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アウリサさらわれる。アモヴォールの卑劣なさくせん。

さらわれたアウリサ。アモヴォールの卑劣な作戦

──静寂の空間。


周囲は鏡のように滑らかで、冷たく光を反射する床と壁。天井も床も曖昧で、どこが境界かさえ分からない。ただ、全てが光を弾き返し、音を吸い込むような無音の“鏡の間”。


その中心に、女が立っていた。


金色の長い髪が、ゆったりと肩に流れ落ち、深い青のドレスが水面のように静かに揺れる。身体には粒子状の光がふわりと漂い、まるで淡い息をしているかのように、衣服の輪郭をほのかに滲ませていた。


──だが、その顔には何もなかった。

目も、口も、鼻も── 一切の“顔”を示すものは無く、ただ漆黒の闇が渦を巻き、光を飲み込んでいた。


その“闇”の中から、甘く湿った声が響いた。


アモヴォール: 「あら……機械も、竜も、砂の王も……やられてしまったのね?」


ゆっくりと手を胸元に添え、目のない“顔”を少し傾ける。指先が空中をなぞると、鏡の床に淡い光が波紋のように広がり、そこにナズナたちの姿が滲み出す。


──荒れ果てた砂の世界に、ナズナが立っていた。祈りを捧げ、仲間たちと力を合わせ、死んだ大地に光が満ち、草木が芽吹き、命がよみがえる“あの瞬間”。


アモヴォールの体がわずかに震え、吐息が熱を帯び、光の粒がパチパチと弾けた。


アモヴォール: 「ああ……たまらない……ナズナ……あの瞬間の感動、祈りと希望が結晶になったあの一撃……あれほど美しいものは他にない……!」


金の髪が肩に流れ、深い青のドレスが僅かに波打つ。口元のない“闇”から、笑みのような気配が滲み出た。


アモヴォール: 「興奮してきたわ!……そろそろ、食べ頃かしら? あなたの“感情”を、この手で……この舌で……味わい尽くしたいわ……。」


鏡の床に映るナズナたちの姿を、光の粒が覆い隠す。そして、その視線がゆっくりと地上へ──ナズナたちが過ごす“夕食の食卓”を見つめ始める。


──“未完成の最高級フルコース”。


その言葉を胸の中で繰り返しながら、アモヴォールの輪郭が、鏡の奥に溶けていった。


----------------------------------------------------------

花芽瑠璃の屋敷、夜。


豪奢なダイニングに、あたたかな光が揺れる。食卓には湯気の立つシチュー、香ばしいパン、色鮮やかな野菜の皿が並び、穏やかな会話が途切れ途切れに続いていた。イグニスがパンを頬張り、九条がスープをこぼし、ウズメと結月が笑い声を上げ、千界は忙しそうにスマホを見ながら食べる、ルミエールが穏やかにみんなを見守り、カデンからのナンパを無視する。その輪の中で、ナズナはスプーンを握ったまま、静かに考えていた。


先日召喚された、ノノと言う少女はあれから取り乱すわけでも無く、淡々と日常に混じっている。とてもマイペースで、日中は花芽瑠璃の屋敷の時計を片っ端から集めたり分解して大変らしい。たまに掃除や料理を手伝うのでメイド達からはとても可愛がられているのだとか.......


花子は時折現れては消えを繰り返し、屋敷の面々に、幽霊として恐れられているらしい。正真正銘の幽霊だから当たり前なのだが.......ノノの事をたまに見て観察もしているらしい。なんとなく雰囲気が同じなのでシンパシーが合うのか?


