うっ、うぅ……ベ、べとべとするし冷たいです……」


 また半べそになっている鳳凰寺の声に、やれやれだと思いながら見下ろして……


「……うっわ」


 一時間半前にそうしていた時より、さらにとんでもないことになっていた。


 まだ固まる前だった生クリームと氷水によって所々が濡れたメイド服とエプロンドレスは、肌に張り付くようにしてメリハリのついた鳳凰寺の体を浮き彫りにしているし、特に際立っている胸は転んだ拍子に取れたのかボタンが一つ外れていて……見下ろしているこっちからは、なんか色々と見えちゃってるんだけどね?


 その辺りこいつは気付いているのかなぁ?


 もうまで来るといい加減わざとなんじゃないかって気がしてもうふらっと誘いに乗っちゃえばいいんじゃないかと思っちゃったりもして……駄目だ、末期だ。


 こっちはノックダウン寸前だっていうのに、その上で鳳凰寺はぐずりながら、


「ううっ……せっかく綺麗な体になったのにぃ……くりーむで、汚れて……」


 春輝はもやもやと処理の難しい情動に難儀して、ぐずっている鳳凰寺に掛ける言葉を探して……ややあってから適切な一言を思いつき、目を合わせないようにして、言った。


「……とりあえず、もっかい風呂入って着替え直して来い」


「……はいぃ……」


「……あと、頬に付いた生クリームを舐めるな。

 頼むからこれ以上は勘弁してくれ……」


 涙目のまま、どうも分かっていないようで看板娘は不思議そうに首を傾げ……


 そして試験終了を告げる、チャイムが鳴り響いた。


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