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俺の意外な行動に驚き、目を見張ったのは一角たちばかりではない。
魔狼たちも同じで、一瞬は俺の包囲を解き、道をあけたほどだ。
まるで波をかき分ける船のようにして、アオは歩みを進めることができた。
やがて登り切り、俺は丘の頂上で振り返った。いったんヤリを置き、叫んだ。
「さあて雪華とやら、隠れてないで出てきな。お前は俺が目当てなんだろう?」
俺は続けた。
「これを見ろ」
カブトの後ろに手を回し、俺は毛皮の房飾りをちぎり取った。
それを高くかざして見せたのだ。
黒い毛でできた房飾り。
黒華のものだ。
馬上生活で鍛えられた俺の声はよく通り、仲間たちの耳にも入った。
それは魔狼たちも同じで、いつの間にか戦場は静かになった。
人間と馬と、魔狼たちの息づかい。
そこへ木の燃える音が混じるだけだ。
俺の声が響く。
「こいよ雪華。お前の弟を殺したのは俺だよ。くやしけりゃ、かたき討ちに来な」
俺はさらに叫んだ。
「早く出てこないと、形見を火中に放り込んじまうぞ」
本当に俺はそうしたのだ。
手袋をした手を離れ、黒い房飾りは宙を舞った。
投げられると、思いがけない勢いで房飾りは飛んだ。




