強行
どうして、アメリカは発現者の兵士を起用できたのか。
日本にしかいないはずの発現者が、どうしてアメリカにいるのか。
その答えは、晴磨の両親、坂巻夫婦にあった。
彼らは、江東区の事故で死亡していない。
江東区事件勃発前、彼らは既に日本政府を裏切っていた。
彼らはサンティウムの研究データをアメリカに売り飛ばし、政府の追跡を避けそこへ亡命した。
晴磨を、たった一人で日本に残したまま。
そして、彼らは横領したサンティウムのサンプルを用いて研究を続け、独自で発現者を量産した。
ー「Fire!!!」
人類の科学の結晶、人の力で再現された神の裁き。
アメリカの最終兵器にして最強の非核兵器。
神の杖の名を持つ、「ロッズ・フロム・ゴッド」が今、晴磨の頭上で放たれた。
ただ一人の人間、坂巻晴磨を始末するためだけに。
空から降り注ぐ神の鉄槌に、晴磨も気付いていた。
しかし、晴磨は全く動じなかった。
ただ、地上を歩き、全てを無に還していった。
宇宙から放たれた、莫大な運動エネルギーを持つ質量の塊は、晴磨の場に触れた瞬間、呆気なく崩れ去っていた。
音も立てず、跡形もなく、まるで、初めから存在しなかったかのように。
晴磨は進み続けた。
晴磨が通った道には、悲鳴も、血も、涙も残されていなかった。
ただ、そこには何もなかった。
そのときだった。
晴磨は、何かを感じ取り足を止めた。
闇に覆われ、晴磨には何も見えていなかったが、極まった感知能力で目の前にいるのが誰なのか、はっきりわかった。
嗅いだことのある匂い、見たことのある形。
「は、晴磨…!晴磨だよな…?!」
「僕だ!君の父さんだ!」
「お母さんよ!もうこんなことはやめましょう…?」
「そ、そうだ!こんな愚かなことをしても意味がない!もうやめよう…?まさか産みの親である僕たちを手に…」
晴磨は、迷いもせず、ただ一歩を踏み出した。
そして、坂巻夫婦は、もうそこにはいなかった。
「…親?」
「だからなんだってんだ」
「俺を産んだだけだろ」
ー「全国で、NEO発現者による市民革命が起こっています。発現者たちは坂巻晴磨の行動に触発されたとのこと、発現者の権利を取り戻すという意思を表明しており、NEOを使い破壊行為を繰り返しています」
「坂巻晴磨、テキサス到着」
「坂巻事態、このままでは日本は…」
「はるくん…」
「蘇我さん…何かはるくんを止める方法はないんですか…?」
「…彼は今恐らく、暴走状態だ。暴走が止められれば或いは…」
「じゃあ、暴走を止める方法って…!」
「…発現者の暴走は、魂に貯蔵されたエネルギーが切れるか、意識が途切れるまで止まらない。今まで報告された事例ではね…」
「じゃあはるくんのエネルギーが切れれば…!」
「しかし、坂巻くんは、外部からエネルギーを吸収し、魂に循環させている…エントロピーを逆らう彼は謂わば、生体第二種永久機関になってしまった…!」
「じゃあ…」
「…彼の暴走は、この宇宙のエネルギーが枯れきるまで終わらない…」
「そんな…」
「…!」
「香住くん!!どこに!!」
ことなは、ひたすら走り続けた。
このままじゃ…はるくんが戻れないところにいっちゃう…
それだけは…絶対いやだ…!
ー総理官邸は、既に怒り狂った群衆に囲まれていた。
警察たちは、発現者たちを盾で押し返すことで精一杯だった。
ことなは、彼らを軽く飛び越え、官邸の塀を越えた。
「いいぞ!!総理を外に出せ!!」
ことなは、官邸の扉を壊し、中へと入っていった。
「私は悪くない…全部…前の政権のせいだ…どうして私がこんな…」
「総理」
「ひいい!!助けてくれ…!」
総理は身体をすくめ、怯えていた。
「総理、お願いがあります」
「な、何でもしますぅ…命だけはご勘弁を…」
「私を手伝ってください」
「な、何のお手伝いを…?」
「私が、坂巻晴磨を殺します」




