封じられた夏(3)
竹藪を抜けると、そこにあの家があった。
昭和40年代に建てられたと思しき木造二階建ての家屋。外壁は黒ずみ、屋根瓦のいくつかは落ち、雨樋は外れかけていた。まるで時間そのものが止まってしまったかのような姿。
玄関は引き戸の片方が外れて斜めにずれかかっており、もう片方はかろうじて嵌っていた。縁側は雑草に飲まれ、蜘蛛の巣があちこちに張っている。
「……本当に、誰も住んでないんだよね?」
直哉が小さく呟く。誰も答えなかった。
啓太が懐中電灯を取り出し、そっと扉に手をかける。軽く押すと、軋む音と共に扉が開いた。湿気と埃の混じった古い木の匂いがふわりと漂ってきた。
靴のまま、四人は静かに足を踏み入れた。
玄関を入ってすぐの右手に、急な木製の階段がある。手すりの一部が折れかけていて、触るのもためらわれた。正面には細く長い廊下が伸びていて、左手にリビングと思われる和室、さらにその奥にキッチンがある。右手にはトイレと浴室が並ぶ。
和室は畳が波打ち、ちゃぶ台が傾いている。カーテンは色褪せ、虫食い穴が開いていた。窓の外から差し込む光が、埃の粒を浮かび上がらせる。
キッチンには錆びた流し台、割れた茶碗がシンクに重なり、ガス台の上にはホコリをかぶったやかんが放置されていた。
トイレのドアを開けると、異様な匂いが鼻をつく。水はもちろん通っていない。浴室の床タイルは所々剥がれ、浴槽の中には落ち葉と泥が溜まっていた。
誰も何も言わないまま、四人は再び玄関の横の階段の前に立った。
「……上、行く?」
啓太が問うと、全員が無言で頷いた。
急な段を、一段ずつ慎重に上がっていく。古びた木の階段は、足を乗せるたびにギシギシと軋み、まるで「やめろ」と警告するように不規則な音を立てた。息をひそめながら登っていくと、かすかに木の間から吹き抜ける冷たい風が、誰かの指先のように首筋を撫でていった。
二階には三つの部屋があった。
手前の部屋には押し入れがあり、開けるとカビ臭さが鼻をついた。中には、年代物の布団が無造作に積まれ、黒い斑点があちこちに浮かんでいた。壁の一部は黒ずみ、天井の木材は湿気を含んで沈んでいる。
中央の部屋はがらんどう。畳はめくれ上がり、中央にぽつんと置かれた古い木箱には、何かを運んだ跡があるような擦り傷が多数刻まれていた。なぜか、そこだけ空気が重く、足を踏み入れるのをためらわせる“気配”が漂っていた。
そして――一番奥の部屋。
近づくにつれて、空気がひやりと変わる。廊下の先にある扉は、他の部屋とは明らかに違う気配を放っていた。表面はすすけたように黒く変色し、そこに十字に巻かれた縄が張りつくように固定されている。中央には――人間の骨のようなものが釘で打ち込まれていた。