忖度とは何か、桃鉄での学び
「忖度なし」、これが私たちの桃鉄旅の合言葉であった。幼い頃のゲームにまつわる純粋な喜びを思い出させてくれるような、そんな期待を胸に秘めていた。しかし、その重さ、その言葉が持つ奥深さを、その時の私はまだ知らなかった。
ゲームがスタートし、私の目の前には先輩のリニア周遊カードが。
そしてタイミング良く私の手札には刀狩りカードが。
合言葉を信じ、躊躇なくそのカードを刀狩りする私。
ああ、それは愉悦の一言に尽きる。しかし、その行動が、これからの運命、これからの関係性を大きく左右することを、無邪気にカードを奪った当時の私には、まだ露知らずであった。
ゲームは進み、私は圧倒的優位であった。
ダビングを駆使し、資金を積み上げ、ゲーム内での勢力を増していった。まるで戦国時代の武将のように、領土を広げ、力をつけていく。
しかし、この瞬間、この一時の栄光が、ゲームでの最高のピークであることを、私はまだ知らない。
盛者必衰、私はまだ読み取ることができなかった。
突如として静かなる嵐が訪れる。一人の先輩が、顔には出さずとも、その声のトーンから微妙な空気を感じ取る。
「はー。おもしくねー。」
これはただの言葉ではなかった。それは、これからの私たちの関係、これからのゲームの行方を示すものだった。それは、「忖度なし」の言葉が持つ、真の意味への序章であった。
それは、私の心の中で冷たい氷のように残った。まるで冬の空気が肌をかすめるような、そんな冷たさだ。
この「はー、おもしくねー」という言葉は、冗談めかして投げかけられたものではなく、ゲームの奥深くに眠る本質、そして、先輩と私との関係性に突きつけられた、冷たい現実であった。
この瞬間、私の中で何かが変わった。桃鉄の虚像の鎧が剥がれ、むき出しの現実がそこにはあった。これはゲーム以上のもの、人間の欲望と戦略、心の動きが入り混じった、複雑な人間関係の舞台であった。
私は、「忖度なし」という合言葉の真の意味に気づかされた。それは、単なるゲームのフレーズ以上のもので、人間関係の繊細さと、相手の気持ちを探る術を意味していたのだ。私の無邪気さ、そしてゲームに対する純粋な楽しみが、この一言で一変した。
ゲームはただのゲームではない。それは人と人との関係、心の動きが試される場でもあった。桃鉄というボードの上で、私は、人間の深層心理、欲望、そして喜びや怒りを学ぶこととなった。あのリニア周遊カードを刀狩りした瞬間、私はただのプレイヤーから、心の動きを読むプレイヤーへと進化を遂げていたのだ。
これからのゲーム、そしてこれからの人間関係は、これまでとは違うものとなるだろう。桃鉄は、ただのゲームではなく、人間の本質を映し出す鏡であった。その鏡の中に映し出された私自身の姿を、これからどう向き合うか。その問いかけが、私の心の中に静かに響いていた。