封じられた夏(6)
そして、封じられた夏は――まだ、ほんの入り口に過ぎなかった。
神社の社務所には、静かな緊張が張り詰めていた。障子を閉めた小さな和室に、四人の保護者たちが順に通されていた。
直哉と悠斗には、祖母と祖父――森野嘉一とふさえが付き添っていた。
啓太には地元出身の両親・木島正隆と純子。
詩織には、他県から赴任してきた警察官の父・早瀬正行と母・綾子が並んでいた。
葛葉神主は一人ひとりに番茶を注ぎ、正座したままゆっくりと語り始めた。
「まずは、お子たちを導けなかったこと、申し訳なく思っております。ですが、これもまた“巡り合わせ”であり、皆さまの血と土地に根ざした因縁でもあります」
直哉と悠斗の祖母・ふさえが少し眉をひそめる。
「直哉たちは……縁が結ばれてしまったんですね。」
葛葉は頷いた。
「封じの場であり、祟りの骨が打ち込まれた扉の前まで――足を踏み入れてしまいました」
祖父・嘉一は静かに目を閉じた。
「……やはり、呼ばれたか」
啓太の母・純子はあきらかに動揺していた。
「呼ばれるって……どういう意味ですか? うちの子は“見える”わけじゃないんです……」
葛葉神主は静かに答えた。
「“見る”のは症状の一つにすぎません。見えずとも“寄られる”のです。お子さんの背には、すでに薄い影が重なっております」
啓太の父・正隆が妻の肩を静かに押さえる。
「話を最後まで聞こう」
詩織の父――駐在所勤務の警察官の早瀬正行は、神主の話に割って入った。
「……申し訳ありませんが、正直、納得できません。“祟り”や“骨の封印”など、民間伝承の域を出ない話でしょう。私たちは他県から赴任してきましたが、こんな非科学的な迷信を子どもに信じさせるのは――」
「お父さん……」詩織が不安そうに声をかけるが、父は止まらなかった。
「子どもたちが倒れたのも、体調を崩したのも、ただの心理的な思い込みやストレスの可能性が高い。それを“封じ”や“骨の祟り”に結びつけるのは、どうかと思います。この時代にあって、“呪い”などという言葉で子どもに負担をかけることは――」
その瞬間だった。
パァンッ!
社務所の奥の障子が、内側から激しく弾けるように開いた。何もない風が吹き抜けたわけでもない。けれど空気がぐらつくように震え、畳の上の湯呑がガタガタと震え出す。
「……!?」誰もが息を呑んだ。
次の瞬間、部屋の隅に置かれていた古い木製の札束――その中の1枚が、まるで誰かに手で弾かれたかのように、空中にふわりと舞い上がった。
ゆっくりと――まるで重力に逆らうかのように、詩織の父の膝の上に落ちてくる。
拾い上げると、そこには黒い筆でこう記されていた。
「信じぬ者に、骨は喰らいつく」
詩織の父の顔が青ざめる。彼は言葉を失ったまま、札を握る手をかすかに震わせた。
母も、思わず娘の肩に手を置く。
早瀬正行は言葉をなくし、手の中の札をじっと見つめた。