ナズナ: (……今日は何も起きなかったな……)


昨日は死線を越えた。イシュファールとの戦いの記憶が、今も微かに指先を震わせる。それでも、今日のこの空気は、あまりにも穏やかで──少し怖いほどだった。


だが、次の瞬間──。


カシャンッ。


乾いた音が、何の前触れもなく響いた。振り返ると、大きな窓ガラスに、微かに“人影”が浮かび上がっていた。薄く、白金色の髪をなびかせ、微笑みを湛えた女の姿。輪郭はぼやけ、まるで結露が人の形を作ったように滲んでいた。


ウズメ: 「なんですかあれ!?……」


誰かが呟くより先に、アモヴォールの声が、窓ガラス越しに、甘く、艶やかに響き渡った。


アモヴォール: 「あらあら……ごきげんよう。楽しい夕食を楽しんでいるところ、失礼するわね?」


ナズナの背筋が凍りつく。ガラスに浮かんだアモヴォールの瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめ、笑みを深めた。


その瞬間、ガラスの表面に小さな“ひび”が走った。光が漏れ出し、空間が震え、食卓の上のスプーンがカタカタと踊り始める。空気が歪み、揺れ、アウリサの周囲に淡い光の粒が集まり始めた。


アウリサ: 「……えっ? な、なにこれ──?」


彼女の体が、椅子ごとゆっくりと浮き上がり始める。椅子が床から離れ、宙に持ち上げられ、食器が次々に転がり落ちていく。アウリサが必死にナズナを見つめ、手を伸ばすが、その腕は引き寄せられるように空中へと引き込まれていく。


ナズナ: 「アウリサ──ッ!!!」


ナズナが駆け寄ろうとするが、まるで空気そのものが壁となり、押し返される。力が通じないというより、発揮できない。おかしい。息が詰まる。周囲の景色が歪み、ガラスに映るアモヴォールの姿が、ゆっくりと口を開いた。


アモヴォール: 「この子──とっても可愛らしいわ。ええ、涙も笑顔も、私好み、洗練されてて、……とってもいい。♡、最高の“前菜”になりそうね。」


アウリサの体が光に包まれ、窓ガラスが割れもせず、ただ黒い穴のように“歪んだ空間”が開き、彼女を引き込んでいく。必死に叫ぶアウリサの声が、次第に遠ざかり、途切れていく。


アウリサ: 「ナズナちゃ──んっ!!!」


──そして、その姿は完全に消えた。


その異常な光景に、一同は驚愕し慌てふためき、何があったか理解できない。異界の面々もアウリサならば、逃げられたはずなのに、何故彼女は何もできず引き込まれたのかよくわからなかった


室内の空気が沈黙に包まれた瞬間、ANEIの端末が青白い光を放ち、宙にアモヴォールの映像が投影された。


アモヴォール: 「未完成の最高級──ナズナ。あなたにだけ、特別な“ご招待”を差し上げるわ。……お友達を守りたいのなら、お一人で、わたくしのところへいらっしゃいな? あなたの一番美しい“涙”と“笑顔”を、最後の晩餐として楽しみにしているわ……ふふふ。」


映像が消え、窓ガラスの人影も霧のように消え去った。破壊の痕跡もない、ただの静かな夜。けれど、そこにいた全員の心は、怒りや恐怖で張り裂けそうになっていた。


ナズナの拳が、食卓の上に打ち付けられた。湯気を立てていたシチューの香りさえ、もう何も意味を持たなかった。


ナズナ: 「……!!!」


室内の空気が張り詰めていた。


テーブルの上で拳を握りしめたナズナを見て、ラスナの眉間がピクリと動いた。


ラスナ: 「……ふざけるな……ッ!」


その低い声が、ダイニングの空気を裂いた。普段感情を荒げるタイプでは無いラスナが立ち上がり怒号をあげる。瞳の奥に怒りの光が宿り、ナズナを見据えるその目は、燃えるような憤りに満ちていた。


