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暗闇の怪神像

 どことも知れぬ暗闇のなか……天にも届くのではないか、という巨大な石柱が幾つもそびえる場所があった。


 上を見上げると闇夜より深い暗がりがあって、天井が見えない。 


「アビサローン……アビサローン……ギャグルナフ……ギョアギョア……ギアアア……」


 暗灰色のマントを羽織り、フードを被って顔の見えない奇妙な集団が直径500メートルはあろう広場にいた。


 床は石畳で、前方に石段があり、数十段上に祭壇のような広間があった。


 そこに暗灰色のローブを着た人物が杖をもち、両手をあげてさらに前方を見て祈っていた。


 そこには身長30メートル以上もある巨大な石像が立っていた。


 その巨像は、体は人間に近いが、頭部は魚という、魚頭人身の怪神像であった。 


 おお、それは、バビロニア神話でカルデア人に文明を授けたといわれる『オアンネス神』とも、ウガリット神話でペリシテ人が信仰していた穀物と海の神『ダゴン神』とも呼ばれる古代の異形の神様を思わせた。


「ギョタグル……ギャゴン……ギュルルイエ……ル……アビサローン……アビサローン……」


 怪神像の両目が怪しく光り輝き、点滅を何度か繰り返した。


 祭壇にいる人物……司教しきょうは不気味な祝詞のりとを終えて、五十人以上はいるマントの集団に振り返った。


「わが信者たちよ……偉大なるアビサロンの忠実な使徒たちよ……いま、偉大なるアビサロンから命令がくだった……我等が長年かけて探していた『契約けいやくかぎ』が見つかったのだ!!」


「ギョオォォォ!! ギアァァッ」


 信徒の群れから奇怪な喜びの叫びが響きわたる。


「我等が忠実なる使徒ビアドラス!」


「ギュギャッ!!」


「さっそく陸地へ向かって『契約の鍵』を取り戻してくるのだ!!」


「ギョラ……ギャギョッ!!」


「陸地には毛無し猿どもの子孫……人間族どもが住む都があり、けがれた文明を築いておる……いまはまだ彼奴きゃつらに我等の存在を知れぬように……」


「ギョルルル……ギアッ!!」


「陸地には人間族どもに交じって調査をしている工作員もいるので、そやつに協力を得るがよい」


「ギュリギュリ……ギョバァ!!」


「まあ、そういうな……これも偉大なるアビサロンの命令としれ」


「ギョロロム……ギャビレッ!!」


「そうだ……すみやかに『契約の鍵』を手に入れ、我等が神殿に持ちかえれ……そのときこそが、待ちに待った、『審判』の時なのだ!!」


 使徒ビアドラスなる者は他の者たちに祝福され、背後を振り返った。


 そこには満面の海水をたたえた池が見えた。


 使徒ビアドラスはマントを羽織ったまま、海水に飛び込み、盛大に水飛沫みずしぶきがあがった。


「ふふふふふ……人間族どもめ……『審判』のときまでせいぜい阿呆面あほづらをして、享楽と怠惰の夢をむさぼっておるがよい……」




 相模湾沖に全長30メートルほどの高級中型クルーザーが停泊していた。


 キャビンのMDから軽快でノリの良いハンドクラップ・ミュージックが流れていた。


 それに合せて、左舷の甲板で狂ったように踊りまくる二十二、三歳ほどの男女がいた。 


 踊りに突かれた二人は手すりに腰かけて休む。


 女が身体をひねって、手すりからクルーザーの外装を見下ろすと、落書きのように赤いペンキが一面に塗りたくられている。 


「ちょっと、タカシぃぃ~~…せっかくの高級クルーザーも鬼カッコわるいわよぉ」


手すりから覗きこんだ若い男もそれを見て嘆く。


「はあ~~…せっかくオヤジに買ってもらった高級クルーザーも形無しだぜ……」


 ドクロTシャツにダメージデニムをはいたロングウルフカットの男は川崎の工業地帯で一、二を争うグレート・ダイナモ社の社長の息子で、大学を卒業すれば親の会社で役員について、社長を引き継ぐと言われている御曹司だ。


「いったい、誰のいたずらかしらねえ?」


 黄色いレディースビキニで胸をおおい、リエンダのジャケットをはおり、ショーパンからむちむちの生足を出した、茶髪のギャル風の女がタカシに訪ねる。


「そんなもん、環境保護団体の奴らに決まっているぜ!」


「そなの? なんでも言っちゃってぇ~~」


「ああ……うちの工場から出している工業廃水やスモッグが、基準値以上だってスッパ抜きやがった週刊誌があってよぉ……それ以来、環境保護団体や周辺の住民が本社に押しかけてうるさいのなんの……」


