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高貴なお嬢様たちのちょっとエッチな仁義なき恋の戦い  作者: 神泉朱之介


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84/90

番外編・4

 三人しかいない班で、おまけに鳳凰寺が出て行って二人しかいない状況下で試験が始まったものの、春輝は特に慌ててはいなかった。


 本人には絶対に言えないけど、むしろ鳳凰寺がいなくて助かった。


 おかげで無駄な手間がかからなくて済むし。


 とはいえ、倉木の一言はしっかりダメージとして残っていて、やる気が出ない。


 だらだらするの嫌いだけど、人間、元気が出せない時にそうテキパキと動けるもんじゃないって。


 それにあんまり気を張って頑張る必要もない。


 倉木と軽く打ち合わせてみた結果、全部作るのに一時間もかからないと推測が立ったんだから、尚更だ。


 自分一人でもレシピさえあればたぶんやれる。


 魚をさばくのでちょっと手間取るかもしれないけど、まあでも、結果としてはやれるだろ。


 だから春輝は気が滅入るくらい落ち込んでいても、焦りは感じていない。


 自分と同じくモーニングコートを脱いで、ベスト姿で袖を二の腕までまくった倉木がいる。


 ルームメイトとはいえ料理を作っている姿を見たことはないけど、その万能っぷりは今までに散々見せつけられてきたから、技術面で心配することは何もないはずだ。


 と、思いはするけど、やっぱりちょっと気になる。


 入念に手洗いを済ませた春輝はタオルで水気を拭きながら,一足早く食材の方へと向かった倉木をそれとなく観察してみた。


 梨のシロップ漬けとやらの作り方を知っているのは倉木だけで、下ごしらえや煮なくてはいけない関係上一番に取りかからないと間に合わなくなる可能性があるらしかった。


 ので、倉木は果物が山盛りになっているテーブルに近付いて、梨を二つ取り上げた。


 たぶん幸水梨だろうからソフトボール大なんだろうけど、男にしては小さな倉木の手の中にあると、ちょっと大きく見える。


「のんびりと高みの見物している場合じゃないか」


 カボチャのスープもそれを冷製にするのも初めての試みだから、失敗の可能性もある。


 だから春輝は倉木から目を離し、食材選びに取りかかった。


 カボチャにニンジン、ジャガイモにタマネギと、編み籠があったので必要な材料を入れる。


 後は鍋だ。


 圧力鍋を使った方がいいと倉木が言っていたから、それを探そうと春輝は籠を持ったまま振り返り、


「ほら、圧力鍋。

 このサイズで十分だと思う」


 すぐ目の前に、片手鍋を持った倉木が居た。


「……アリガトウ……?」


 反射的にそう言って、春輝は圧力鍋を受け取ろうとして……違う、そうじゃない。


 籠で両手が塞がっているから受け取れないけど、ポイントはそこじゃない。


「倉木、お前……デザート作りは?」


 素朴かつ純粋な疑問に、倉木は、


「今、塩水につけている。

 数分はやることがないから、こっちの手伝いだ」


 ちょっと聞き捨てならないことを、澄ました顔で言いやがった。


 ……待て、塩水に、っていうのは、 梨の話だよな?


 ちらりと調理台を見ると、銀色に輝くボウルがある。


 浸けているというなら、あれのことだろう。


 春輝は疑念に駆られて、ゆっくりと調理台へと近づいてみた。


 重くて邪魔な食材入りの籠を調理台の端に置いて、それからボウルの中を覗いてみる。


 するとそこには、綺麗に皮と種周辺を切り取り六分割された二つの梨が、塩水に浸かってぷかぷかと浮いていた。


 これは、あれか。


 テレビの料理番組でよく見る『それを〇〇したのがこれですー』が発動したのか。


 いやそんなことあるはずがないと分かってはいるけど……それじゃあなんだ、皮剥いて見本になりそうなくらい綺麗にカットされたこれは、野菜選びをしていた一分かそこらでやったっていうのか?


 どっちにしても常識的にあり得ない気がする。


 倉木は成績優秀な割に変な行動も取るから今更って気もするけど、このお手軽クッキング状態は流石にどうなんだ?


 気になる……けど、余計なことを考えていても仕方ない。


 試験中だし。


 そう自分に言い聞かせ、春輝は倉木に話しかける。


「なあ、適当な大きさに切ってから鍋で煮るんだよな?」


「そうだ。

 二人分も作れば余るだろうから、分量も少なくていい」


「おっけ。

 んじゃ、洗うの手伝ってくれ」


 手短に「分かった」と返した倉木と並んで、タマネギの皮を剥いだりジャガイモの土を洗い流したりと、準備を進める。


 カボチャは皮ごと煮るからちょっと念入りに。


 そして春輝はニンジン片手に包丁を手にして、スタンバイ完了。


 隣では倉木もジャガイモを手にして、包丁を軽く握っていた。


 ちなみにイモはやや小振りなメイクイーン。


 ニンジンは常温で置かれていたからか、思っていたより硬くない。


 冷蔵庫で冷やすと硬くて皮が剥きにくいけど、これはそうでもないな。


 割と楽に剥けそうだと包丁を入れ、久しぶりだから手を滑らせないよう注意する。


 昔の勘を取り戻すようにゆっくりと、


「……あ?」


 視界の右端で何かが煌めいたような気がして、春輝はついそちらを見て、絶句した。


 ぽとぽとと、皮を剥かれ裸になったジャガイモが、カットされて落ちてきた。


「……なんだそれ」


 つい呟くも、倉木は平然としている。


 こっちを見ようとさえしない。


 けど片手に包丁、もう片方の手にはさっきまで持っていたジャガイモが消えているから間違いないよな、これは。


 混乱しそうになる頭を無理して正常稼働させるように、春輝は視線を手元のニンジンに戻してけど、やっぱり気になる。


 今の怪奇現象は一体どういう事なのか、気にならない方が変だ。


 空間の歪みから落ちてきたような魔法じみたことが、どうして、どうやって、


「……っ!?」


 左の親指に鋭い痛みが走り、春輝は思わず舌打ちしたくなった。


 刃物を扱っている時に余計なことばかり考えすぎた。


 手元が微妙に狂って、ニンジンの皮剝きをしていたはずの包丁が指を切ってしまったらしい。


 すぐに熱を持ちだした親指を見て、ため息を吐く。


 たかが皮剥きで怪我するなんて、いつ振りだか。


 幸いにも、と言うべきか、傷は浅い。


 親指の腹をちょっと切っただけで、血は多少流れているけど、放っておけばすぐに止まるはず。


 けど、この状態のまま皮剥きを続行すればニンジンが血塗れでえらくホラーな状態になってしまう。


 仕方ないから皮剥きは一時中断。


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