ラスナ: 「あんなおかしな奴の好き勝手にさせてたまるものか……!!!あやつめ、我を見くびるなよ……」


ルミエールもまた、ナズナの隣で立ち上がり、声を震わせていた。


ルミエール: 「ナズナ……私も行くわ! あんな卑劣な奴に、アウリサが好きにさせるなんて絶対に許せない!人をさらう事を何とも思わない存在に対話は望めないわ……」


ウズメや結月はみんなの怒りで乱れた姿にあたふたしだす。総一郎は何がアウリサを助けるうえで一番の方法か一人考え込む。花芽瑠璃は、神代セリカに自分がさらわれた時を思い出し、今後ナズナが取るであろう行動に勘づく。イグニス無表情だが、目の前のコップの水が一瞬で蒸気に変わる事を見れば、内心憤慨してるのかもしれない。


ノノは何も起きてないかの様に、クリームシチューを頬張り時計を見つめる


その空気の中で、カデンが口を開いた。


カデン: 「……感動を奪う神格、アモヴォール……。あいつのことは、ANEIの情報とか前の作戦会議であらかた知ってたけど……確定だな。あの魔法少女のアウちゃんを簡単に連れ去れる力……あれは“ただの強引な能力”じゃない。」


カデンの瞳が冷たく光り、指先で空中に情報の軌跡を描くように動かす。


カデン: 「あいつ、感動を奪うだけじゃない。“能力”そのものもを完全に無効化できるタイプだな。何もできずにあの子がさらわれた時点で、確定だ。」


ナズナが小さく息を呑んだ。


カデン: 「……だからこそ、俺も行く。あの厄介なタイプには、俺みたいな奴も必要だ。物語を書き換える力を持つグリマ=ゼルゼ……強制で異世界に飛ばし二度と入れなくするカガミノミコト。それを使えば、何か手立てがあるかもしれない。」


場の空気が固まる。皆がナズナを見つめ、「私も」「僕も」と次々に声が上がる。


だが──。


ナズナ: 「……ダメ。みんな、絶対に来ないで。」


その一言が、氷の刃のように場を切り裂いた。ナズナの声は震えていたが、その瞳は揺るがなかった。強い意志の色を宿し、仲間たちを見回す。


ナズナ: 「今、私たちが無理に動けば……アウリサがどうなるか分からない。あの声、あの“呼びかけ”……彼女は絶対、私にだけ来いって言った……。それ以外は全部“命令違反”と見なされる……そういう、空気を感じた。」


ナズナ: 「命令違反をすれば……迷いなく何かをしでかす.......間違いなくそんなタイプだよ。雰囲気で分かる、何度も見てきたからね」


ナズナの手が震え、唇が震え、それでも言葉を紡いだ。


ナズナ: 「だから、私が行く。……一人で、行く。」


その決意に、ラスナが拳を震わせた。


ラスナ: 「ふざけるな! たとえどんな命令だろうと、あやつを奪われて黙ってられるか!!奴のくだらん意思が動くその前に、我の一閃を浴びせてやるわ!」


カデン: 「そうだぜ、お前ひとりで行って何になる?能力が使えねーんだよ。対話か?あいつが対話を聞くたまか?」


ナズナ: 「じゃあ、どうすれば……」


スヴァレ: 「お前ら、俺らの事忘れてねーか ひひ」


瑠璃の屋敷の銅像に器用に乗っかり、真っ赤な羽を広げてそう言う


スヴァレ: 「俺が監視の悪魔と言われるのは、誰にも気づかれずに動けるからだ、何も観察がそこまで好きなわけじゃねぇ。ここにはケタ外れの存在ばかりだが、その点で言えば俺は誰にも負けねー自信がある。かくれんぼをすれば一等賞だ。」


ナズナ: 「ホントか!!!」


スヴァレ: 「あぁ......でもあれか......あの不気味な女は微妙だな」


カデン: 「花子か!......そうか、それがあるか、花子と、この赤い悪魔ならアモヴォールにも気づかれず接近できるぜ、それに花子は相手の能力無視で、自分と同レベルまで下げれるからな、あいつの能力無効化の能力も解除できるぜ......でも、この会話を聞かれてなければだがな」


