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黒い稲妻

 車載のモニター電話には黒いベレー帽に濃緑色の軍服を着て、顔には白い包帯がグルグルとまかれ、目と口だけが露出している男が映った。


「久しぶりだな……海雲寺蒼太!」


「……誰だ、あんたは? ミイラ男に知り合いはいないぞ……エジプト観光のCMか?」


「ミイラ男ではないっ!! わしだ……これを見ても思い出せないか?」


 包帯男は左腕の記章を見せた。


 黒色に塗られた稲妻いなづま型の文様で、蒼太の脳髄にひらめくものがあった。


「なんだと!!……お前、まさかテロ組織『黒い稲妻』のホーネット・オリゾン大尉か!?」


『黒い稲妻』とは、中央アジアにあるギャスケリア共和国の秘密工作部隊が母体となっている。


 一年前、ギャスケリア共和国が隣国のトーナリスタン国に侵略戦争をはじめ、アメリカやヨーロッパ諸国がその非道な侵略行為に糾弾した。 


 資源のない国・日本を始め、ユーラシア大陸の多くの近隣諸国はギャスケリア共和国に鉄鋼や石油資源などを頼り、また、地理的に報復行為をされるのを恐れ、当初は対応に玉虫色の反応を示していた。


 が、日本国が欧米に続いてギャスケリア共和国に輸入停止の経済処置をはじめたことで、東アジア各国でもそれにならって強い態度を示した。


 世界各国からの孤立と、経済的困窮を苦慮したギャスケリア共和国首脳部は秘密部隊を各地にはなってテロ行為を始めた。


 まずは東アジアでの孤立を招いた要因である日本国に報復するため、札幌駅・仙台駅・広島駅・福岡駅に『黒い稲妻』は爆弾をしかけ、深夜の構内で爆破させた。


 そのため警備員・作業員など死傷者が合計数十名に達した。


「まさか、お前が生きていたとはな……しかし、お前達『黒い稲妻』は火薬工場のアジトごと吹っ飛んだはずだと思ったが……」


「ぐははははは!! キサマに復讐するために地獄の底から甦ったのよ!!」


「ミイラ男が甦ったとはシャレにもならないぜ……しかし、この回線をどうやって知った? 厳重なセキュリティがあるはずだが」


「ふふふふふ……蛇の道は蛇よ……お前に会いたくて大金をはたいて調べ上げた」


「おえぇぇ……おっさんのストーカーは願い下げだ!」 


「あいにく名古屋駅ではキサマが邪魔をして失敗し、爆弾を処理されてしまって、大いに株を下げてしまったがな!」


 だがしかし……一見、普通の高校生に見える海雲寺蒼太が、なぜ凶悪なテロリスト集団を壊滅させ、かつ残党に狙われるのであろうか?


「オリゾン大尉……お前に真剣まじに聞きたいことがある」


「ほう……なんだ?」


「お前達のテロ行為で犠牲になった人たちや、その家族友人は嘆き悲しんでいる……ギャスケリア共和国と日本との諍いとなった経済封鎖は政府のトップたちが決めた事だ……それとはまったく関係ないはずの一般市民をなぜ襲った?」


