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前回で物語を終わってもよかったのだが、せっかくだからもう少し書いておこう。
俺が新王として立つと、国中から様々な連中が挨拶に訪れた。
まるで、そういう連中で王城の広間がいっぱいになったような印象だったが、その中で一人の女の姿が特に印象に残った。
まだ若く、美しいドレス姿なのはもちろんだが、遠くからでもひどく目を引いたのだ。
我ながらスケベ根性だが、そばにいたイノシシ隊長に質問してみたほどだ。
「あの女はいったい何者だね?」
「ああ、あれは亡くなった前王陛下の姉君ですな。匂うように美しい方だが、残念なことにまだ独身でしてな」
「前王の身内なら、俺のことは恨んでいるだろうな」
するとイノシシ隊長は、意外なことを口にした。
「とんでもありません。前王は騎士から挑戦を受け、その結果倒れたのです。その名誉には一点の曇りもありません」
「ということは?」
「姉君はもちろん、前王の身内の中には、陛下に悪感情を持つ者など一人もおりません。それは保証いたします」
そんなものか、と俺は思った。
この世界の物の考え方は、どうもまだ理解できない。
俺は前王の姉という女を眺め直したが、そのとき気が付いた。
女もこちらを向き、歩いて来ようとするのだ。
真っ白なドレス以外に装身具は何も見当たらないが、それでも髪は流れるように豊かで、たいそう美しい姿なのだ。
女がいよいよ目の前にやって来たとき、俺は気が付いた。
装身具を帯びない姿と思っていたのだが、実は片方の耳に、小さなイヤリングをぶら下げていたのだ。
だが宝石でも貴金属でもない。
変わったイヤリングで、動物の毛でできているではないか。
涙のような形にコロンと丸まり、耳たぶの下で揺れているのだ。
「!」
言葉は発しなかったが、俺はショックを受けた。
あの形、毛皮の黒々としたツヤには見覚えがある。
燃える森の中で焼けてしまいはしなかったのか。
そして次の瞬間、シミ一つない雪のように白い肌に、緑色の瞳をきらめかせ、女は俺の耳にささやいたのだ。
「弟を二度も殺され、エンタングルしたのなら、そう簡単にはほどけるものではありませぬぞ」
(終)