ナズナ: 「きっと聞いてるよ......ずっと私を見てたんだから.......でも、ありがとう。みんな一緒に考えてくれて」


スヴァレ: 「それに関しては、大丈夫だぜ。俺はこうなる感じ、してたんだ。あの不気味な気配感じてから。あいつが連れ去られてから今までの間、外からは監視のできねー様に、この屋敷全体を結界で覆っておいたぜ」


カデン: 「やるじゃねーか!!!名前何だっけ!?」


ラスナ: 「ほう......このタイプの悪魔も珍しい、かなり優れたやつじゃ......お主名は???」


千界: 「諜報のプロか、頼もしい。人間と任務に就く気は無いか?君の名は?」


ルミエール: 「優しい悪魔さんね。お名前は?」


花子: 「なにすればいいの?.......あれ、だれ?」


スヴァレ: 「あのさー.........お前らわざとやってるだろ?」


ANEI: 「スヴァレさんです。」


スヴァレ: 「お前だけはずっといいやつだよ」


ナズナ: 「.........これで、いけるかもしれない。.......絶対助けてみせるから。本当にありがとう。スヴァレ」


スヴァレ: 「お、おぅ.....」


その後、ナズナ達はアモヴォールの攻略法をナズナ、スヴァレ、花子と言う人員に絞って、どう展開するかを考えつくした


---------------------------------------------

花芽瑠璃の屋敷のガレージ。夜の闇が深まる中、ナズナは瑠璃から借りた黒の車に飛び乗った。エンジンをかけ、アクセルを強く踏み込む。


ナズナ: (アウリサ……待ってて!すぐに行くから!!)


エンジン音が唸りを上げ、車体が揺れる。ナズナはハンドルを握りしめ、目を細めた。胸の奥が熱く痛む。焦りが身体を突き動かし、心臓が爆発しそうなほど脈打つ。スピードメーターの針が一気に跳ね上がった。


ナズナ: (お願い、間に合って──!)


一方その頃、屋敷の屋根の上。


スヴァレが赤い羽を広げ、鋭い眼光で夜空を睨む。その腕には、ぐにゃりとした無重力感で笑顔を浮かべる花子がぶら下がっていた。足をバタバタさせ、まるで遊園地のブランコにでも乗っているかのようだ。


花子: 「わーい......たかいたかいだぁ.....」


スヴァレ: 「おい!暴れるな!!マジでお前大丈夫か!?……頼むから落ちんなよ!?勘弁してくれよ、ほんとに……!」


スヴァレが両手で花子の腕を掴み、大きな真っ赤の翼を広げて夜空に舞い上がる。翼が夜風を裂き、空気が震える。花子は相変わらずキャッキャと笑い、意味不明な鼻歌を口ずさみながらくるくると身体を回していた。


スヴァレ: 「頼むから、もう少しおとなしくしてくれ……ッ!後で沢山暴れていいから」


上空から見下ろす景色には、街の明かりが遠ざかり、黒い大地と湖が広がっていた。


その湖は、まるで夜空を映したかのように静かで冷たく、風もなく、月明かりが微かに水面を照らしていた。だが、その中央──。


そこには、まるで何もないはずの湖面に、人工物のような“何か”が浮かんでいた。


──鏡面の舞台。


湖の水面に、銀色に輝く鏡のような物質が広がり、幾何学的な文様を描いている。その中心には、ガラスのように透明な箱が一つだけぽつんと浮かんでおり、その中で、アウリサが目を閉じ、静かに囚われていた。


スヴァレ: 「あそこだな、俺達は少し待機だ。」


花子: 「きらきらきれいだねー......とりさん」


スヴァレ: 「あぁ.....そうだな」


ナズナもトップスピードで車を飛ばし、湖畔の間近くまで到着した


ナズナ: (アウリサ……っ!!)


