#05
夜ご飯を食べおえ、ちょっと急ぎめにお風呂に入り、寝支度を整えてハッと時計を見ると、ちょっと20時5分前。
「良かった……間に合った」
僕はそうぽつりと口に出すと、既に準備していたVRゴーグルを頭からすっぽりと被り、電源ボタンを押して「VRtalk」の世界へと飛び込んだ。
◇
ログインを終え視界が開けると、僕はまた和明の部屋に立っていて、視界の端に写る僕はまた美少女になっていた。
こっちの世界の僕ってばほんとにかわいいなぁ……。
そう思って鏡の前で少し立ち止まり、くるっと1回回っていたり、顔の横で横向きのピースをしてポーズを取ったりしてみる。
うん、僕、かわいい……じゃなくて。
「和明は……っと?」
和明はというと、どうやら奥の方で作業をしているみたいで、構造上丁度死角になっているからか僕にはまだ気づいていない様子だ。
……ちょっと驚かせてやろうかなっ。
僕はそろそろと音を立てないように和明の背後に忍び寄ると、正面に回り込んで「わっ!」っと声を出す。
「びっくりしたぞ、アズ」
「ふふふ……ドッキリ大成功!」
そう言って笑いかける僕。和明お手製らしい和明のアバターは高性能なのか、顔が狼狽えてる表情になってておもしろい。
「……それはそうと、今何してたの?」
僕はふと気になって和明に問い掛けてみる。
別に意味があった訳じゃなくて、ただなんとなくに気になったからだ。
「今か……?今は……フレンドさんとDMで連絡をしてたんだ。キーボードを打ち込んでいたから集中しててアズが入ってくるのも気がつかなかったんだよ」
「なるほどー、そんな機能もあるんだね」
「そういえばまだ教えてなかったな。今度教えよう。それより、そろそろ行かないか?正直回りたいところが多すぎてな」
「おー、それは期待大だね。楽しみだなぁ……
あ、一応今の僕は和明の彼女ってことってことになってるんだし、エスコートよろしくね?
彼氏のカズくん?」
そう言って僕は腕を絡ませ和明を上目遣いで見つめる。
和明が勝手にそういうことにしたんだから、僕もそういうことにして和明を無償ガイドにしても文句はないよね!
腕を絡ませたのは、なんていうか、ほら、サービスと言うやつだ。和明のやつもアバターとはいえこんな美少女にくっつかれれば嬉しいだろう。
「あぁ、任せてくれ。
確りとエスコートさせて頂きますよ、お姫様」
「……!?う、うん!」
そうして僕たちはホームワールドを後にする。
……和明がやたらとキザなセリフを刻みながら、僕の名前を呼ぶときだけ耳元で妙に囁くように言うもんだから、ちょっとドキッとしてしまったのは内緒だ。
……というか、そもそも僕はなんでちょっと嬉しくなってるんだろう……?
まぁ、いっか。
◇
「あれ、ここは?なんか見覚えあるような……」
ロードが終わって視界が開けると、確かに場所は変わっているもののなんだか見覚えのある景色。
「昨日も来たところだ。俺のフレンド達がよく集まっている、いわば集会所みたいなところなんだよ」
「なるほどねー、今日もここで遊ぶの?」
「いや、一応ちょっと顔を出して挨拶をしておこうと思ってな。今日はアズを連れ回すから、他の奴とは遊べないってことを周知する目的もあるが……ちょっとだけ待っててくれ」
「なるほどね、りょーかい」
そう言うと和明は人が沢山いる方へと歩いていく。
僕はとりあえず待つことにして、近くにあったイスに座ろうとする。
「えっと……確か、座るのはsitだっけ……?」
そう言いながら近くのイスに目線を合わせ、「座る」を選択した瞬間イスにグイッと引き寄せられ、次の瞬間には僕はイスに座っていた。なにこれおもしろ。
少し目線を動かして向こうの方を見てみると、和明がなんだかフレンドさん達に絡まれている様子。
少し耳を立てて聞いてみれば、
「今日は彼女さんとデートですか!?デートなんですか!?くっそ羨ましいっっっっ!!!!」
「なんで!!!!!!Kazに彼女がいて!!!!!!!!俺には居ないんだ!!!!!!!!!!!くそがっ!!!!!」
「あのカズくんに付き合ってくれる人がいたなんてねぇ……(しみじみ)」
「アズちゃん、って言うんだっけ?昨日話してみたけどいい子ね〜」
「お砂糖……ウッ……トラウマが……」
と、三者三様の反応が帰ってきている。僕のことを言われてると、ちょっと恥ずかしいけど別に悪い気はしない。
あと最後の人はなんか過去にあったのかな……?あんまり詮索しないどいてあげよう。
なんてことを考えているうちに和明は話し終わったようで、僕の方に近づいてくる。
「酷い目にあった……」
「終わったの?」
「あぁ。それじゃあ行こうか。最初は……そうだな、ここにしよう」
そう言うやいなや、和明は目の前に時空の切れ目みたいなのを作る。なにこれすごい、ちょっと怖い。なんか吸い込まれたりしないのかな。
「ワールドを直接移動できるポータルを立てたから、ここに飛び込むんだ」
「え、これって大丈夫なやつなの……?」
「あー……はじめてだとちょっと躊躇するよな。大丈夫だ、なんなら俺が手を繋いでやろうか?」
「う、うん……。お願い……」
僕がそう言うと、和明が僕の左手を握って僕達は手を繋ぐ格好になる。
もちろんVRだから実際の感覚は無いはずなんだけど、リアルの和明を手を知っているからなのか、リアルの僕がコントローラーを握る左手が少しだけしっとりとして、僕は思わず強く握り直す。
ちらっと横にいる和明の方を見ると、いつもよりかなり近いところに和明の顔があって、なんだか恥ずかしくなって目をそらす。
というか冷静に考えて、高校生男子が親友の男子と手を繋いでいるなんて光景やばいんじゃ、なんて一瞬おもったけど、
今の僕がなまじ美少女だからか変な感じは一切せず、むしろマッチしているのだろう。
そうだ、今の僕は美少女で、カズの彼女のアズ。何も恥ずかしがることはないんだ。
僕は無理やりそう思い直す。
「カズ、そろそろ行こう……?」
「アズが良ければいつでもいいぞ」
こうして僕たちは、例の時空の裂け目みたいなポータルへと飛び込み、新たな世界へと足を踏み入れたのであった。