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高貴なお嬢様たちのちょっとエッチな仁義なき恋の戦い  作者: 神泉朱之介


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番外編・3

 結局、数分の言い争いの末、リーダーの他に『看板娘』と『現場監督』という二つの枠を設けることで落ち着いた。


 鳳凰寺はやたら嬉しげで倉木は不承不承な感じの就任だった。


 余りでリーダーになった春輝は安堵して、どうか鳳凰寺が最後まで看板娘の無意味さに気付かずに大人しくしていることを祈ってから、ようやくで本題に入った。


「んで、何を作る?

 俺は普通に家庭料理をちょっと作れるくらいだけど、倉木は?」


「レパートリーは多い方だと思う。

 レシピ無しだとそこまで凝ったものは出来ないが」


「あの、私はどちらかというとフレンチが好きです」


 全く関係のないことを言い出す鳳凰寺は、とりあえず無視。


 春輝は腕を組んで、知っている秋の食材を挙げてみる。


「茄子に、サツマイモに、カボチャか?

 魚は秋刀魚に鮭に、あとは平目もだっけ?」


「鰯や鰹、鯖もだな。

 茸類も、年中取れるものも多いが、旬の食材と言ってもいいはずだ」


「肉類に季節はあんまり関係無いしなぁ。

 ということはメインは魚料理か」


「それがいいと思う。

 魚なら僕がさばけるし、時間も余り掛けずに済むはずだ」


「んじゃ、焼くか煮るか、他の品との組み合わせも考えて決めないと」


 ポンポンと、倉木との会話でスムーズに計画が出来上がっていく。


 この辺はルームメイトの呼吸というか、ある程度料理が出来る人間同士の呼吸というか……まあどっちにしても悩む時間が短縮されるからいいことだ。


 口を挟めない鳳凰寺が何だか寂しそうに布巾で調理台を拭いているけど、そこに触れている余裕はないから、涙を吞んで貰おう。


 それが班の為だ。


 今は限られた時間を有効に使うべく、春輝は倉木と向かい合う形で話を進める。


「しかし魚っていっても、秋刀魚なんて焼く以外の調理法は知らないぞ。

 鮭も焼いて……あとはクリーム煮っていうのがあるはずだけど、やり方は知らないし。

 平目は刺身?」


「鮭も平目もムニエルにするのが一般的だと思う。

 白ワインで蒸し煮にするのもいいが」


「あー、そういやそんなのもあったな。

 食った事はないけど、 冷めても美味いか?」


「作り立ての方が美味しいがそう悪くないと思う」


 しばし俯いた後に倉木がそう言ってくれたので、春輝は「っし」と呟いて、


「んじゃ、それをメインにするか。

 となると、スープは野菜を使ったヤツがいいよな。

 鳳凰寺、暇だからって踊るな」


「ならカボチャを使おう。

 冷製ポタージュにすればいい」


「おっけ。

 んじゃ、前菜には茸を使うか。

 適当にソテーにすればそれで十分だろ。

 鳳凰寺、何もないところで転ぶな」


「デザートはどうする?

 ぶどうや柿を切って並べるだけだと、少し芸がないぞ」


「っても、俺は果物使った料理の作り方なんて知らないぞ?

 それにゼリーとかケーキとか、時間掛かるだろ。

 鳳凰寺、いつまでも床に寝てるな」


「梨のシロップ漬けなら、一度作ったことがある。

 それでいいなら僕がやる」


「あー、そういや梨も秋だっけか。

 じゃあお前に任せた。

 って、おい鳳凰寺!

 寝転がったまま泣くんじゃねえ!」


 真剣な話し合いに参加出来ていなかった鳳凰寺が、床で丸くなってべそをかいていた。


 可哀相かもしれないけど、今は忙しいので鬱陶しい。


 ……しかも涙に頰を濡らしてこっちを見上げてやがるし。


 まるでこっちが悪いことをしたみたいな構図だ。


 胸の辺りに気まずいものを感じてしまい、春輝は頬を軽く指で掻く。


 けどゴミがついたわけでもあるまいし、その程度で居心地の悪さが消えるはずもない。


 助けを求めるように倉木を見ると、クールなルームメイトは冷ややかな目で見下ろして、


「服が汚れる。

 調理前に着替えてこい」


「うぅっ……!」


 冷徹な一言で、鳳凰寺の目から溢れる涙がどばっと増量した。


 いやまあ、確かにその通りだけど。


 いきなり止めを刺すっていうのはどうなんだろうな?