車のヘッドライトが湖畔を照らし出す。ナズナはブレーキをかけず、車ごと砂利道を突っ切り、湖の前まで一気に駆け抜けた。砂利が舞い、車体が揺れ、心臓が軋むように痛む。


エンジン音が止み、ナズナはドアを開けて飛び降りた。胸の奥で熱いものが煮えたぎり、喉が張り裂けそうになる。湖面の向こう、透明な箱の中で静かに閉じ込められているアウリサが、まるで遠い夢の中のように、儚く揺らいでいた。


一方その頃、スヴァレと花子は上空から湖の中心を見下ろし、ナズナの様子を伺う


花子: 「きらきら......さわりたい....とんでいい??」


スヴァレ: 「バカか!!落ちたら帰れねぇだろ!!お前、ほんと、頼むから頼むから……!」


そして、地上


ナズナは、歯を食いしばり、湖の向こうに向かって叫んだ。


ナズナ: 「アウリサ──!!私が、絶対に助けるから!!!」


夜風が吹き、波紋ひとつない湖が、冷たく彼女の声を吸い込んでいった。


アウリサ: 「ナズナちゃーん!!ここよー!!」


遠くから、か細い叫び声が聞こえた。湖面に浮かぶ透明な箱の中、アウリサが両手で壁を叩き、必死に助けを求めている。声が震え、瞳には涙が溢れ、唇が震えて何度も「助けて」と繰り返している。


ナズナ: 「アウリサ──!!」


ナズナは迷わず走り出した。足元の湖畔が、いつの間にか滑らかな鏡面のように変わっている。水面に薄く光が反射し、空と地面の区別がつかない。その上を、ナズナは息を切らし、必死に駆け抜けた。


ナズナ: 「今助けるから……ッ!!」


ヴァルゼ・グリムを抜き放ち、刃を煌めかせる。湖面に剣が反射し、光の線が走る。箱までの距離が一気に詰まり、ナズナは渾身の力で剣を振り下ろした──!


──ギィンッ!


鋭い金属音。火花が散る。だが、手応えがない。刃は透明な箱に弾かれ、まるで空気を斬ったような虚無感だけが残る。力を込めようとしても、腕に力が入らない。全身が痺れるように重く、視界が滲み、思考が鈍る。


ナズナ: 「っ……何で……!?」


再び振りかざしたヴァルゼ・グリムが、今度は鈍い音すら立てず、ただ箱に触れた瞬間、力を吸い取られるように動きが止まった。


その時──。


空気が震え、鏡面の舞台の上に、金色の髪と青いドレスを纏った女が、音もなく現れた。金の髪がゆるやかに揺れ、無数の光の粒が舞い上がる。そして、顔のない“闇”の奥から、甘く艶やかな声が響いた。


