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数週間後、訓練を終えた俺は森へと旅立つことになった。
森は王都の北に位置し、植物が濃く、暮らす動物も数多い。
王都を出発して以来の旅が、まるで俺には実感がなく、夢か幻でも見ているような気がした。
俺の頭の中では、あの丸い決闘場での出来事が、何回も何回も思い出され、再生された。
アオと俺の目の前にあったもう一つの出入口がついに開かれたとき、姿を現したのは本物の魔狼だったのだ。
たった1匹ではあるが、餌も水も充分に与えられた、状態のいい個体だ。
この魔狼の名は黒華というのだと俺は教えられたが、黒華はこの決闘場で何年間も飼われてきた。
その名の通り、ただ一筋の白い毛もなく、口中の赤と牙の白さ。
光を反射して、ときおり輝く目を除いては、魔狼の形に切り抜かれた黒いシミのような印象なのだ。
グルルル……。
黒華がうなった。
ヤリを構える俺と向かい合って、おびえている様子はない。
決闘場のまわりを囲む壁には、いくつかののぞき穴があり、そこに人の目があることに俺は気がついていた。
役人たちがいて、俺の戦いぶりを観察しているのだ。