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森には、たくさんの人間が住んでいる。
しかし町が存在するのではなく、あるのは村とも言えない小さな集落ばかりだ。
こういった集落は人口も少なく、守りも薄い。
農家が固まるばかりで、警備兵すらいない。
ある日、村人が1匹の魔狼を見かけた。
「どうやら村の様子を偵察に来たらしい」
と村人たちが考えたのも無理はない。
そして馬を飛ばし、役人に護衛を訴えたのだ。
その解答として俺が派遣されたのだが、カイ村というところで、王都からさほど遠くなかったのは幸いだった。
従者を引き連れ、俺とアオは森の中の暗い街道を進んだ。
カイ村に到着したのは夕暮れ前のこと。
さっそく村長の家に招かれ、食事を出されたが、それもそこそこに俺は村の中を歩き、見て回った。
「魔狼たちは、どのルートで村へ入ってきて、どの家を襲い、どう引き上げるつもりだろう?」
村の見回りを一通り終え、俺が村長の家へ帰ってきたのは、まだ宵の口だった。
村長の家といっても、村の他の家々と代わり映えはしないが、与えられた部屋の粗末なベッドの中で、俺は眠りについた。
俺が目を覚ましたのは、真夜中過ぎのこと。
これまでの経験から、魔狼は夜明け少し前に襲撃してくると分かっていた。
ほとんど例外はなく、理由は誰も知らなかったが、
「死体を森へ引きずって帰るのに夜明けの薄明かりが必要なのだろう」
とは噂されていた。
俺が馬屋へやってくると、すでに従者も起き出し、アオに馬具を乗せる作業が始まっていた。
もちろん俺も手伝い、用意は済んだ。
ロウソクの光しかないが、アオの鼻息も普段よりも大きく聞こえる。
ヤリの刃先の鋭さをもう一度確かめ、従者を馬屋に残し、俺とアオは暗闇の中へ出て行ったのだ。