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怪魚ダンクルオステウス

 海洋調査船『つくよみ』がソナーで、相模湾の海底下に古代の甲冑魚ダンクルオステウスと似た、巨大な怪物体を認識して色めきたった。


 まさにその時……海洋調査船『つくよみ』に衝撃が走り、船体が大きく揺れた。


「わわっ!? なんだ一体!!」


 ソナー係が大声をはりあげた。


怪物体アンノウンが水面下から海洋調査船下部に体当たりをした模様です!」


 乗組員クルーの報告に信じられない面持ちとなった艦長たち。


 そこにまたも艦に衝撃が走り、艦が大きく傾いて、船員たちはよろめいた。


「もう一度確認するが、国籍不明の潜水艦の攻撃ではないのだな!?」


「はい、確かです!!」


「そうか……このままでは艦が危ない……未知生物アンノウンに爆雷を投下せよ!!」


 これに海洋生物学者があわてて艦長にとりすがった。


「待って下さい!! あれが本物のダンクルオステウスだとしたら、生物学史上の貴重なサンプルになる!! 殺してはいけない!!」


「莫迦をいうな!! このままでは船が沈められるぞ!!!」


「しかし……しかし……」


「私にもあれ・・が貴重な生物であることは分かるが、このままでは艦が危険なのだ。私はこの艦と乗員を守る義務がある」


「くっ……」


 断腸の思いの学者をよそに、怪生物アンノウンが三度目の攻撃をする前に水雷兵器で反撃しなければならない。


標的ターゲット捕捉……艦の真下に来ました」


 艦にそなえつけられた両舷用爆雷投射機……「Y砲」が自動制御で海に迫り出し、涙滴型の本体に尾部にフィンをつけた水雷兵器を海中にむける。 


「ソナー停止!」


「はっ!」


 機雷が水中爆発を起こせば高価なマルチビーム音響測深機が壊れてしまうので、投下前に停止させるのだ。


 そのため、爆雷が敵潜……いや、敵怪生物に命中させえるかどうかは、艦長の経験則と勘頼りなところがある。


 艦長が額に汗をかきながら、ソナーが停止するまえのスキャン映像を脳裏にえがいて投下ポイントを推測した。


 艦搭乗員たちも固唾をのんで見守る。


「よし、いまだ……爆雷を投下せよ!」


 爆雷係がスイッチを押したが、なぜか作動せず、何度も押してみた。


「どうしたのだ?」


「爆雷投射機が作動しません!?」


「なんだと!! 投射機のメンテナンスをおこたっておったな!」


 どよめく『つきよみ』乗組員たちをよそに、海洋生物学者はほっとした表情になる。


 副艦長があわてた様子で、


「艦長!! これを見てください、大変です!!!」


「今度はなんだ!?」


「船の羅針盤を見てください!!」


「羅針盤だと?」


 艦長が羅針盤を見ると。針がめちゃくちゃに動き回っている。


「なんだこれは!?」


 操舵士が振り返り、


「艦長、面舵おもかじが効きません!!」


莫迦ばかな……十日前に整備したばかりだというのにあちこちが壊れたというのか……」


「艦長、こんどはエンジンが止まりました!!」


「なら、補助エンジンを使え」


「はっ……」


 だが、補助エンジンも動かなかった。


「艦長……」


「こんな莫迦なことがあってたまるか……無線で救援を呼ぶのだ」


「……無線も使用できません……」


「なんという事だ……海上防衛隊の最新鋭の海洋調査船が、こんな無様な姿をさらすことになるとは……」


 そのとき、『つくよみ』の船体が大きく揺れ、45度に傾いた。 


 乗組員たちは近くのものに取りすがる。 海洋調査船の底部が謎の怪物体に激突され、大きな穴が開いたのだ。


 水密区画に浸水したが、隔壁をダメージ・コントロールで閉鎖することもできず、バランスを崩して、片側にひっくり返ってしまった。


 艦内に悲鳴と怒号が飛び交い、浸水した海水がクルーを呑み込み、阿鼻叫喚の地獄と化した。 


 哀れ……海洋調査船『つくよみ』は海に大きな渦をつくって相模湾に沈没していった……

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