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「やめとけバカ。陛下は天下一の武芸者だ。万が一にもお前の勝ちはないぞ」
いつの間にかそばに来ていたイノシシ隊長が、お節介にも俺の耳にささやいた。
だが俺は笑い、太った肩を押しのけてやった。
俺は言葉を続けた。
「陛下、いかがでございます? 褒美として、決して不相応なものではないと存じますが」
もちろん、まともに戦って勝てる相手でないことは、俺も百も承知している。
だが俺には計算があった。
この国では、何にも増して騎士道が重んじられる。
王自身も騎士であるから、もちろん騎士道を重んじる。
そして騎士道においては、他の騎士から命を懸けて挑まれた場合には、逃げることは許されない。
俺の申し出を王が拒絶することはあり得ないのだ。
王は挑戦を受け入れ、俺たちは戦うだろう。
一角に加わって、俺だって多少は武芸を学んだのは間違いない。
日本にいてさえない学生をやっていた頃とは、筋力も体力も素早さも段違いだ。
しかし一方、ダラクは武芸者のカガミだときた。
まず俺の勝利はあり得ない。
俺は刃先を食らい、この床の上で死ぬだろう。十中八九は……。
だが俺には残りの1割、いや1パーセントでもいい。
俺には世界渡りの術があるのだ。
結論だけを書こう。
俺は今、新たな世界線で王をやっている。王城が俺の住居となった。
次回でラストです。




