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神奈川ミステリーゾーン

 茅ヶ崎と小田原の間にある真樽子市は昔から漁港で栄えた土地だ。


 漁港から10km離れた鋸山ちかくにある公道沿いの車の休憩ポイントでテレビのロケーションが行われていた。


「横浜周辺は昼夜を問わず謎の飛行物体や発行体の目撃が多いことから『UFO』の聖地とも呼ばれています。ですが、その物体の多くはサーチライトやライブの照明テストなどが正体であり、誤認やフェイク画像が多いのですが、今回はどうやら違うようですよ」


 美貌の女子アナ・和鷹マリがマイクをもって、初老の男性に声をかけた。


 真樽子市の役場で戸籍係をしている岡崎公夫おかざききみおは少し緊張した面持ちである。


「岡崎さん、その時の様子をぜひお話をしてください」


「……ああ、いいよ。4月の終りに横浜でナイターを観た帰りに、眠気がさして、車をここで止めてシートにもたれかかってうとうとしていたんだ……ふと、南の空を見ると、一つの星だけが徐々に大きくなっていったんだ」


 岡崎公夫は午後10時ごろ、相模湾の沖に見える大島は三原山の上空あたりに怪しい光が見えるのを目撃してたいそう驚いた。 


「飛行機やヘリコプターにしては音が聞えないし、人工衛星にしては動きが速い……こりゃあ、もしかしたUFOかもしれないと思って、スマホで撮影してみたんだ……」


 彼がポケットから取り出した携帯電話の画面にその時の模様を写した。


 白く怪しく光る飛行物体が不気味にゆっくりと飛行し、夜空を東から南へ、三原山を眼下に通り過ぎるのが見える。


「なんだか気味が悪くなって、車に乗ってそうそうに家に帰ったよ……」


「未確認飛行物体の映像は岡崎さんだけでなく、神奈川県の多くの地点で目撃され、五月初めにワイドショーなどでも取り上げられ、おおいに話題となりましたね。専門家でも飛行機や凧などの人工物でも、渡り鳥とは考えづらいという見解でした。実は神奈川県には他にも不思議なことがあるのです、UFOの目撃だけでなく、ミステリー情報部に、海底深くに眠る謎の古代文明の遺跡などの情報が寄せられたのです!! さっそく行ってみましょう! まさに神奈川県は今注目のミステリーゾーンですね!」


