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まだ一人前でない新兵が、腕試し用に飼われていた本物の魔狼を倒してしまう。
そんなことは前例がなく、誰も予想しなかった。
それほどの大事件だったのだ。
あの日……。
丸い決闘場の中、大きな音と共に扉が開かれた。
続いて黒華の鎖が外される。
周囲の壁には、いくつもののぞき穴が開かれ、
「どうなることか」
と男たちが観察している。
新兵が実戦に投入される前の最終テストなのだ。
しかし新兵がこれに合格することなど誰一人、期待していない。過去に合格した者もない。
受験者は馬上にいても結局、何もできないまま黒華を見送り、黒華は頭上の台に飛び上がり、まんまと生肉にありつくのだ。
その飛び上がる足場として、黒華は受験者を用いるのに過ぎない。
要するに受験者は、ただ黒華の踏み台にされるためにやってくるのも同じだが、ヤリを持ってはいても、何センチもないところで魔狼の息づかいを聞き、うなり声が耳をいっぱいにする。
その恐怖に耐えることができるか。恐怖に打ち勝つことができるか。
ただ、それだけを見るテストだったのだ。
ところが俺は黒華を倒してしまった。
いつものように、
「踏み台にしてやろう……」
と黒華は全身を縮め、バネのように宙を飛んだ。
躍動する魔狼は美しい。