 人としてというか、武士の情けというか。


 そうだな、やっぱりここは情けをかけてやるべき場面だ。


 今の追い打ちで、役立たずどころか雰囲気まで悪くする脅威の足手纏いになってしまったから、それをどうにかしないと。


 それも一応、名ばかりとはいえ、リーダーの務めなんだろうし。


 リーダーって損な役割なんだなー、と実感して軽くへコみながらも、春輝はそっと鳳凰寺の肩に手を置いて、


「分かった分かった、お前も立場が無くて辛かったんだな?

 それはよく分かったから、とりあえず立て」


「うっ……あうぅっ……兵頭さん、私……私っ……!」


 反則的な光景を直視して、思わず声が漏れた。


 ぐずりながらこっちを見上げてくる鳳凰寺の潤んだ瞳は捨てられた子犬よりも保護欲をそそるし、熱っぽい頬とふっくらとした唇はいつもながらに色気があって、しかも今日はただのメイド服じゃなくてエプロンドレスのオプション付きでフリフリだよこんちくしょう。


 服はちょっと皺が寄って乱れている程度でスカートは膝の辺りまで捲れ上がって、ああもうなんなんだこいつは。


 あーくそ、毎度の如く耐えなきゃいけないこっちは身が持たないっての。


 今回は倉木もいるから大丈夫だけど。


 ついでに言うと、倉木の視線が痛い。


 羨ましそうに見ているんならいいけど、明らかにそうじゃないと分かるマイナスオーラが伝わってきて、それが心をざくざくと刺している。


 こーいう時に同性から嫌悪の目で見られるのは、異性に侮蔑の目で見られるのよりも辛い。


 とはいえ、理解の目で見られるのも嫌だけど。


 このままじゃまずい。


 これから試験だってのに、気持ちの切り替えをしないと。


 雑念よ消えろと頭を二、三度振って、春輝は両手で鳳凰寺の腕を掴んで、引き上げるようにして立たせる。


 その際、腕の細さとか二の腕のふにゃつとした感触にどぎまぎするけど、それはある程度予測済みなので表情には出さずに済んだ……はず。


 倉木の目がより一層険しくなった気もするけど、それは気のせい、そのはずだ。


 そう自分に言い聞かせて雑念を排し、リーダーらしい心がけを肝に銘じて、春輝は出来るだけ落ち着いた声音で鳳凰寺へと語りかけた。


「いいか、鳳凰寺。

 俺達は同じ班の仲間なんだから、足りないところは補い合えばいいんだ。

 お前は、確かに料理は出来ないかもしれない」


「うっく……出来ません……」


「でもな、お前は看板娘だ。

 つまりマスコットガールだ。

 料理は出来なくていい、明るく元気に振る舞って俺達や客の目を楽しませてくれれば、それで十分に役割は果たすことになるんだ。

 俺の言っていることが分かるか?」


「は、はい……」


 まだぐずりながらも、鳳凰寺は何とか頷く。


「……よし、分かってくれたか。

 それじゃ、とりあえずお前は着替え、だけじゃ駄目か。

 一旦シャワー浴びて髪の汚れも落として来い。

 お前のいない間は俺と倉木で何とかするから、心置きなく洗って来い」


 言って目尻に浮かぶ涙を軽く親指の腹で拭ってやると、鳳凰寺は潤んだ瞳をきらきらと輝かせて、両手でキュッと包み込むように春輝の手を握った。


「私っ、頑張ります!

 精一杯、爪の先まで磨いて、綺麗になって戻って来ます!」


 そう力強く宣言すると、鳳凰寺は駆け足で調理室から出て行った。


 春輝はそれを見届けて、「ふう」と小さく息を吐いた。


 どうなることかと思ったけど、何とかなった。


 この調子なら、そう酷い結末にはならないかもしれない。


 一仕事やり終えた満足感に浸っていると……何故だか、春輝は横からじとっとした視線を感じた。


 確認するまでもなくその主は倉木で、人生の落伍者か万引きして捕まる中年のおばさんを見るような、妙に醒めた目をして……


 ぽつりと、言った。


「……兵頭」


「なんだよ?」


「お前は執事なんかじゃなくて、ホストにでもなれ。

 この女誑し」


 いや、その、なんだろう。


 この納得のいかない気持ちは、なんだろうな?


 そりゃあまあ確かに、ちょっと臭いというか、自分でも詐欺っぽい言い方をしたような気もしないでもないけど、どーして同じ男にそこまで言われなきゃならんのか。


 リーダーとしての責務を果たそうとしただけなのに、それだけなのに……


 女誑しの一言に途方もないショックを受けて呆然としていると、調理開始を告げるチャイムが鳴り響く。


 それをどこか遠くに感じながら、春輝は心の中で呟いてみた。


 さっきの訂正。


 こいつらまとめて上手くやるなんて無理過ぎですごめんなさい。


 思い上がっていた自分を戒めて……大きくため息を吐いた。


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