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遊びとは社会である

桃鉄を進めるごとに、現実の処世術の複雑さが浮かび上がってくる。あの色とりどりの画面、キャラクターの愛らしさの裏には、人間関係の複雑さ、そして先輩という存在の重圧が隠されていた。


先輩の一言「おもしくねー」が通話を通じて私の耳に響く。その言葉には、ゲームの楽しさを超えた何か重たいものを感じた。これはもはや、ただのゲームの域を超え、先輩との人間関係、未来のキャリア、そして日々の生活に直結した真剣勝負だった。


ゲームでの勝敗を超え、先輩を気持ちよくさせるプレイ。そんな戦略にシフトすることになるとは、桃鉄を始めた当初、思ってもみなかった。勝利への欲望はどこかへ消え、その場を気分よくさせるための演技が始まった。もちろん、そのすべては通話を通じて。先輩の表情など、見えるわけがない。声のトーンと言葉遣いだけが、私に与えられた情報だ。


「クソつまんない...」その思いを通話の向こう側には届けず、私はあえて明るい声で反応する練習を積み重ねた。笑っているように聞こえる声、楽しんでいると錯覚させる言葉遣い。それが私の新しい武器となった。


出川哲朗並のオーバーリアクション、その演技の中には裏切りと自己嫌悪が渦巻いていた。先輩の気を引こうとするその言葉の裏には、自己の価値を見失い、ゲームとは名ばかりの厳しい戦いが待ち受けていた。


桃鉄は、先輩の心を掴む演技の舞台と化していた。ゲームの勝利など、もはやどうでもよくなっていた。それよりも先輩の反応、その一言一言が私の日常を左右する。自我を押し殺し、迎合と媚びの道を進む毎日。それが私にとっての桃鉄だった。


「死ね」と、心の中で何度も叫ぶ。ゲームのコマを進める度に、その思いは強くなっていく。だが、通話の向こうの先輩の声に、その思いを決して伝えることはなかった。表面上は楽しげな会話、心の中では渦巻く不満と矛盾。


桃鉄と先輩、そして私。この関係性は、ゲームのスクリーンと通話の向こう側で複雑に絡み合っていた。続くゲームのセッションは、先輩との関係をもっとも直接的に反映する鏡であり、それは時に私を苦しめるが、逃れることのできない現実でもあった。

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