ことな
子供の頃、俺はずっと一人だった。
お父さんとお母さんは忙しくて、家に帰ってこない日が多かった。
幼稚園から帰ると、家には俺一人きり。
孤独に耐えられなくなると、俺は家の前の公園に向かった。
ただ、何かをするわけでもなく、ぼーっと噴水の水を眺めるだけ。
そのときだった。
「あの…こんにちは。よかったら、一緒に遊ばない?」
「私、ことなっていうの!あなたは?」
一人だった俺に、ことなが手を伸ばしてくれた。
初めての友達になってくれた。
ことなの両親は、離婚したらしい。
何があったのかよくわからないけど…
お父さんが仕事に行くと、俺と同じで家に一人きり。
ことなも、寂しかったんだと思う。
俺たちは、お互いの寄る辺になった。
毎日のように公園で集まって、一緒にいる。
特別何かをしなくてもよかった。
ただ、隣にことながいるだけで、俺は安心できた。
思えば、そのときからだったのかも知れない。
ことなが俺にとって大切な人になったのは…
「ことなちゃん!大きくなったら僕と結婚しよう!」
…そんな約束もしたっけ。
子供の頃だったけど、すごく緊張してた気がする。
俺には…ことなが全てだった。
江東区事件のあと…ことなと疎遠になったときは、本当に悲しかった。
寂しかった。
でも、ことなが俺を拒むなら、引き止めることはできなかった。
会いにいきたい気持ちを押さえて、好きな気持ちも忘れようとして、いつまでも待ち続けたっけ。
また話しかけてくれたとき…
ことなのお父さんが失踪した悲しみもあったけど、それよりも、ことなとまた昔みたいに戻れるかも知れない喜びの方が勝った。
ことなが人を殺めたときも…俺にはどうでもよかった。
ことな以外の人間の命に、価値なんて覚えられなかったから。
そんなことより、苦しむことなを慰める方が先だった。
ことながまた俺を受け入れてくれたときから…なんとしてもことなだけは守り抜くって心に誓ったっけ…
ーここは、あまりにも暗くて冷たい。
いつから歩き始めたのかも、どうして歩き始めたのかも忘れて、ただいつになったら終わるかもわからない旅を続ける。
どうして、歩き始めたんだっけ…
そうだ、俺は、発現者を脅かすやつらが憎かった。
だから、根絶やしにするって決めた。
…本当か?
俺は、そんなに他人を思う人間だったか?
そのときだった。
一筋の温もりが、俺の胸に染み込んだ。
いつか…どこかで感じたことがあるような…暖かな感じ…
俺はふと、その温もりの正体を知りたくなった。
俺は、目を塞ぐ闇を振り払い、目の前のものを見ようとした。
そのとき、俺は気づいた。
そうだ…俺は…皆を守りたい訳じゃなかった。
俺が望んだのは…そんなことじゃなかった。
俺が守りたかったのは…最初から…ことなだけだった。
ことな…
やがて、闇が晴れ、目の前のものが見えるようになった。
そこには、ことなが…俺を抱き締めたまま消えようとしていた。
…
…
…!
「ことなああああああああぁ!!!!!!」