「人間など愚かな生き物よ……テロの恐怖から、一般市民の怨嗟の的は我が国よりも、その国の政府に向かう……いい気味だわい、ぐはははははは!!」


 暴力的脅迫行為の恐怖は一般市民から理性と良識をうばう恐るべき手段なのだ。


「……どうやら、お前たちは真の男って奴じゃないようだな」


「なんだとぉ……まずはキサマを血祭りにあげ、次に白昼の大阪駅と東京駅を爆破させて、日本を大混乱の坩堝るつぼに突き落としてやるわい!!」


「そうはいくか!!」


 そのとき、アストンマーティンの背後にぴったりとくっついていたBMWが追い越し車線から追い上げ、蒼太の車と並んだ。


 高級セダン車の後部サイドウインドウが開き、中にいた黒ベレー帽に口髭の男が銃口をこちらに向けた。


「軍曹、にっくき海雲寺蒼太を蜂の巣にしろ!!」


「ラジャー!!」


 タタタタタ……と小気味よい銃声が響く。


 フルオート射撃で9mmパラベラム弾が連射された。


 ヘッケラー&コッホ社の短機関銃(SMG)だ……対テロ作戦部隊の標準装備がテロ組織に使われるのは皮肉である。


「おいおい……いきなり容赦がないなあ……まるで禁酒法時代のギャングじゃねえか!!」


「なに!?」


 短機関銃の射手とモニターのオリゾン大尉が驚いた。 


 アストンマーティンの車体はおろか、サイドウインドウにもヒビひとつ入っていない。


 当然、蒼太も無傷でぴんぴんしている。


「汝、平和を欲さば、戦への備えをせよ、だ」


 アストンマーティンは映画のボンドカーのように、特殊防弾ガラスと装甲板の改造をほどこされていたのだ。


「くそっ!!」


 黒ベレーの射手は引っ込んで、短機関銃の代わりに、ロケット・ランチャーを出して発射した。


 蒼太はスピードを上げて躱し、数秒前までいた舗装道路が爆焔をあげた。


「天下の公道を壊すんじゃねえっ!! 国民の血税で作られているんだぞ!!」


「ぬかせ……今度こそ喰らえ!!」


 二発目の小型ミサイルが打ち出され、高級車めがけて迫る。


 蒼太が前を見ると、数十メートル先は右に大きく90度近くカーブした道だった。


 これではスピードを上げて回避できない。


「野郎……コースを計算ずみの二発目か!?」


 だが、蒼太はあえて車のスピードを上げた。


 時速180kmを示す……常人ならばカーブを曲がれるスピードではない。 


『スピード超過です……減速して下さい……スピード超過です……減速して下さい……スピード超過です……』


 車の音声ガイドが狂ったように繰り返しわめく。 アストンマーティンは減速せず、時速200kmのスピードでカーブを曲がった。


 蒼太は無言で詰襟学生服の内側のスイッチを押す。


 詰襟から薄い金属が迫り出し、フルフェィス・ヘルメットのようになり、彼の頭部を覆った。 


 F1レーサー並のドライビングテクニックでカーブを曲がって走った。


 タイヤが煙を上げ、車体に凄まじい横Gがかかった。


 横4Gの圧力が蒼太の肉体にプロボクサーに殴られるような衝撃で襲う。


 F1レーサーがプロ格闘家のように鍛えているのは、この重力に耐える肉体作りのためだ。


 小型ミサイルはアストンマーティンを追い切れず、カーブのガードレールを越え、海面めがけて飛んでいき、岩礁に命中して爆発した。


「なんだとっ!?」


 追いかけてきたBMWがカーブを曲がりきれず、ミサイルを追って崖から30メートルは下にある海面に落下し、盛大な水飛沫をあげた。


「五月とはいえ、海水浴にはまだ早いぜ、オリゾン大尉!」


 横Gの威力にも耐えた蒼太がバイバイと手を振る。


「よくも部下をやってくれたな……」


「なにっ!?」


 モニターには包帯巻きのオリゾン大尉が平然と返事をした。


 安心するのも束の間、バックミラーにもう一台のBMWが映った。


 両側のサイドウインドウが開いて機関銃を撃ってきた。


「くそっ、オリゾンの野郎はあっちか……目には目をだ……AI、戦闘準備だ!!」


『了解しました!』


 蒼太の指示で、フロントウインドウ下半面にディスプレイが表示された。 


「ベビーミサイル用意……発射!!」


『発射します!』


 後部の隠しハッチが開き、音声ガイドで小型ミサイルが発射された。 

 

 BMWのフロントに命中し、黒煙をあげる。


 が、その黒煙の中から煤がついただけのセダンが出てきて蒼太を追走する。


「なにっ!! ……あちらさんも防弾装備か……なら、これはどうだ!?」


 音声指示でフロントのディスプレイが光り、英国車の後部からオイルが散布された。


 コールタールのごとき粘液にハンドルを取られたBMWは大きく横にそれ、ガードレールを突き破って崖から海面に落下した。


 車から撒かれたオイルは瞬慣性揮発性のもので、五分もすれば蒸発して匂いも残さない優れものなので、一般の後続車が事故になることはない。


「オリゾン大尉も神奈川まで来て、骨折り損だったな!」


 左側の窓から海面を見ていた蒼太が視線を前に戻すと、テレビ電話のモニターには相変わらずオリゾン大尉が平然として映っている。


「ぎょっ!?」


 ニヤリを笑い、


「骨折り損……とやらは、決め台詞か?」


「うるせいっ!!」


「前を見ろ、海雲寺蒼太!!」


「なんだと!!」


 蒼太がフロントから見上げると、巨大なヘリコプターが見えた。 


 胴体前部のタンデム式の座席は、後席が操縦士で、前方に航法兼攻撃手になっていて、フロントガラスに包帯男のオリゾン大尉が見えた。


Miミル―28じゃねえか!? どうやって日本に持ち込んだ!!!」


 ただのヘリではない、対戦車用攻撃ヘリコプターだ。


 輸出用のMi―20NEで、1200万米ドルはする。


「ふふふふふ……蛇の道は蛇よ!! 今度こそあの世に送ってやるわい、海雲寺蒼太!!!」


 攻撃ヘリからレーザー照準の赤い光が発射され、アストンマーティンのフロントから見える海雲寺蒼太に狙いがつけられた。


 ヘリの機首下にある30mm機関砲が火を噴いた。


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