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だが多勢に無勢という言葉が、これほど似合う場面も珍しい。
普段であれば10匹魔狼がいても、一角を見れば、まず5、6匹は逃げる。
だから一角は、残る4、5匹を相手にすればいい。
しかしこの夜は違った。
数に頼み、魔狼たちはほとんど逃げなかったのだ。
砦にいた一角の全員が出撃し、その中には例のイノシシ隊長の姿まで見える。
イノシシ隊長も自分の馬に乗り、ヤリを振り回しているのだ。
あの体格だから、太い腕から繰り出される突きは力があり、時々は刺された魔狼の悲鳴が聞こえるほどだ。
だがこれほどの数が相手では、どうしようもない。
ついに、
「砦に火をかけろ。炎で魔狼どもを追い散らせ……」
とイノシシ隊長も命じるほかなくなった。
命令はすぐに実行されたが、皮肉にもオレンジ色の炎は、黒々とした魔狼たちの姿を、ただ浮かび上がらせるだけに終わった。
メラメラと燃える炎を恐れて逃げ出す魔狼など、ほとんどいなかったのだ。
もちろん、すでに多くの魔狼が倒され、地面に横たわっている。
しかしまだ、数え切れないほどが砦を取り囲んでいる。
砦はグルリを塀で囲まれておらず、北側はそのまま森の丘陵へとつながっている。
斜面を駆け上がれば、簡単に行き着くことができるのだ。
アオの手綱を取り、俺は駆けることにした。
目指すは丘陵の頂上。
足元に群がる魔狼を蹴散らし、ひづめの下に巻き込みながら、アオは猛然と駆けはじめた。