「やだぁ……ウザそう……タカシくやドリュー……」


「オヤジは金でうるさい奴らを黙らせようとしているが、甘いもんだぜ……俺が社長を引き継いだら、川崎区のヤクザをやとって黙らせてやるんだがなぁ……」


「マジ卍ぃ? タカシこわいぃぃ……でも、鬼カッコいいぃぃ……」


 そういって、男は飲みのこしのあるジュースのペットボトルにフタを閉め、海に放り投げた。


「ちょっとぉ……プラスチックゴミを海に捨てちゃいけないんじゃないのぉ?」


「けっ、環境保護団体の奴らへの意趣返しだ!!」


「あはっ マジヤバイ」


 そう言って男はデッキの机にあったお菓子や食べ物の入れ物を次々に海に投げた。 


 女も面白がって、次々に海にゴミを投げた。


「はぁ~~…ちょっとだけスッキリしたぜ……」


「ほんとぉ……あーしも意識高い系の奴らって、マジカンベンなんだぁ……でもさぁ、海坊主が『ゴミを捨てたなぁ……』って、怒って出てくるかもぉ……」


「はん、そんなもんいるかよ……いたとしても、海坊主をとっ捕まえてレストランの水槽で見世物にしてやるぜ」


「マジあげポヨぉ……」


「それよりもよぉ……カリナぁ……」


 男がギャルの肩に手を回し、抱き寄せた。 


「ちょっとぉぉ……こんな昼間からぁ?」


「誰も見てないって……」


 男は女の頬へキスし、唇を合わせた。


 左手を胸にまわし、もみはじめる。


 女もだんだんその気になって瞳がとろんと蕩けてきた。


「あはぁぁ……しょうがないわねえ……即ハボしようよぉ……ベッドに連れてってぇ……」


 クルーザーのキャビンには三部屋あり、船尾から入れて、物置に使っている船尾室、中央室は生活ができるサロンで机やシンク、ベッドに変形する長椅子、その奥にある船首の操縦室だ。 


「むひひひ……わ~ってるって」


 昼日中に淫らなムードになった時……


 バシャアァァァン!!!


 突然、海面に水柱があがり、船が揺れ、二人は大きく傾いて手すりから落ちそうになった。


「なんだぁぁ……津波かぁ?」


「今の、なんなのよぉぉ……」


「イルカが海面をはねやがったのかな?」


 揺れは次第に治まっていき、デッキの揺れが収まりつつある。


 が、右舷側でビチャビチャと歩く足音が聞えた。


 奇怪な足音はキャビンの中に入ったようで、ガサゴソと物音がする。


 男女はぎょっとした。


「ちょっとぉ……誰か船に乗り込んだんじゃない?」


「誰がいったい……」


 キャビンの丸窓を見るが、中からサーフボードなどを置いてあって見えない。


「海坊主かなぁ?」


「バッカ……環境保護団体の奴らか?」


「ドロボウよ、きっと!?」


 中央室のサロンには現金や貴重品が置いてある。


「くそっ……誰だか知らねえが、目にもの見せてやるぜ……」


 タカシはクルーザー甲板の非常箱に備え付けの消防斧しょうぼうふを取り出して、手にツバを吐いて握りしめ、船尾側に回った。


 それをカリナは左舷デッキに留まったまま見送る。


 甲板を見ると、右舷側からキャビン出入口に続く床に、水で濡れた足跡が見える。


 足の先が扇状に広がり、水鳥の足ヒレのような奇怪な足跡だ。


 おそらくアクアラングのフィンをはいたままデッキを歩いたのであろう。 


 タカシは未知の相手への恐怖を感じたが、意を決しキャビンの中に入った。


 船尾室には誰もいないが、物が散乱して、中央室へ続く扉が少し開いていた。


 濡れた足跡はそちらに続いていた。 


「おい、出てこい! この泥棒野郎!!」


 タカシが壁を柄で叩いて威嚇し、キャビン内の操縦室に入った。


「うおぉっ!? なんだてめえは……」


 何かがぶつかる乱闘がドタンバタンと聞こえ、船体が揺れ、カリナは震えあがった。


 やがて、物音が無くなり、静かになる。 


「ちょっとぉ……タカシぃ……泥棒をやっつけたのぉ?」


 女が意を決し、おそるおそる甲板を歩いてキャビン出入口に向かった。 


 そのとき、出入り口からぬっと、何かがつき出された。


 カリナは始め、それは茶色いビーチボールかと思ったが、よく見ると違った。


 目をひんむき、口から舌がだらりと垂れた、血まみれのタカシの顔だった。


 だが、顔の下が何もなく、赤い液体が床にしたたっていた。


 ロングウルフカットの長い髪の毛を真上でつかんだ手があり、その手は青緑色で、一面に鱗が生えているのが見えた……


「きゃあああああああああああああああああああっ!!!」


 誰もいない海のただ中で、女の悲鳴が響き渡った。


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