 無事に撮影が終り、笑顔をふりまいた和鷹マリは、カットがかかると、途端にスンとした表情となりロケバスに戻っていった。


「うわあ……見事な外面そとづらだ……あれが芸能人……というか、女子アナか……まあ、人によるだろうけど……」


 蒼太は口をあんぐりとあけて呆れて見送った。


 一方、もじもじとする岡崎公夫がAD土屋に、


「あのさぁ……これって、出演料とか……貰えるのかなあ?」


「記念品をどうぞ!」


 ADが初老の男に細長い封筒を渡してマイクロバスに戻った。


 岡崎が封筒を開けると、番組のロゴの入ったボールペンだった。


 彼はがくりと肩を落としてクーペに戻って行った。


「まあ、バブルのころと違って、昨今はテレビ局の懐具合もおさびしいらしいからなあ……」


 海雲寺蒼太はロケバスに便乗させてもらって真樽子漁港に向かった。


 マイクロバスの真ん中の空いた席に座った蒼太が、隣の牟田口に声をかけられた。


「どうだったかな、蒼太くん……現役高校生として変なところはなかったかな?」


「いえ、良かったと思いますよ! UFOをホントに見た方のリアルな心情が引き出されていて……テレビで見るのが楽しみだなあ!」


「そうかい、そうかい……」


 車中でADがダンボール箱から御弁当とお茶のペットボトルを出しはじめた。


「蒼太くん……お昼も近いし、余分に用意してあるお弁当をあげるよ!! ザギンでシースーというわけにはいかないけど、美味しいよ」


 牟田口がいにしえの業界言葉でウインクした。


「本当ですか!! 嬉しいなあ!! じゃあ、一宿一飯ならぬ一弁当のお礼にお給仕を手伝いします!」


「おっ、気が利くねえ……蒼太くん」


 蒼太はADを手伝って車中のスタッフに弁当と御茶のペットボトルを配った。 


最後に後部座席でスマホを見ていた和鷹マリに届けると、不機嫌な顔をした彼女はじっと蒼太を見上げた。


 蒼太の瞳をじっと見る和鷹マリ。


「あ、なんでしょうか? ぼくの顔に何かついていますか?」


 口をむすっとさせているとはいえ、美人に凝視されるとなんだか照れる。


「やだな……ぼくに惚れましたか?」


「んなわきゃないでしょ……あんたってさ……人たらしねえ……」


「ええっ!?」


「えっ? 牟田口さんとのやり取り見ていたんですか?」


 蒼太のわきに冷や汗が出た。


「いやあ……授業で始めての集団の中に入っても気に入られる訓練を受けていましたから」


「はあぁ!? そんな授業あるわけないでしょ……それってジョーク?」


「あはっ……あはははは……」


 海雲寺蒼太はぎくりとして笑ってごまかす。


「それに……あんたは一見明るく、さわやかな感じだけどさ……瞳の奥の本性に暗い情念を感じるわ」


 蒼太が内心ぎくりとしたが、表には出さない。


「えっ? ……もしかして和鷹さんって、人相見の資格も持っているの?」


「いいえ……でも、こう見えて若い頃から苦労しているから、なんとなく、人の本性を見極めるすべを得ただけよ」


「へえ……まるで超能力ですねえ!! ……和鷹さんはUFOや宇宙人を信じない派ですか? ぼくは信じる派でして」


「あいにく私は宇宙人もエスパーも、オカルトはいっさい信じてないわ」


 蒼太はそうそうに引き上げ開いた座席に座り、余ったシャケ弁当を美味しく頂いた。


 そうこうするうちに、真樽子漁港に到着。


 港は漁に行った船がまだ戻らず広々していた。


 牟田口とADが漁業組合事務所に行って了承をとり、桟橋で撮影の続きが始まった。


 蒼太はついでとばかりにこちらの撮影も見学した。


 組合の駐車場にあったカローラから小太りの中年男が出てきた。


「はい、『ホワット!?ミステリー㊙情報部』のミステリー・リポーターの和鷹マリです! こんどはこちら、真樽子漁港にきました。実はこの海の向こう側に海底遺跡が見つかったのは御存じでしょうか?」


 海雲寺蒼太が目を細め、真樽子漁港から東側にある海猫岬までの海を見つめた。


「昨年、あちらで海底牧場計画の工事中に、見積もりをしていた潜航艇が偶然見つけたのがこの海底遺跡です」


 ADが掲げたフリップに、海底遺跡の写真が写った。


「海底遺跡にUFO騒ぎ……真樽子市のミステリーはまだまだあるんですよ!」


 和鷹マリの満面の笑顔をふりまいた。 舞台裏を知っている蒼太はなんだかなあ……という顔をした。 


「先日、ここ……真樽子漁港で不思議な未確認生物ユーマが目撃されたんですよ……これを見てください」


 スタッフに渡された液晶タブレットをかかげた。 映像が始まり、深夜の桟橋で釣りをしている人が、スマホで遠くの豪華客船を撮影している。


 すると、右側にある岩場で物音がした。 5メートルほどの高い岩場の上に黒い人影があり、海へと飛び込んだ。


 液晶タブレットの拡大映像にされたものを指し示す和鷹アナ。


「この映像では、ただ、人が海に飛び込んだように見えますが……ここで、怪現象研究家で作家の伏木多那彦ふしぎたなひこさんに解説してもらいましょう」


 カローラの中年男が出てきて、和鷹と牟田口は彼と打ち合わせをし、ようやく本番となった。。


「はいはい……伏木で~す……またどうも、よろしくです……私の書いた『日本未確認生物大全』が全国の書店で発売されているのでよろしくお願いしま~す」


 そういって、伏木は見本の本をかかげた。


「伏木さん、神奈川県には昔から宇宙人みたいな未確認生物ユーマがいると聞いたんですが……」


「ええ、いますよ……これです!」


 怪現象研究家・伏木多那彦はタブレット映像を二本指でピンチアウトさせて拡大させた。


「この映像をよぉーく、見ていただきたい」


 海面に飛び込む人間の背中あたり、魚の背びれのようなものが見えた。


 それにまっすぐ伸ばした両手の指先に水かきのようなものが見える。


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