謎の水棲生物・海童(うみわらわ)
「これは……人間なのでしょうか……まるで映画に出てくるモンスター、半魚人のようですね!?」
和鷹マリが拡大映像をのぞきこんでいぶかしげな表情をとる。
「ええ……海に棲む未確認生物の可能性が大きいです……おそらくはこの地方に伝わる伝承にある、『海童』ではないかと思うんですよ」
「河童というと、川に現れる妖怪の河童のことですか? でも、この河童は海に飛び込みましたよ?」
「はい……河童というと川や池などに住む妖怪が有名ですが、実は河童は海にも棲むんですよ……ただしくは海の童と書いて海童と読みます……まあ、真樽子では『うみわらわ』とも言いますので、河童と混同しないように、今回はそっちで呼びましょう」
「海の河童、『海童』ですか……はじめて聞きましたが、昔からいるんですか?」
「ええ……もちろんです。河童にくらべると知名度は低い妖怪ですが、昔から存在します。日本各地で名前が違いますが、静岡県では海小僧というのがいます。他にも三重県のシリコボシ、ゴボシ。熊本県のガワッパなどがいますね。古くは『日本書紀』にも少童という海の神の記述があります。中国では海の人と書いて『海人』という水棲妖怪の言い伝えがありますよ」
「するとこの映像にある怪人物が、その伝説の妖怪・海童かもしれないというんですね」
「その可能性は大きいとふんでいます」
伏木は得意げに口ひげをひねった。
「あのう……素人の私にはよくわからないのですが、妖怪と未確認動物は同じようなものなのでしょうか?」
「そうですねえ……おおむね同じようなものです……が、厳密にいうと違う点が多少あります……『妖怪』が意味する範囲は広く、『未確認生物』の意味の方がせまい、ということでしょうか」
妖怪とは、もともと『怪しい奇妙な現象』をしめした現象のことであったが、時代を経て『怪異を起こす存在』をさすようになり、現代では一つ目小僧や天狗などキャラクター化された存在をさすようになった。
一方、未確認生物は、人に目撃され、昔からの伝聞などの情報があるけど、実在が確認されていない生物のことをさす。
「たとえていうとですねえ……パンダもかつて昔は未確認生物であり、妖怪であったのですよ」
「えっ!? 動物園の可愛いパンダがですか?」
「はい。パンダの生息地は中国四川省の一部にしかいない動物で、地元の人も山に妙な動物がいる目撃や言い伝えしかなかったのですが、19世紀になって発見されて実在の動物だと有名になりました。雪男やツチノコなども、実際に見つかって存在が確認されてしまえば、ミズテリアスな存在から珍しい動物として認識が変わってしまいますねえ……」
「すると、海童も同じように?」
「はい……河童の多くがニホンカワウソや亀などの生物を見間違えたものが多いと言われています……ですが、もしかすると、河童伝説の元になった人間や猿に似た姿の水棲生物が実際にいるのかもしれません……それが河童や海人伝説のモデルとなった可能性があると思います」
「なるほど……そう考えるとロマンがありますねえ……」
伏木多那彦はますます興奮して口が止まらない。
「ここ真泥子市にはそんな海童の伝承や民話があるのですよ……海から来た海童が人間を襲った話、牛馬などの家畜にいたずらをする海童を捕まえたが、助けたらお礼に不思議な品物をくれた話などがあります……今回、注目すべきお話は、浜辺で怪我をした海童が漁師に助けられて、海の中にある竜宮城に行ったという言い伝えがあるのです!」
「竜宮城って、あの浦島太郎に出てくる海の中の建物ですよねえ……乙姫がすむ」
「ええ……日本人なら誰でも知っている御伽話ですが、現在広く知られている話は、明治時代から昭和時代にかけて国定教科書にあった童話が元になっています。実はあれには基になった話があります。その一つが浦島子伝説で、日本書紀や万葉集などにも記述があります……そこでは太郎ではなく浦島子が蓬莱、つまり常世の国へ行く話で、日本各地に似たような伝承があるのですよ……じっさい、神奈川県横浜市には浦島太郎ゆかりの慶雲寺、通称『浦島寺』があります」
「浦島寺?」
「ええ……玉手箱で老人となった浦島太郎が両親の墓をさがすんだけど、見つからず、見かねた竜宮の乙姫が、松枝に灯りをつけて墓場を示しました。親の墓を見つけた浦島太郎はそこに庵をたてて住み、観音像を安置しました。浦島太郎の死後、その庵は観福寺となり、江戸末期にその寺は廃寺となりますが、観音像は残り、現在が慶雲寺に安置されています」
「神奈川県にそんな話があったんですねえ……」
「ここ、真樽子市には海童を助けて竜宮城に行ったという漁師がいたという伝説があります……その名は浦嶋子という美しい若者です」
「浦嶋子というと……浦島太郎のモデルになった人ですか!?」
「はい……浦嶋子は助けた海童に連れられ、海底にある竜宮城に行くと、そこは常世の国という理想郷であったというものです」
「理想郷、つまりはユートピアという事ですか?」
「はい……常世の国には戦争も貧困もなく、そこの住民たちは死ぬことのない不老不死の存在であったというのです……戦前まで浦嶋子の子孫と言われる一族が真樽子に住んでいて、話を伝えたと言われています」
「えっ!? つまり、浦島太郎のモデルとなった人の子孫ですか!? それはどこに!? ぜひ、インタビューをさせて欲しいです」
ミステリー・リポーターの和鷹マリが怪現象研究家に食い下がった。
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