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海洋観測艦『つくよみ』

 相模湾の海原を、海上防衛隊の海洋観測艦『つくよみ』が白い航跡をつくって進んでいた。


「針路105度。基準針路117度。艦橋自動操鑑保持モード……」


 横須賀のレーダー基地で『FRBS』……高速電波バーストに似た怪電波が発見され、調査のため発進地点を調べに来たのだ。


 なにせ『FRSB』は2007年に天体観測されて以来、まだ4度しか観測されていない。


 その発信源は何百万光年も離れた宇宙空間と思われているが、5度目の『FRBS』は地球にかなり近い場所……いや、地球上で発見されたのだ。


 その高速電波バーストに似た電波が日本の相模湾で発見されたのを不審に思い、防衛隊上層部はただちに調査に向かわせた。


「艦長……この怪電波はプレートの異常だとか、大震災の前触れではないかと、隊員たちが噂しています」


 副長が眉をひそめていた。


「うむ……たしかに、大災害の前触れには異常な現象があるものだ……だが、海上防衛隊の隊員とあろうものが、浮ついた気持ちでいては困るな……ただの杞憂であれば良いのだが」


 海洋観測船『つくよみ』は、軍艦でもあり、海洋調査船でもある。 


 艦内には海底の地形や底質、海流や潮流、地磁気、水質音などを調べる装置が満載されている。


 民間の海洋調査船とちがい、その目的は、仮想敵国の潜水艦が攻めてきた場合の備えで、日本国内の海底の自然調査が主目的である。


「このあたりの海域で怪電波を発見したのだな……」


「たしかこの辺りです……政府が海底牧場を建設しようとしたのは……」


「そうだったな……あれから一年経つか……」


 順調に思えた海底施設の建設は原因不明の潜水艇爆発事故により、施設も大破……現在にいたるまで計画は頓挫とんざしている。


「そういえば、建設時に海底遺跡のようなものが発見され、『真樽子ピラミッド』と呼ばれて、ニュースで取り上げられましたね……」


 一年前の建設時の調査中に、真樽子沖で南北に約300メートル、東西に約400メートル、高さ35メートルにおよぶ巨大な石造りの神殿のような地形が見つかり、古代に海底に沈んだ遺跡ではないかと話題になった。


「うむ……だが、疑わしいな……それ以前にも与那国島の海底で同じような遺跡が発見されたとニュースになったが、水中考古学者や地形学の専門家の多くが人工の構造物ではなく、自然地形であると否定している」


「そうでしたか……では、おそらく真樽子の遺跡も……」


「だろうな……もっとも、変わった自然物を古代人が信仰の対象にしたという例は多いがね」


「なるほど……日本の神道以前の古代宗教は、山岳を崇拝するものが多いですしね」


 航海士が怪電波の発信源と思われる海域に近づいたと知らせた。


「ソナー係、音響測深機で調べるのだ」


「はっ」


 ソナー係がマルチビーム音響測深機を動かした。


 これは海洋調査船『つくよみ』の底部から扇状の音波を発信し、3次元的に海底を音響で測深する装置だ。


「艦長……ソナーに妙なものを探知しました!!」


「むっ、敵国の潜水艦か?」 


 レーダー係は複雑な表情を浮かべ、


「それが……潜水艦のような……くじらのような……正体不明の怪物体としか……」


「ええい……はっきりしない……」


 艦長がソナー係のそばにきて、マルチビーム測深機がつくった測深画像をのぞきこむ。


「なんだ……これは?」


 画像が粗いが、細長い流線型の体型で、後ろに尾ビレのようなものが見える。


 じっと見つめていると、怪物体の画像はわずかに身をくねらせて動いているようだ。


「動いているようだ……潜水艦ではないな……しかし、鯨でも鮫でもないようだが……」


 そこへ『つくよみ』に同行した海洋生物学者も来て、


「もしかすると……いや、莫迦な……」


「なんだね……言ってみたまえ」


「はあ……これはもしかすると、ダンクルオステウスではないかと……」


「ダンクル……なんだね、それは?」


「はっ……古生代・デボン後期に棲息した甲冑魚かっちゅうぎょです」


 海洋生物学者はタブレットを動かして、奇怪な姿の古代甲冑魚の想像画を見せた。


「古代の甲冑魚だと!? ……莫迦な」


「ええ……しかし、シーラカンスのように古代の魚が現存していたという例もあります」


「シーラカンスねえ……しかし、こいつはシーラカンスより、かなり大きいようだが……」


「はい……甲冑魚は15~30センチほどのものが多いですが、ダンクルオステウスは甲冑魚の中でも最大で、全長9メートルはあると考えられております」


「9メートルだと? ホオジロザメの2倍はあるな……シャチやウバザメと同じくらい巨大な魚だ……」


「はい……ダンクルオステウスは頭部から肩帯にかけて甲冑のような装甲板で覆われていました。さらに歯はありませんが、強靭きょうじんなアゴを持っていて、捕えた獲物を一撃で噛み切るほどの威力あったとされています」


 その噛む力は440~530kgにも達したと推察されている。


「噛むといったな……すると、肉食なのか?」


「はい、巨大な肉食魚であったため、デボン後期の海では食物連鎖の頂点に君臨していたといわれております」


「おい……これがその甲冑魚だとして、この船を噛むことはあるまいな……」


「まさか……シャチだって大きな船は襲いません」


「大きさはどのくらいだ?」


 ソナー係は画像を解析した。


「はっ……25から30メートルはあるようです」


 これには、艦長も海洋生物学者も驚いた。


「莫迦な……ダンクルオステウスが、現行生物で一番巨大なシロナガスクジラほどもあるというのか!!」

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