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#04

ピピピピッ


ピピピピッ


ピピピピッ


ピピピピッ




バシッ。


……





 僕は枕元に置いてあった目覚まし時計をベッドの中から手を伸ばして乱暴に上から叩いて止め、妙にだるい身体を無理やり持ち上げる。


「もう朝ぁ……?」


 うーん……。

なんだかぼーっとする。頭がすっきりしない。


 目を開けて寝ぼけた頭で周りを見渡すと、昨夜寝る時に外してベッドの脇に置きっぱなしになっていたVRゴーグルを見つける。


 まぁ、原因は十中八九これだろう。なんかぼーっとするのも、ただ単に寝足りないだけ。そう考えたら腑に落ちる。


 昨晩はかなり遅く、確か日付が変わったくらいまで起きてたはずだし、いつもより遅く寝て、いつも通りに起きればそりゃ眠いはずだ、と未だ覚醒しきってない頭で考える。


 ここで二度寝をしたいところだけど、休日ならともかく、今日は平日。普通に学校がある日だから寝直すにも時間が足りないし、第一ここで寝たら僕は絶対に起きれないだろう。


 仕方ない、起きるか。


 そう思った僕は、惜しくも布団を手放すと、朝の支度を始めるのだった。






 学校の制服に着替え、朝ごはんを食べて靴を履き玄関を出る。

 家の前に僕のことを待っていたのであろう和明を見つけると、僕は駆け寄って肩を叩いた。


「和明、おはよ」


「おぉ、来たか梓。今日はいつもより少し遅かったな」


「そうなの?」


「あぁ。平均から3分30秒ほど遅い」


「こまか!?……ってか毎日僕の出てくる時間見てるわけ……?こわ」


 僕は目の前の和明のことを訝しげな目で見つめる。

 ……これ、和明がムダに高身長な分、僕が見上げる形になっちゃって、どうしても上目遣いみたいになってしまうんだよね。

 ……僕の身長が男子にしては低いだけなのかもだけど。


「いや、だって毎日一緒に学校行っているだろ?そろそろかと時計でも見て待ってるうちに嫌でも覚えるって」


「そんなもんかなぁ?」


「ほら、そろそろ行かないと遅刻するぞ?」


 そう言って和明は腕時計を見せてくる。確かに、そろそろ出発しないと少しあぶない時間だ。


「だねー」


 僕はそう返すと、和明と並んで歩き出す。

空は雲ひとつ無い快晴で、陽の光がぽかぽかとして気持ちがいい。


「ふぁぁ。やっぱりちょっと眠いなぁ……」


 そう呟いた僕のひとりごとに和明が反応する。


「そりゃあ梓、昨日の夜、随分と遅くまでやってたみたいだしな。寝不足なのも頷ける」


「……そもそもの原因はキミが僕を彼女役にしたからだろう?随分と他人事のような言い回しだね?」


「あくまで最初の1時間ほどだけだろう?俺が梓を紹介したのは。落ちたければ21時過ぎには落ちれたはずだ。……それをしなかった、ということは、だ。楽しかったんだろう?VR」


「ま、まぁ、否定はしないけど……」


 図星だった。まさかVRがあんなに楽しいものだったなんて。

 システムもギミックも面白かったけど、やっぱり1番はコミュニケーション。お互い全く知らない人同士なはずなのに気軽に話しかけてきてくれて、初心者の僕にいろいろ教えてくれた。


 それに……


「あっちの僕、かわいかったなぁ……」


 ほぼ無意識的に呟いたその言葉。それが、僕がVRにハマった何よりのものだった。


 昨日も思ったけど、和明が創ったという「あっちの僕」はかわいすぎる。


 実際昨夜いろんな人にアバターを見せてもらったけど、ぶっちゃけ僕ほどに可愛いアバターはいなかったと思う。リアルに誰もが目を奪われてく、そんな姿を僕はしていたのだ。専門的なことについてはさっぱりだけど、これを創った和明はやっぱり相当なやり手なのだろう。


 そして、「VRtalk」の世界の中には、至る所に鏡がある。そこに、僕に良く似た美少女が写り込むと、一人称視点なのもあると思うけど、なんだか自分が本当に美少女になったような気がしてきてしまうのだ。

 それでいて、「カズの彼女」として紹介されてるわけだから当然女の子扱いされるわけで。


 ぶっちゃけ、ちやほやされるのすっごく楽しかったです……


「そうかそうか。そんなにか。気に入ってくれてなによりだ」


 そう言ってこちらをじっと見つめてくる和明に、僕はふと我に返る。


 ぐぬぬ……さっきの意趣返し……?


 そう思って恨めしげな目で和明を見つめる。例によって身長差で上目遣いみたいになってしまうのが締まらないんだけど。


「別にそんなんじゃないさ。ただ、俺の都合で巻き込んでしまった以上できるだけ負担はかけたくなかったからな。楽しんでくれていて良かったと安心したところだ」


「それに、昨夜はかわいかったぞ。アズ」


 それだけわざわざ身をかがめて僕の耳元に囁くようにして言うと、和明はすたすたと先に歩いていってしまう。

 

 僕はと言えば、何故か身体がすこし暑くなったような気がして、何故かすこし早くなった心臓の鼓動を誤魔化すように足を早めた。






 度々襲う眠気に耐えながらなんとか一日の授業を受け切り、帰りのSHRが終わるとすぐに僕たちはすぐに教室を出る。


 今日も帰り道は和明と一緒だ。というか、和明と帰らないなんて滅多なことがない限りありえない。


 それに、以前僕が和明に

「他の友達と帰ったりしたくないの?」

と聞いてみたところ、

「何故か遠慮されてしまうんだ。まぁ、梓と一緒にいるのがいちばん楽しいし、困ってないがな」

と言われてしまい、そのまっすぐな言葉に僕は抗えなかった。


 僕……?僕はいいんだよ……べ、別に友達がいないとかそういう訳じゃないんだよ。まぁ少ないけどさ。

 ……きっと僕も、なんだかんだ言って和明と駄べりながら歩いて帰る、この時間が好きなんだろうな。


「それでね、これはさ〜」


「ほう。なるほど興味深いな」


「だよね、だから〜」


「…………」


「……」



 


 他愛もない話を繰り返しながら歩き、家の前まで着いたところで、僕はある話をしてなかったことに気がついて和明を呼び止める。


「ん、どうしたんだ?」


「あのさ、和明は今日このあとって空いてる?」


「今日はいつでも空いてるぞ」


「そっか。じゃあさ、また夕ごはんの後に一緒にやらない?」


「VRtalkか?」


「うん。折角だしいろいろ見てみたいなーって」


「なるほどな。そしたらワールド巡りでもするか。この俺選りすぐりのおすすめを案内しよう。任せとけ」



 そう言って、笑いかけながらこちらにサムズアップする和明は、とても頼れそうな感じがして



「う、うん!楽しみにしてるね、それじゃあ」



 なんだかちょっと、いつもよりかっこよく見えた。

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