アモヴォール: 「あら……やめたほうがいいわ、ナズナ。」


声が湖全体に満ち、冷たく、しっとりとした笑みが滲み出る。


アモヴォール: 「ここは──“どんな物語も、どんな能力も通じない”、わたくしの無垢な舞台。“オーディエンス・ゼロ”。」


その言葉が告げられた瞬間、空気が凍りつき、ナズナの手からヴァルゼ・グリムが落ちた。


ナズナ: 「っ!? な……に、これ……!」


アモヴォールの声が低く響き、湖面に囁きが広がる。


アモヴォール: 「これは“観客のいない舞台”。だから、あなたたちの物語も、力も、意思も、ここでは全て──無意味なの。」


彼女のドレスの裾がふわりと広がり、鏡面に花のような紋様が浮かび上がる。


アモヴォール: 「焦らないで、ナズナ。今はまだ食べ頃じゃないの……もう少し、感情を熟成させてから、いただくわ。」


アモヴォールの“顔のない闇”が、微かに笑ったように見えた。


アモヴォール: 「でも……この美しい真っ白な子の“美味しそうな絶望”は、今すぐいただきたいの……。」


ナズナの鼓動が、耳の奥で悲鳴を上げる。アウリサの必死の声が、透明な箱の奥から響いた。


アウリサ: 「ナズナちゃーん!!たすけて……ッ!!!」


ナズナは歯を食いしばり、叫んだ。


ナズナ: 「アウリサァァアアアアアアッ!!!!!」


だが、その叫びは鏡面の舞台に吸い込まれ、かすかに波紋を広げただけで──何も変わらなかった。


ナズナは静かに息を整え、震える声を押し殺しながら、アモヴォールを見上げた。


ナズナ: 「……ねぇ、話を聞いて。」


その声は、決して大きくなかったが、湖面に反響し、確かにアモヴォールの“顔のない闇”に届いた。


ナズナ: 「あなた、私の“感動”に興味があるんでしょ?」


一瞬、空気が揺らいだ。アモヴォールのドレスの裾がふわりと膨らみ、金の髪がゆるやかに流れる。無数の光の粒が宙に舞い、微かに甘い笑みの気配が滲んだ。


アモヴォール: 「……あら? そう、もちろん。聞かせて。あなたの“感動”、とても興味があるわ。」


その声には、いつもと同じく艶やかで柔らかな響きがあったが、僅かに──ほんの僅かに──期待が滲んでいた。


ナズナはゆっくりと一歩、前に出た。恐怖で足が震える。だが、それでも目を逸らさず、言葉を繋いだ。


ナズナ: 「あなたは“感動”を欲しがる。それは、この世界で“祈り”や“希望”、そして“感動”こそが何より美しいものだって……知っているからでしょう?」


アモヴォールの闇が、微かにうねった。無数の光が彼女の周囲で渦を巻き、湖面の鏡がかすかに揺れる。


アモヴォール: 「ふぅん……分かっているじゃない。」


その声音には、心地良さを味わうような甘さが滲んでいた。だが、ナズナは続けた。


ナズナ: 「でもね──あなたは、それで完璧に満たされたことはないんでしょう?」


その瞬間、アモヴォールの周囲を漂っていた光が、わずかに止まった。


“闇”が、黙り込む。


ナズナの心臓が早鐘を打つ。息が荒い。だが、言葉は止めない。


ナズナ: 「満たされるわけないよね、それは根本的な崩壊の恐怖を一時的に紛らわしてるだけだもの。」


アモヴォールのドレスが、微かに波打つ。だが声はない。ナズナは睨みつけるように言葉を吐き出した。


ナズナ: 「あなたは、目の前の“快楽”で……死の恐ろしさを埋めようとしている。」


湖面に波紋が広がり、アウリサの閉じ込められた箱が、微かに軋むように揺れた。


ナズナ: 「それじゃあ──いつまでたっても、根本的な解決にはならないでしょう?」


言い切ったナズナの声は、震えながらも確かに湖面に響き渡り、アモヴォールの金の髪と青いドレスを揺らした。


──沈黙。


アモヴォールは何も言わなかった。ただ、鏡面の空間がきしむような音を立て、夜風が冷たく吹き抜けた。


アモヴォール: 「知った口を利くじゃない?あなたに死を超えられるとでも言うの?」


ナズナ: 「えぇ。みんなで崩壊の恐怖を超えたいと思っているわ。」


アモヴォール: 「変わった子ね.......」


ナズナ: 「よく言われる、あなたと同じ。」


アモヴォール: 「まぁ!いってくれるわね」


ナズナ: 「それに、あなたはに伝えないといけない事がある」


アモヴォール: 「何?」


ナズナ: 「この世界、人間の地球を含めた全ての世界はもうすぐ滅びるかもしれない。嘘では無い、私をずっと監視してたのなら知ってたはずよ?」


