疾走
「そんなの無茶だよ…」
「わかってる…でも他に方法がないだろ…」
「それは…そうだけど…」
「ことなの協力が必要だ。ことなが準備できたら…始める」
そう話してるうちにも、空は俺たちに空気の弾を飛ばしてきた。
「右!」
「うわっ、」
俺たちは、再び攻撃をかわした。
今は避けられてるけど…空がもう少し本気を出したらわからない。
「…悪いけど、できれば早くしてほしい…いつまでこうして避けられるかわからないし…体力が多い方が有利だから…」
「はるくん…」
「わかった、やりましょう。でも…一つだけ約束して」
「絶対生きて帰ってきて」
「…うん」
「行くぞ、準備はいい?」
「…うん!」
ことなのその返事に、俺はすぐに心臓にエネルギーを注入し始めた。
前と同じで、身体中の血流が速くなるのを感じた。
これを使ったら…もう引き返せない。
失敗は許されないんだ。
一気に決める…!
俺は、山を下り、空の方へ走り出した。
「…!」
空の無表情の顔に、微かな慌てが浮かんだ。
そして、すぐに俺に向かって手を翳した。
俺は、ことなの「指示」に合わせてそれを避け、走り続けた。
俺の計画というのは、大したものじゃない。
空に遠距離で勝つことは絶対不可能。
ならば、近づくしかない…!
だから、身体能力を増強させ、一気に全力疾走で空に近づき、制圧する。
ただそれだけの、ばかな作戦だ。
ことなが空の攻撃を予測して、俺をNEOでそっと押して知らせてくれる。
その指示を頼りに、俺は走り続けた。
転んだら終わりだ…
速く、そして一歩一歩正確に踏み込む…!
「空あああぁ!!!」
あと10メートルくらい。
もう少し!
「次は左…!」
ことなの指示に反応し、俺は右に移動して走った。
その瞬間、空と目があった。
空は、俺に向かって左手を翳していた。
「はるくん!!」
左はフェイントだったのか…!
左の方にエネルギーを集中させて左から来ると見せかけて、俺が方向を帰る隙を狙って、ことなの感知が追いつかない速さでまた右に…!
だめだ…慣性がかかって避けられない…!
俺は、とっさにNEOを発動して正面の空気を止めようとした。
しかし、空が飛ばした空気の弾の勢いを完全に殺すことはできなかった。
「くあっ、」
まずい…肋をやられた…折れたかも…
口から、鉄の匂いを感じる。
終わりだ…
いや、だめだ。
止まるな。走り続けろ。
「うああああっ!」
「…どうして…?!当たったのに…」
空は、ゆっくり後に下がろうとしていた。
俺は興奮で痛みを紛らわせ、ただ空に手を伸ばした。
そのときだった。
無理矢理押し込んだエネルギーに加速された俺の頭脳が、危険を察知していた。
おかしい。俺にもわかる。
明らかにあそこだけ、空気が違う…!
「あっ、」
空がそう声を漏らし、すぐに俺の方に暴風が襲った。
まずい…!加減されてない…死ぬ…!
エネルギーのせいか、死を目前にしたせいか…周りの世界が止まったように遅く感じられた。
「うわああああっ!!」
火事場の馬鹿力という言葉がある。
極限的な状況に追い込まれた人間は、時折あり得ないくらいの力を発揮する。
その瞬間、俺にもそれが起こった。
俺のNEOは、目の前の空気を全て、暴風ごと凍らせていた。
「…!!」
その先の空に視線が当たり、俺は急いでNEOを止めようとした。
「空!!」
氷は、空の目の前で左右に分かれ、空を覆うようにして止まった。
「これを…俺が…?」
「空…無事なのか…」
興奮が切れ、俺は血流加速とNEOの使いすぎの余波で倒れてしまった。
ー「…どうして?」
「私ごと凍らせれば殺せた…」
「はるくん!!」
空は、戸惑いで思考が停止してしまった。
そのとき、後からは無断で離脱した富沢が空に迫っていた。
富沢は、素早く空に近づき、空を気絶させた。
「あっ、」
「…やっぱり、こんなことは間違ってる…」




