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#03

 ご飯を食べてお風呂に入っていると、あっという間に時間が過ぎる。

 気がつけば、約束の20時5分前になっていた。


 僕は自分の部屋に戻るとゲーミングチェア腰掛け、VRゴーグルを被ると電源を入れる。


 起動画面を通過して「VRtalk」にログインすると、既に和明はそこにいて、僕を出迎えた。


「おまたせ」

「来たか。20時ちょうど……流石だな」

「約束は守る主義だからね。

……そういう君こそ早くないかい?」

「そうでもないさ。俺も夕飯をさっさと済ませてさっき入ってきたところだ」


 ちなみに和明の両親は共働きで、平日は夜遅くまで仕事をしている。だから夕飯は和明が自分で作って食べている。


 和明が僕の家の夕ご飯の時間を知っているのも、僕の家で夕方まで遊んでいるといつの間にかお母さんが和明の分まで夕ご飯を用意して一緒に食べるからだ。


 閑話休題(それはともかく)


「それで、僕は何をすればいいんだい?」

「あぁ。昼にも説明したと思うが、梓には俺の彼女役になってもらう。特にこれといったこととかしなくても、とりあえず俺にくっついていてもらえばいい」


 ふむふむなるほど。どうやら僕が思っていたよりも簡単なお仕事らしい。


「和明のそばにいるだけ」


 これなら普段と殆ど変わりない。


「でも、やっぱり僕で大丈夫かなぁ。

女の子の振る舞いとか知らないよ?」

「そこはまあ徐々に慣れていけばいいさ。それになにか言われたら初日だから動きなれてないって言えばいい。

それに梓は元からかわいいからな。心配ないだろう」

「またそんなこと言う」

「俺としては本心なんだがな……っと、そうだ。

ここでは俺の名前は「Kaz」だからそう呼んでくれ」


  和明だからカズ。なんとも安直。


「ちなみ梓の名前も仮で「Az」で登録してあるが、変えるか?」


 アズ……って、まんま僕のニックネームじゃん。


「う〜ん、安直だけど変えるの面倒だし、別に変えなくていいかな」

「それにそっちもアズの方が呼びやすいでしょ?

カズくん(・・・・)♪」」

「んなっ……!?」


 僕はさっきの意趣返しとばかりに、甘い声を出して和明の名前を呼ぶ。すると和明は顔を背けてしまう。


 ……おやおや〜?


「どうしたの、カズくん?

僕、そんなに可愛かった……?」


 そう言いながら僕は顔を背けたままの和明に上目遣いをしながら近づく。

 なんだろう、なんかすごいイケナイことをしてるようでドキドキする。


 僕がカズの顔を覗きこむと、カズは更に顔を背ける。

 僕たちが一周したところで遂に和明が音を上げた。


「ああ!そうだよ!!

お前がかわいすぎるんだよ!!!!

なんだそれ!!!」


 和明の逆ギレに、僕も逆に冷静になる。


 あれ……?これってよく考えてみれば……!



沈黙。


きっ……気まずい……



「そっ、そうだ!ほらっ、早く行こうっ!?

カズのフレンドさん待ってるんでしょ!?」


 そう言って僕は露骨に話題を逸らす。


「そっ、そうだな。行こうか」


 僕たちはさっきのことを一旦なかったことにして、和明の指定したワールドに入る。

 それでも……


(和明はああいうのが好きなのか……。

反応面白いし喜んでたからまたやってやろっ!)



 僕の記憶から消えることはなかった。







 カズのフレンドさんとの顔合わせは思ってたよりも呆気なく終わった。どの人も優しくて初心者の僕を歓迎してくれ、いろいろなことを教えてもらったりした。


 カズは何人かのフレンドさんに「彼女いるリア充」って理由で折檻されてたけど、VRだしよくあることらしいので気にしないでおく。

 驚いたのが、当たり前だけど様々なアバターの人がいるということ。そして、アバターの外見と声が必ずしも一致しないことも知った。


 例えば筋骨隆隆の男性アバターから優しそうな女性の声がしたり、小学生ぐらいの女の子のアバターからおじさんの声がしたりと様々。

 はじめはちょっと驚いたけど、こういう自分じゃない自分になるのも楽しいってことは今の僕にもよくわかる。


 ちなみに、どうやらVRの中で恋人がいたり出来たりするのは結構普通のことらしい。

 RPの一環としての恋人もいればガチの人もいて、中にはこれをきっかけに現実で結婚した人もいるとか。


「だからアズちゃんがカズくんといくらお砂糖していちゃつこうが問題ないですよ〜。まぁちょっと嫉妬はしますけどね〜」


 ちょっと仲良くなった筋骨隆々ネキがそう言ってきた。

 あっ筋骨隆々ネキっていうのは僕が勝手に脳内で読んでるだけで、本当の名前は「サボテン」さんだ。


「って、いちゃいちゃはしないよ!?」

「えぇ〜そうなんですか。なんか初々しいですね〜」


サボテンさんはそこまで言うと、僕にしか聞こえないぐらいの小さな声で囁いた。


「でも、あまりに何も無いとカズが愛想尽かしちゃうかもですよ〜?

この世界(・・・・)には魅力的な女性、或いは女性アバターを使う女性より魅力的な男性はいっぱいいますからね〜」


 別にカズが他の女の人とくっつこうが……そう思ったところで、僕はなにか引っかかる。


「なんかヤダ」

 そう思ってしまう僕がいる。そのことを咄嗟に否定しようとして、思った。

(そもそも僕に恋人役を依頼しておきながら他の女とイチャつくとかありえないよね!?)


「アズちゃんはかわいいから心配ないとは思いますけど……でも、うかうかもしてられませんよ〜?

もしかしたら……」


 サボテンさんは続きを言わなかったけど、僕には続く言葉がわかった。


 「浮気されちゃうかもですよ〜」とかなんとか、そんなとこだろう。


 でも、僕とカズは「恋人役」という関係で、別に実際に付き合ってる訳じゃない。だから、カズが別の誰かと……


 でも、僕と和明は幼馴染で親友で、ここまでずっと一緒だったんだ。そんな僕を差し置いて1人だけとか和明はそんなことしない……


 でも、果たして本当にそうなのだろうか?それは僕が甘えてるだけじゃないのか?和明だって年頃の男子なんだし女の人と付き合いたい可能性だって……


 いやいや、そもそもこの状況は和明が僕に頼み込んできたからなんだ。それにさっきもかわいいって言ってくれたし……


 でも、僕はこのVR機器を貰ってるわけだし、現在進行形で「彼女がいる証明」も出来ている。そうすると僕は……


 何故か頭が上手く働かない。考えが全然まとまらない。

 僕は、ほぼ無意識でサボテンさんに問いかけた。


「僕、どうすればいいかな……」


「うーん……そうですねぇ。かわいさを更に磨いてみるのはどうでしょう?

あっ例えば、「僕」を「わたし」にしてみるとか」


「なるほど……それいいかも……」


 まぶたが重い。

 ふと時計を見ると、0時を過ぎていた。

 そりゃ眠いはずだ。頭も動いてないのだろう。


「サボテンさん、ごめん今日はもう落ちるね……」

「わかりました〜おやすみなさい〜」

「うん……おやすみ……」


 そう言って僕はログアウトして機器の電源を切ると机の上に置いて、そのままベッドに飛び込んだ。


「かわいさ……かぁ……」


 そこから先を考えるより先に睡魔が僕を襲う。


 僕はそれに抗うことなく、夢の世界へ落ちていった。


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