アモヴォール: 「えぇ......知ってるわ。だからですのよ。あなたという存在をを最後のディナーで頂こうとしてますの」


ナズナ: 「そうだったんだ.......それでいいの?感動、もう食べられなくなっちゃうよ?」


アモヴォール: 「それでいい???他にどれがあるんですの?」


ナズナ: 「私が願う世界、あなたはもう知っているかもしれないけど........セレノヴァ、イシュファール彼らも賛同してくれた世界」


ナズナ: 「ねぇ、アモヴォール──私が目指すのはね、どんな世界のどんな生き物も、現象も、物質も──全部が、お互いを慈しみ合い、共に生きる世界なんだ。」


ナズナ: 「私は過去の世界の“祈り”を受け取り、それをこの世界で繋ぎ直してきた。仲間たちと力を合わせて、崩れかけた場所を照らし、立ち上がってきた。崩壊した過去は消えたかもしれない。でも、その祈りは確かに生きて、今ここにあるんだ。」


ナズナ: 「だから私たちがみんなで、祈りを連鎖させて、崩壊を越えて、新しい世界を作れたなら──それは、“祈りの力が崩壊を超えた証”になる。たとえ自分が滅びたとしても、何かが生まれ、繋がる。それはきっと、“生まれ変わる”ってことなんだと思う。幸せな連鎖の中で──」


ナズナ: 「そして、そんな世界が生まれれば、今の世界なんて比べものにならないくらい──尽きることのない感動で溢れると思うの。」


ナズナ: 「もしその時、あなたが私たちと一緒にいるなら──きっと、もう崩壊を怖がる必要もないし、感動を食べて満たそうとする必要もなくなる。みんなと一緒に生きて自分も未来に繋がるって安心感だけで満たされると思うんだ。」


アモヴォール: 「本当に良い子ね。だからあなたに引き付けられたのね私。」


アモヴォール: 「確かに、"全てが崩壊し感動が皆無の世界"と"感動に満ち溢れた世界"、これらを天秤にかけると、どちらを選ぶなんて明白ね。あなたの意見も私は理解できる」


ナズナ: 「じゃあ........!」


アモヴォール: 「賛同するわ!!一緒に歩みましょう!!感動の溢れる未来へ!"この子を食べてから"」


ナズナ: 「え.......」


アモヴォール: 「ごめんなさい。すべて理解できるのだけれど、それを上回る私の本能は"これ"を食べる事を誰にも譲れないの。それが本能。本当にごめんね、ナズナ」


ナズナ: 「だめえええええええ!!!!!!!!」


スヴァレ: 「今だ!!!行くぞ。不気味女」


花子: 「これが.......じぇっとこーすたー.......きゃあ....」


スヴァレが花子をアモヴォールに投げつけた


アモヴォール: 「痛いですわ!!!何!!!?」


花子: 「おばちゃん.......かみのけ......きれい.....ちょーだい?」


アモヴォール: 「おば.....!!失礼な子!!!待ちなさい......あなた何者?空っぽじゃないの.......可哀そうに......そしてすごく不気味ですわ」


アモヴォール: 「あら.......力がはいらない」


スヴァレ: 「探偵女!!!今だ!!!能力が使えるぞ!!!」


ナズナ: 「アウリサーーーー!!!!!」


ナズナの視界が滲む。胸の奥が焼け付くように熱くなり、ヴァルゼ・グリムを強く握り、一直線にアウリサの元へ向かう


ナズナ: 「絶対に……絶対に、守る!!!」


一閃──。


透明な箱を包む力場が、音もなく砕け散った。ガラスのような膜が光の粒となり、宙に舞う。箱の内側で震えていたアウリサが、崩れるように床に倒れ込む。


ナズナ: 「アウリサッ……!!!」


ナズナは駆け寄り、泣きじゃくるアウリサを抱きしめた。彼女の小さな体が嗚咽で震えていた。


アウリサ: 「ナズナちゃん……怖かった……!」


ナズナ: 「大丈夫、大丈夫……もう離さない……!」


二人を照らす淡い光の中、スヴァレが大きく羽を広げて降り立つ。花子もひらりとアモヴォールの前を舞い踊り、にやにやと笑っていた。


弱体化したアモヴォールが、膝をついて息を荒げている。金の髪が乱れ、青いドレスの裾が揺れる。顔のない“闇”が、かすかに震えていた。


ナズナたちは無言でアモヴォールを囲む。


アモヴォール: 「ああ……降参ですわ。許して……お願い……ナズナちゃん。」


その声には、諦めの色が滲んでいた。


アモヴォール: 「わたくし、本当に賛同していたのよ。でも……本能だけは、どうしようもなかったの。感動を求めるこの渇き、どうしても……。でも……あなたなら分かってくれるでしょ?」


