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広間というのは、学校の体育館ほどのサイズがある部屋だが、俺が入っていった時、ついと立ち上がった人物がある。
部屋の一番奥にあり、一段高くなった台の上にあるイスだ。
デカく重そうなイスで、いかにも権力者専用という感じじゃないか。
この男、俺も顔を見るのは初めてだったが、茶色いヒゲを生やした口を開いたのだ。
「おお勇者どの……」
これが王都の主であって、王国の支配者、つまりダラク王その人だった。
飛び切りの美男子というのではないが、背が高く無駄のない筋肉質の肉体が、その衣装を通しても感じられるのだ。
この王についてこれまでに聞いた噂話が、俺の頭の中にいろいろと思い出され、よみがえってきた。
いわく、ただ支配者というのではなく、ダラクは真の武芸者であり、酒もタバコもやらず、女も寄せ付けず、享楽的な生活におぼれることはない。
常日頃から鍛錬を欠かさず、いざ戦争という時でも先頭に立って戦う男だそうだ。
そのダラクがイスから立ち上がり、俺の手を取るために近寄ってくるのだ。
もちろんダラクは、俺のことをほめそやした。
森に巣くう魔狼たちというのは、王を悩ませるほどの大問題だったのか。俺は初めて認識した。
つまり俺の功績はそれほどまでに素晴らしいものらしいが、賞賛の言葉の中で、王は知らず知らず、決定的な単語を口にした。
「勇者どの、褒美は何でも取らせよう。言ってみるがよろしい」
俺は答えた。
その答えを耳にして、イノシシ隊長などは心底たまげた顔をしていたが、知ったことではない。
王も驚きを隠せないようだ。
俺はこう言ったのだ。
「褒美として望むことはただ一つです、陛下。俺と一対一で戦い、雌雄を決していただきたい」
もちろん王は目を丸くしている。
「なんと?」
「陛下は名だたる騎士、武芸者であらせられる。戦えばおそらく俺が負け、カーペットを血で汚し、無様な死体をさらけ出すことでございましょう」
「それでも戦うというのかね? 何のためだ? どういう意味がある?」
ここで俺は、笑いを隠すのに苦労した。
「意味と言えばただ一つ。陛下の胸をお借りして、自分の技を試してみたい。それ以上なんの意味がございましょう」
「本当にそれだけか?」
「事前にお言葉がいただきとうございます。万が一にも俺が勝利した場合には、俺をご自身の後継者であると正式にお認めいただくこと。これだけでございます」