ナズナは深く息を吸い、涙を拭いながら言った。


ナズナ: 「分かってあげられるよ、全部受け入れるって決めたからね.........アモヴォール。でもね──」


ナズナは強く、真っ直ぐにアモヴォールを見つめた。


ナズナ: 「二つ、誓ってほしい。」


アモヴォールがかすかに首を傾けた。


ナズナ: 「一つ。もう二度と、私たちの仲間には手を出さないってこと。」


ナズナ: 「二つ。私たちと一緒に、新しい世界を作るってことに協力して── 一緒に、感動の無い絶望じゃなく、希望を連鎖させていく世界を。」


アモヴォールはしばし黙り込み、闇の奥で光が揺れた。やがて──


アモヴォール: 「……ええ、誓うわ。あなたたちが、新しい感動の世界を作り出すまで……わたくしは、適当な感動で節約しながら、共に歩む。」


その声には、微かに笑みの気配があった。


ナズナ: 「絶対もう、こんな事しないでね?あなたも、もう私達と共に生きる仲間なんだからね?」


アモヴォール: 「............」


-----------------------------

ナズナ: 「……花子、スヴァレ、本当にありがとう!」


ナズナは涙を拭い、二人に駆け寄ると、花子のふわふわの頭を優しく撫で、次にスヴァレの真っ赤な頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。


ナズナ: 「二人とも、完璧だったよ!かっこよかった!」


花子は目を細め、にこにこと笑いながら体をゆらゆら揺らして嬉しそうに笑う。


花子: 「ふふふ......もっとなで.....してー.......」


スヴァレは頬を真っ赤に染め、ぶっきらぼうに顔を背けて羽根をバタつかせた。


スヴァレ: 「……あー、もう!やめろよ!ガキじゃねーんだからよ!くっそ、なんだよ気持ちわりぃ……!」


ナズナは小さく笑い、場に温かい空気が広がった。


抱きかかえられたアウリサが、ナズナの顔をじっと見つめ、頬をほんのり赤らめてそっと言葉を紡いだ。


アウリサ: 「やっぱり……ナズナちゃんは、私が困った時は絶対に助けてくれる……王子様だね。」


その言葉と同時に、アウリサはナズナの頬にそっとキスを落とした。


ナズナ: 「……っ!? アウリサ……!」


ナズナは顔を真っ赤にし、恥ずかしそうに笑いながらアウリサをぎゅっと抱きしめた。


その様子を花子がじっと見つめ、にやりと笑ってスヴァレに飛び跳ねると、スヴァレの頬に不意にキスをした。


花子: 「ちゅぅ..........」


スヴァレ: 「なっ……な、なにすんだコイツ!? 気持ちわりぃ!!!やめろぉぉぉぉ!!!」


スヴァレは顔を真っ赤にしてバタバタと羽根を広げて大暴れしたが、力が抜けてその場に座り込んでしまった。


ナズナとアウリサ、花子はその様子を見て笑い出し、場に笑い声が弾けた。


ナズナ: 「あははは!」


アウリサは涙を拭いながら笑い、花子も楽しげにくるくる回っていた。


少し離れた場所でアモヴォールが金の髪を揺らし、かすかに微笑んだ。


アモヴォール: 「おかしな子たち……ふふ……」


その笑みは、かつての冷たい狩人のそれではなく、どこか温かさを含んだものだった。


──夜空は深く、鏡面の湖は静かに波紋を描いていた。

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